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第三十三章『前夜祭』

第三十三章『前夜祭』


1905年1月22日、椿が期待していた事件は史実通りに起こった。

数日前、日本の上層部に『一手うっておきました』とふいたのがホラに

ならなくてよかったー。


その日、ロシア帝国の首都ペテルスブルグでは労働者、市民によるデモが

行われた。指導者はガポンというギリシャ正教の司祭で、穏健な組合の相談役的な

立場にいたとされている…国家秘密警察の工作員という説も…。デモは強硬な抗議と

いうような性格のものではなく、皇帝に市民への福利を願うことが中心の

『請願デモ』とでもいうべき穏やかなものであった。


だが、いくつかの偶然と必然によりこのデモは近衛兵部隊の銃撃とコサック騎兵の

サーベルのもとにさらされることになった。『冬の宮殿』の前の広場で始まった

騒乱は、たちまち都内各所に飛び火した。


『皇帝が軍隊によって、誓願におもむいた市民数万人を殺傷させた』


数字はだいぶ誇張されてると、椿は思った。しかし、それはほぼ事実だったのだ。

改変の効果がそこに出ていた。ロシア軍は史実より十万近くも多い損害を出している。

それは総兵力の五パーセントにあたる数値だ。ロシア帝国の栄光は『外と内』に

向けられた銃剣によって支えられている…とされていた。被支配民族を多数かかえる

ロシア帝国は広大な領土の各地に膨大な治安維持部隊をおく必要があった。

そこから五パーセント、さらに満州野戦軍への増援に多くの兵を引き抜いていくと…

すでに反乱の気配は各地で広がっており、政府指導者層の神経を痛めつけていた。


1月22日『血の日曜日』事件は一種の過剰反応だったが、史実を遥かに超える

規模となり、それがまた反政府活動、革命機運を燃え盛らせる連鎖反応を

引き起こす結果になっていった。


『ロシア皇帝市民を殺戮』…情報は伝わるごとにセンセーショナルに増幅する。

世界はロシア(皇帝)を非難し、その分日本に対し好意的となった。


ニコライ二世はたちまち気分を変え、これ以上の満州への増援は取りやめ…どころか

一部輸送中の部隊まで各地の警備にまわされることとなった。


「椿さん、これが『一手』でしたか!恐れ入りました」


「土台を作っていた明石大佐の功績…欧州各国の革命党への援助、

働きかけがなければここまでの成果は無理でしたよ」


「諜報の重要さが身にしみて分かりました」


陸軍が、いや日本帝国がそれを忘れなければねえ…


「新聞などでは戦争のさなか、皇帝にたてをつき騒乱を起こすとは不忠、不逞の

輩であるなどと書いてあるところもありますな」


ためいき…この国のマスコミが1945年の破局に至るまでにおかした

大衆迎合、煽動、官への隷属による罪を思い出す。英タイムズまでとは言わないが

少しは成長してくれないとなあ。開戦前、最終的には『開戦論』に転向したとはいえ

ひとり『非戦論』を展開していた黒岩涙香の『萬朝報』がわずかな救いか…ことの

当否は別にしても…


「長岡さん、新聞屋さん達には、日本の天皇…陛下とロシアのツアーリの違いがわかって

いないのですよ」


「といいますと?」


「ふう…『立憲君主』である陛下の権力は主として形而上のものです。実際に権力を

行使するのは内閣、政府ですよね。ロシア皇帝、ツアーリはすべての権力を個人で

所有する『専制君主』です。憲法をもたず、政府はただの側近にすぎません。

両者は全く別のものです。ルーズベルト大統領は『ロシア帝国は専制であるが故に

この戦争に勝てないだろう』と言ったそうです。銘記してください…

『専制国家は近代国家たり得ず、必ず滅びる!』…日本が勝てたらこのことを

国是の一つに据えて欲しいですな」


ん…流れから言って仕方ないとはいえ、まともな方向に行っちゃうなあ。


在満ロシア軍の増加は三十万強といったところで打ち止めになった。

史実の奉天会戦のときとほぼ同兵力だろう。むろん大戦力であることに

変わりはないが『なんとかできる』…かもしれない数字だ。


グリッペンベルグがどう考えるか?これ以上の増援が見込めないならば、

すでに日本軍を凌駕しているはずの現戦力をもって攻勢に出てくる可能性は高い。


「大決戦が近い…と思います。それも起こるとすれば、ごく近々に」


「満州軍司令部に訓電を送りますか」


「現地でも用意は怠りないでしょうが、念を入れた方がいいですね。

ああ…良かったらこの文言を入れてくれるとうれしいですが…

『皇国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ』…と」


つづく




作者はパソコンのワープロ機能を使い始めて日が浅く、情けないことに人差し指一本で打っています。コンピュータ自体との接触はかなり昔からでまだ『マイコン』などと言っていた時代。某ア…キーの創設間もない頃、少し関係したりしました。パソコンも早期にPC-98を手に入れたのですが…早期すぎてウインドウズが使えない…エロゲ…専用機だったのでマウスしか使いませんでした。その後しばらく遠ざかり現在に至っております…よかったら励ましてやって下さい。

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