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第三十八章『奉天へ…3』

第三十八章『奉天へ…3』


北からの強風にあおられる雪の中から現れた日本兵の大群を目にして、

微弱なロシア軍奉天守備隊の将兵は絶望せざるを得なかった。

彼らは教えられていた。『冬は我らの守護神である。温帯で育ったマカーキは

満州の冬の寒さに耐えられはしない』…嘘だ。奴らは貧弱な防寒装備を身につけ

平気な顔で攻めてくるじゃないか。絶望がモラルハザードにつながったとき

軍隊という組織は崩壊する。


実際には…史実では、多くの日本兵が栄養不足もあって凍傷に悩まされていた。

国家同様、個々の兵士達にとっても一杯いっぱいになってはいたのだ。

だが、国家と個人の一体感という、新生国家特有の…そしてこの先は徐々に失われて

いくであろう…高揚感と、負ければ国が滅びるという『国民戦争』の意識とが

ギリギリのところで日本軍を支えていた。


奉天操車場に日本兵という報告は、脱出の道が閉ざされたという宣告に等しかった。

『ほーら、いわないことでは無い』…クロパトキンの嘲笑が頭に響く…

グリッペンベルグはなかば無意識にホルスターから拳銃を抜き出した。


南の戦場でロシア軍が混乱の中で後退運動を起こしたとき、右翼の黒木第一軍が

ロシア軍前哨陣地を突破して猛進を開始した。後は将棋倒しのように中央正面の

ロシア軍が崩れ、突出部にいた部隊は取り残される恐怖から統制をなくし我勝ちに

退却をしようとした。ロシア軍得意の後退戦術は後方が安全なときにのみ有効だ。

だが今回その後方は…

奥第二軍の左翼と、乃木第三軍の右翼が秋山支隊の陣地…ボロボロだがまだ

保っていた…に届いた。抵抗を続けようとした一部部隊を第八師団…初めての

実戦参加で猛り狂っていた…が殺戮した後、包囲陣の中は負傷者のうめき声と

『マツヤマ』の大合唱が満ちることになった。


奉天前面の堡塁群は多くが背後からの襲撃で陥ちており、行き場をなくした

ロシア軍は投降するか唯一開いている東北方向に逃げるしかなかった。

だが、なんということか、そこにも日本軍が待ち構えていた…というのは

正確ではない。それは東方の山岳地帯でロシア軍の小陣地群を一つずつつぶし、ときには

逆襲を受けたりして、難行苦行の末にヨロヨロと平野部に出て来たばかりの

『鴨緑江軍』だったからだ。すわ、大逆襲?と身構えた日本兵の眼前でロシア兵が

精根が尽きたように座り込み、あるいは手を挙げるという意想外の光景が展開された。

よく見れば武器も軍帽も身に着けていない者が多い。

『マツヤマ』の合唱を聴いた鴨緑江軍の将兵は狐につままれた気分だったろう。


それでも約二万が鉄嶺まで逃げ延びた。だが武器を…いや、規律をなくした兵は

すでに軍隊とはいえない。『日本軍追撃』の声に、鉄嶺守備隊ともどもさらに北方に

向けて潰走を始めた時点で満州に『ロシア軍』は存在しなくなった。


ロシア軍の損害…死者、約十万。捕虜約二十万(負傷者約七万を含む)


日本軍の損害…死者、約四万。負傷、約四万五千


『奉天会戦』…ロシア側呼称『沈旦堡会戦』の結果はアメリカ大統領

ルーズベルトを再度の講和斡旋に乗り出させたが、再度の拒否にあうことになる。


『まだロジェストウェンスキーの艦隊がある』

燃料…石炭の補給問題でいまだにマダガスカルに留まっているが、これが必ずや

マカーキに鉄槌を…


負け戦の指導者ってみんなそういう感覚になるのだろうか。

洗いざらいつぎ込まないと気が済まない…戦艦『大和』を沖縄に向け

特攻させたように…


さらに、ニコライ二世の言い分はこうだ。


『マカーキはいまだ、朕の帝国の領土に一足たりとも踏み入れていない』


そうさ!だからこそ…だ。


つづく

まだもう少し続きますが、そろそろ垂れ流しっぱなしのストーリーの整合性が気になり始めました。一度読み返して、誤字脱字や言い回しの適否、語句の選択も含め、チェックしようかなと思っています。ラストで…日露戦のという意味ですが…収拾がつかなくなるのは避けたいですから。皆様におかれましても気がつかれたことが有りましたら、容赦なくご指摘下さい。たいていの場合すぐ謝って直すと思います。投稿の間隔が空くかもしれませんが、よろしく御願いします。

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