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第三十五章『沈旦堡は燃えているか』

第三十五章『沈旦堡は燃えているか』


史実の『黒溝台会戦』は日本軍が作戦目的を黒溝台の自軍陣地の救援に

おいたことによる呼称である。ロシア側の呼称は『沈旦堡会戦』…

攻勢作戦の中心軸をそこにおいたからだ。両者はともに秋山支隊の陣地であり

どちらでもいいのだが、『ちんたんぽ』という言葉の響きが日本人にはちょっと

使いづらさを感じさせる気がする。女性なら顔を赤らめるかも…んなこたぁないか。


史実のおさらいをすると…


1904年十二月、満州に着いたグリッペンベルグ大将はロシア軍の半分

第二軍十万を指揮することになった。彼は攻勢作戦を成功させることで

『退却将軍』クロパトキンの鼻をあかしてやるつもりだった。

偵察の結果、日本軍左翼に薄弱な部分を見つける。そこ、沈旦堡を突破して

戦線の後背に回り込み一気に日本軍総司令部を陥れよう。

1905年一月二十五日に開始されたその作戦はほとんど成功しながらも、

クロパトキンの消極的裏切りによって中止せざるを得なくなった。

約束された第一軍の攻勢および第二軍への増援が実施されなかったのだ。

怒り狂ったグリッペンベルグは辞表を叩き付けロシアに帰ってしまう。

『クロパトキンは自らの保身の為、私の成功を望まなかった。彼はロシアの勝利を

敵に売り渡したのだ』…真相はどうあれ結果はそうなった。

『黒溝台会戦』は日露の陸戦における、ロシア勝利の最大のチャンスだったと

されている。


最初の警報は十日ほど前、一月十一日にはいった。

『北方、長春付近に日本騎兵二万が活動しあり。数カ所で鉄道線が破壊された』


過大な数字…だが、永沼挺身隊と特設機動師団が同時期に多方面で活動した為

目撃情報が重複、累積されてこんな報告になったものだろう。


すでに対処はした。ミシチェンコ騎兵団を差し向けてある。

ミシチェンコ中将は怪訝な面持ちで命令を受けとった。

『アキヤマは自分の陣地にいるのではなかったのか?』

先の遭遇戦の後、ミシチェンコが放っていた多数の分遣隊は混乱しながらも

日本軍前線の様子を偵察して戻って来た。彼らの報告によれば、日本軍左翼は

アキヤマの騎兵と若干の歩兵部隊…実は乃木第三軍の先遣隊で、その後間もなく本隊の

進出があったのだが見逃された…が薄い陣を張って守っており日本軍前線の弱点と

思われるということだった。それがいつの間に遥か北方に?

ともかくミシチェンコ騎兵団は、その『遥か北方』に向けて去った。


第二の警報は三日前、ロシア軍左翼(東)の山岳地帯に日本軍二万ほどが現れたことだが

その活動は遅々としており、少し大規模な威力偵察では…と判断された。

たいした問題ではない、日本軍が戦力を分散してるのは結構なことではないか。

それでも二個連隊、五千ほどの兵をその方面に増派して対処しておく。


グリッペンベルグは攻勢作戦に出るつもりだった。準備も完了しようとしている。

本国のいう五十万体制への増派という話は眉唾物と思っていたし、そこまで待つ必要も

感じていない。事実、当初はあきれるほどの勢いで送られて来た増援が年を越える頃から

めっきり減って来ている。兵隊だけ送れば良いというものではない。膨大な物資の調達、

集積、移動…ロシア帝国の硬直し腐敗した体制にとっては手に余ることだった。

いかに鉄道大臣ヒルコフが奮闘しようと、それぞれの立場の官僚達の無意識の

サボタージュまでカバーできる訳ではない。皇帝の『鶴の一声』の余韻が去るにつれ

流れは急激に細くなっていった。


それでも三十二万の兵が揃っている。二十五万程度と見込まれるヤポンスキーを

叩きのめし、黄海に掃き出すのに十分な戦力ではないか。


作戦計画はシンプルで徹底的なものだ。十六万の兵で脆弱な日本軍最左翼の陣地…

沈旦堡を突破する。陣地奪取にこだわらず横をすり抜け後方に出る。

後は日本軍総司令部めがけて突進するだけだ。残余の兵力で東と中央正面の敵を

押さえておく…複雑で難解な要素はどこにもない。

優れた作戦とはそういうものである。


要するに史実の黒溝台会戦を五割り増しの戦力で行おうとしているのだ。

そしてペテルスブルグからの騒乱の二ユースが号砲の引き金を引く。


「戦勝の報告で皇帝陛下の御心を安んじて差し上げよう…

作戦を発動する!第一目標…沈旦堡」


つづく

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