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第四十六章『それぞれの秋』

第四十六章『それぞれの秋』


1905年の夏は全国的に雨が多く、日照不足による米の不作が予想されていた。

満州から続々と『凱旋』して来た兵士達は史実より一か月ほど早く故郷に戻っていった。

東京青山練兵場…後の明治神宮外苑、神宮球場や国立競技場がある所…では

幾度も観閲式が行われ、見物人が青山の野を覆って一応の戦勝を祝った。


諸般の事情により、椿の軍は故郷となる北…樺太へ直行していった。

そこで(政府ぐるみで)戸籍等をねつ造し、日本人として新たな道を歩むのだ。

内地から離れ、全く新しい領土故にやりやすいだろう。

椿は出現させた十三万余の将兵のうち、旅順と奉天で三万五千を死なせ、一万二千の

負傷者を出していた。特設機動第一師団のみは警備部隊として韓国北境に配備されて

いるが、八万の新たな日本人が樺太(受け入れ態勢が出来るまで一時北海道)に移住

していく。そのための準備資金として椿の残してあった千五百八十万のポイントを

投入した…現在の約八百億円、少しは足しになるだろう。二十万は備蓄が尽きた

タバコなどの消耗品に使ってあった。これで十億ポイントはきれいさっぱり使い

果たしたことになる。


椿は政府と相談の上、樺太全島を一種の特別行政区とすることにした。

『石油開発』を国家事業として進めるのだ。エネルギー源はまだ石炭が全盛だが

ほどなく来る石油の時代に備えるべきことを説明してある。

史実では1970年代にはオハ油田を中心に年間二百五十万トンの産油量があった

樺太の領有…これが歴史にどんな影響を与えるか…


椿の軍の観閲式…選抜された三千名…が、もちろん天皇や皇族の来臨なしで

行われたのは十月十日のことだった、一個連隊規模のそれに集まる見物人もあまりいない。

ずっと付き添っていた護衛小隊を含め、居並ぶ将兵は椿の与えた

『よくやってくれた!』の一言だけで随喜の涙を流す。

彼らはそのために戦って来たのだから…そういう設定なのだから。


入院中の傷病兵も椿が見舞うとみるみる回復…気持ちは大切…する者が多かった。


十月も終わりに近づいたある日、椿は護衛小隊に近日中の任務終了を告げた。

レイとミサ二人の女中にも…


「ご報告したいことがあります」


副官の矢向中尉がミサを伴い緊張の面持ちで前に座ったとき、椿は理解した。


「樺太は寒いだろう。身体に気をつけるようにな。それとミサ、鍛えた技で

矢向をマッサージしてやれよ…覚えさせてお互いにするのもいいかな」


顔を見合わせて赤らめる二人…もうしてるのかい。


レイは…と見ると、庭を掃き清めているレイを何気なく手伝う下士官の姿が…

ちょっと渋いタイプの高倉軍曹か、不器用そうに見えてなかなかやるもんだ。

椿は基本的にそういう面はまるで鈍く、改めて見るまで気がつかなかったのだが

自分の生み出した存在が、それぞれに動き出していることを少し寂しく、

そしてうれしくも感じていた。


椿が去ることを聞きつけた長岡が酒を持ってやって来た。料亭から肴も取り寄せると

いう。山県達も出来たら顔を出すそうだ…べつに出さなくてもいいが。


つづく



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