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第三十七章『奉天へ…2』

第三十七章『奉天へ…2』


レクイエムが聞こえた…ような気がする。


「……どうしました、椿さん」


「ん…コーヒーが飲みたくなりまして…矢向中尉、従卒に言ってくれ」


大本営会議室、戦局を検討していた一同が心配そうに椿五十郎を見る。

満州軍司令部からの連絡によれば、状況は惨烈である。

左翼から侵入して来たロシア軍は今のところ食い止められているが、

敵の増援は続き予断を許さない。右翼もこう着状態で、このままでは決定的敗北には

ならないまでも勝利はおぼつかない…両者相打ち共倒れという,実質日本軍の負けに

なるかもしれない。


山県有朋、寺内正毅陸相、長岡外史参謀本部次長達が暗くなるのもわかる。


タバコを一服、近頃では見慣れた椿の使い捨てライター…主なメンバーには

『PL法』のラベルをはがしたものを一つずつプレゼントしてある。

インスタントコーヒーも、やはり『ゴール…ブレンド』のラベルをはがして

持ち込んでおり、自分用に入れさせている。


コーヒーが来た、一口含んで少し気を落ち着かせる。


『残りは千六百万ポイント…か』


一息ついて椿は言った。


「最後の一手を打ちました」


『奉天』…十七世紀に満州族が首都をおき、後に『清帝国』となって北京に首都が

移ってからも副都として重要視されて来た。二十世紀初頭の現在はロシア帝国による

満州経営(侵略)の中心地として、政治、軍事の一大拠点になっていた。

わずか数年の間にヨーロッパ風の家並みが並ぶ区域が出来ており、

ここを手放すまいという強固なロシアの意志を如実に表していた。


その奉天の総司令部でグリッペンベルグ大将は信じ難い報告を受けていた。

連続する砲声、着弾音によって、青白い顔で報告してる将校の声も途切れがちだ。

その砲声は露日両軍が激闘を繰り広げている南方ではなく、北…北西の方角から

聞こえてくる。


「日本軍十万が背後に?…馬鹿な!」 そう、馬鹿な話だ。


「あり得ない…」 そう、普通なら。


「事実であります、閣下。天候が急に悪化して視界が閉ざされつつありますが、

奴らはここ奉天に向け進撃中なのは確かです。守備隊だけで阻止するのは…」


「北西…?ミシチェンコ騎兵団がいなくなって、右翼の哨戒線は確かに薄くなっていたが、

日本軍はその隙をついて迂回して来たのか。だが、どこからそんな兵力が…?

南で我が軍と押し合いをしているのは幻だとでもいうのか?………まさか東?

日本軍右翼は砲撃はともかく動きは鈍く見える。こちらも牽制しかしていないが…

その右翼『クロキ』の軍が迂回して来たとしたら…遼陽でも『クロキ』はそれをやった。

今度は戦線の反対側、東の端から西の端まで移動しての大迂回をやったのか」


ドイツ系らしく生真面目かつ強引に理屈を付けて自分を納得させたグリッペンベルグだが

次の瞬間、これまたドイツ系らしくポキッと折れた。


「ペテルスブルグに打電せよ。『余は包囲されたり』と」


「全軍に命令『作戦中止、北方の敵を排除しつつ鉄嶺まで移動、戦線を再構築する』…」


椿(五十一郎)は決定的戦機を捉えて『この一手』を打つつもりだった。

ただし、それは歩兵一個師団、砲兵一個旅団程度の規模であった…残りの

能力ポイント、四億とんで六百万を考えるとつい控えめになってしまう。


だが、飛来する砲弾を目にして、自分の死を直感した時点で制約を外した。

椿の分身、五十一郎の死はゲームオーバーではないが、持ちポイントが

半分になる設定だ。『最低限残して使っちゃおう』


もしかすると陥ったかもしれない、『所要に満たない戦力の逐次投入』という

戦術的愚行はこうして避けられた。


奉天北西十五キロに出現したのは、特設歩兵第五十二と五十三の二個師団。

特設砲兵第二旅団、そして特設第二機動師団…合計七万五千(内戦闘兵力六万)で

あった。


使用ポイント…歩兵、二億二千万

       砲兵、六千六百万  

       機動、八千八百万…で計三億七千四百万


チャリリリーン!

残…差し引き三千二百万の半分、千六百万ポイント。

椿が安楽に余生を送るには充分かもしれないが、行動の選択肢は著しく狭められた。

妄想の旅をさらに楽しむにはには、ミッションをコンプリートするしか無い。


椿北方軍(仮)には単純明確な行動目的がインプットされている。


『奉天へ』


つづく



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