第七章『連合艦隊ついに勝つかな?』
第七章『連合艦隊ついに勝つかな?』
勤め人になった少年は、またしばらく妄想戦記からはなれることになる。
何しろ妄想することが山のようにあるから…
中古でもいいから車が欲しい。
その車で隣の課のあの子をドライブに誘って…
夕食は保土ヶ谷バイパスからちょっと入った『ハングリータイガー』
まだファミレスなんかほとんどない頃、この店は若者の収入でいける
ハンバーグがメインのちょっとこじゃれたデートコースの名店だった。
車がないといけないけど…
そのままのいきおいで『モーテル京浜』だよなー。
少年はある意味至極健全な妄想の世界に没入していた。
ある日のこと、読書好き、うんちく好きの上司が一冊の本を
少年…この時点では青年というべきかもしれないがこのままいく…に渡した。
『君はこういうの好きだろう』
入社以来自分の性質について必要以上に露呈させたつもりのない少年は
大人の…上司の目というものに驚かされることになる。
『連合艦隊ついに勝つ』高木彬光…
そこには少年がずっと頭の中に抱いてきた『もやもや』が
本という形になっていた。
日本海軍の悔いなき戦い…ミッドウエー…ガダルカナル…レイテ沖…
何度読み返しただろうか、少年は一つの答えを得たように思った。
長い間の妄想が解けていくような気もした。
本当に悔いのない戦いなのか?…と考えが及ぶには
まだ歳月が必要だった。元号が代わるほどの…
発表順だと逆になるが『地には平和を』小松左京
『タイムスリップ大戦争』豊田有恒…を経て
『架空戦記』の一大ブーム。
…それが終焉を迎える頃、団塊と呼ばれる世代に属する『少年』は思う。
何百冊読んだろうか…それなりに楽しませてもらった。
ちゃぶ台返しをしたくなったものもずいぶんあったけど…
だが、真にこれだ!という作品はまだない。
これから出るかもしれないが、そろそろ明日眼をさますとは限らないと
いうことを自覚せざるを得ない少年である。
架空戦記をつくろう!…書こうではなく…
人がどう見るかはこの際無視。
自分が納得し、自分が満足する、自分の自分による自分のための
架空戦記を…
少年は毎晩日本酒に換算して五合ほどの酒を飲む。
アルコールにしびれていく頭で考える。
まずは日露戦…だな。
つづく
ここまでおつきあい頂いた皆様ありがとうございます。次章からようやく戦記が始まる…かも知れません。日露戦争の陸戦になる予定です。海戦も好きなのですが、それはやはり太平洋戦争でやりたいのでまだしばらく先になると思います。今後とも辛抱強くおつきあいください。