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第二十九章『特設機動師団挺身せよ』

第二十九章『特設機動師団挺身せよ』


満州の冬は寒い。零下二十度はざらで、風が吹けば体感気温は零下三十度。

椿は若い頃に生協の配送倉庫でアルバイトをしたことがある。

搬入された冷凍食品を冷凍庫に詰め込んでいく作業だったが、そこの気温が

零下三十度…十分も入っていると頭がくらくらしてきた。外に出ると

真冬の早朝の吹きさらしの倉庫が『あったかいー』と感じたものだ。


そんな満州の野を騎馬の大集団が進んでいく。騎兵千五百、乗馬歩兵…

名称が矛盾してるみたいだが…千五百、馬車に乗った工兵と砲兵が

三百ずつで合計三千六百。野砲二十四門。車輪をつけた繋駕式機関銃(砲)

四十八門、馬匹が五千。


後の機械化部隊と同様に火力と機動力を併せ持つ、歩騎混合の戦闘集団である。

『特設機動師団』…ちゃりーーん…八千八百万ポイント

残…四億とんで六百万


椿(五十一郎)は馬に乗れないので馬車に乗ったり、歩いたりしていた。

乗ったままだと足が凍る恐れがあるから…『使い捨てカイロを持って来ておいて

本当に良かったー』


この時代の強健な日本陸軍兵士や、同様に設定してある『御使い』の兵と違い

多少鍛えてあるとはいえ、所詮平成のふぬけ親父である椿にとってはかなり厳しい

行軍だ。司令部で木炭ストーブにあたっていた方が身の為だったかもしれない。

しかし椿は会ってみたかった。日本軍最左翼で同じような機動集団を率いている

人物に…


李大人屯という場所に、その秋山好古少将率いる『秋山支隊』の司令部はあった。

秋山支隊はそこから西に沈旦堡、黒溝台という拠点を設け三十キロの正面を守っている。

四千ほどの部隊には広すぎる長さだが、日本軍全体がロシア側にあわせて長大な戦線を

張っていることと、次の作戦計画の為に編成替えをしているので無理を承知の配置だ。


十二月五日、李大人屯に着いた椿は日本軍のみならず、ロシア軍将兵からも

日本騎兵の代名詞として知られる『アキヤマ』と酒を飲んでいた。

ちなみに、日本の捕虜収容所の代名詞が秋山好古の出身地、四国伊予(愛媛県)の

『マツヤマ』であるのは言葉の並びとしてもちょっと面白い。


秋山が酒好きであることを知っていたので秘蔵のワンカップ酒二十本を持ち込み

ふるまった。戦闘中でも水筒に入れた酒を飯代わりに飲むという秋山はつよい。

肴もほとんど必要としないらしいが椿の出したツナ缶は珍しいのか箸をのばした。

日本人離れした長身と、白人の血が入っているのでは?と見える顔立ち。

口数は多くないが、ともに飲むものを楽しくさせるオーラが確かにある。

戦前、極東ロシア軍に招かれて視察にいった秋山が酒宴のたびにロシア将校に

友人を増やしたという訳がわかる。毎日五合の酒を飲む椿はそれを確かめに

来たようなものだ。大男が二人、顔をてらてらさせて酒を酌み交わす様は

『鬼の酒盛り』のようであったと、後に従兵が語ったとか。


総司令部の認可を受けた作戦計画は次のようなものだ。

特設機動師団は一時的に秋山支隊に編入、支隊が計画している敵戦線後方撹乱、

情報収集のための挺身隊に参加する。

進出目標は長春までとして、行動期間は約二か月を見込む。途中適宜分かれて

鉄道線の破壊などを行う。『敵中横断三百里』…である。



秋山が部下の長沼秀文中佐以下、百八十騎ばかりでやらせようとした長距離挺身

作戦をスケールアップさせる訳だ。

このような作戦は戦力が増えたからといって、必ずしも成功率が上がることは無い。

ただ、椿は敵将グリッペンベルグを刺激してみたかった。どう反応するか…

それによって判断材料を増やすつもりであった。。はたして『黒溝台会戦』は

起こるかどうかの…


特設機動師団長の本間大佐が長沼とともに部屋に入って来た。

椿の軍は、椿が最高位で少将…と決めたので、ほかの者はたとえ師団長でも

大佐である。(日本陸軍では師団長は中将が務める)

椿は以降の作戦行動には加わらない。総司令部でやることもあるし馬に乗れないし…


「長沼さんと細部の詰めをしました。八日未明に出発の予定です」


名目上支隊の傘下に入った本間は秋山に向かい報告する。


「ごくろう…おまい達も飲むかい?」


「十二月…八日未明か。…秋山さん、座興ですが本作戦の秘匿名を思いつきました」


「ほう、なんとします?」


「ニイタカヤマノボレ、ヒトフタマルハチ」


つづく





ようやく妄想戦記らしい章タイトルが出てきました。思いつくまま、あちこち話がとぶので次はどうなるか分かりませんが…

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