第三十一章『大戦略の決断』
第三十一章『大戦略の決断』
「楽しくなければ戦争ではない」
早稲田の自宅、ランプの下でこたつに脚を突っ込みながら…櫓ごたつだから
そんなに奥までは突っ込めないが…椿は本音だが暴論をつぶやいた。
女中のレイとミサは酒の用意をさせた後、引き取らせてある。
手酌でやりながら今後の自分が採るべき『大戦略』について考える。
別に大は要らないか。
旅順、沙河、そして今回の対ミシチェンコ騎兵団の勝利が楽しくない訳ではない。
話しに聞いていた『提灯行列』なるものも、微笑ましく見物した。
極秘…の存在ながら椿は大本営の中で重きを増している。
陸軍のみならず、海軍側要員の山下源太郎大佐を通じ、近いうちに海相の
山本権兵衛にも会う予定になっている。旅順艦隊の早期撃滅、沙河戦勝利の影に
『御使い』ありとの情報は少しずつ日本の軍、政、官に広がっていっている。
山本には翌々年イギリスで出現する戦艦ドレッドノートについて話し、建艦計画に
ついて意見を言うことになるだろう。
だが…と思う。戦略を今一度検討する時期ではないか。
対露戦のことではなく、これから自分がどうすればこのゲームをより楽しめるか…
「予見できる将来において、より良い日本の形を作る」
…と言ってみて失笑する。それは手段であって目的ではない。
『より良い』の前に、自分が楽しむための…という前置きをつけてなんとか…だが、
『より良い』ではなく『都合の良い』の方がしっくり来る。
そもそも『より良い日本』って何だ?
鎖国の昔には戻れないとしたら、この東洋の片隅でささやかな繁栄を夢見て
穏やかな成長を目標に地道に努力する。諸外国…列強だけでなく近隣のアジア諸国とも
協調を最優先にして『侵さず、侵されず』の関係を目指していく。
できるか?…短期的には不可能ではないだろう。だが『全方位等距離外交』が
可能なのは国土、資源、国力すべてにおいて他の一国、いや二国を凌駕する国家だけだ。
国際関係という現実がある以上、小国がそれをするのは鎖国に等しい。
いずれかの陣営に組み込まれずに済むはずがない。地政学上の理由でほおっておかれる
ケースもあるだろうが、それは十八世紀までの日本がそうであったように成長どころか
停滞から閉塞、破綻へ向かうことになろう。
「だいいち、つまらん!」
この時点でこの世界の二十一世紀初頭の日本がどうなっているか予測は難しいが
良かろうが悪かろうが、椿にとってはとりあえずどうでもよいことだ。
ミッションのことを忘れてる訳ではない。このイベントをクリアした後に
次の更なる大戦争にチャレンジすることが大前提なのは確かだ。
その場合問題になるのは、『闇の帝王』としての椿のこの国に対してふるう
『影の権力』の大きさと質ということになってくる。
別のシナリオもある…もしも三個師団をもって、東京………いやいや、ここでは
これ以上考えまい。
「ふむ、だいぶまとまって来たな」
スムーズすぎる勝利はありがたみを失いかねない。
日本帝国が『御使い』に頭を下げ、手を合わせる状況が出現することが望ましい。
それは危険の招来をも意味するのだが、別にかまわないだろう。
ラスボスとの決戦に危険は付き物!それでこそ楽しい。
ドラ…エ2、シドーにくわえた最後の一撃!滂沱してながめたエンディング…
桃…12関西編,九十九年目の十二月にくらった『とりかえっこカード』
ディスクを割って流した悔し涙…
能力ポイントをつかう、ここぞ!という場面が必ず来る。
タイミングとつかう量の見極めが大事だ…全ポイント投入は簡単だが
それでも失敗したとき、自分だけでもこの世界で生き延びる術はとっとかないと…
この戦争の醍醐味はその決断にかかっている。
つづく