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第二十四章『ロマンシング沙河1』

タイトル名の『沙河』の読みは、サガではなくシャカなんですが、

まあその辺は雰囲気ということで…

第二十四章『ロマンシング沙河1』


旅順の陸軍司令官ステッセルはようやく目を覚ました。

昼は絶え間なく、夜はやや少なくなるというものの降りそ注ぐ砲弾。

要塞はともかく旅順市街に落ちるそれは、非戦闘員である市民にパニックを

引き起こす。また、将官クラスには家族を同行させている者も多くいて、

妻達は看護婦として働いていたが、多数の傷病者が発生する惨状に彼女達も

心身共にまいりはじめていた。

とくにステッセルの妻、ウェラのヒステリー気味な厭戦の訴えは日夜つづき

実際の戦争以上に彼の疲れを倍増させた。

ウオッカの力でようやく眠りについたというのに、こんな早朝に起こされるとは…


忠実な参謀長レイス大佐が『緊急』の報告をもたらした。

要塞司令官スミルノフ中将とコンドラチェンコ少将が戦死した…

昨日まで要塞全体をまんべんなく目標にしていた日本軍の砲撃が

未明から急に北西正面の椅子山、太陽溝などの砲台に集中し始めた。

損害と日本軍の意図を確認しようと急行した二人が掩蔽壕の中で協議中、

ほぼ同時に着弾した三発の重砲弾によって掩蓋を破壊され爆死したという。


実際の要塞防衛の責任者、粘り強いスミルノフ

常に前線で指揮を執り、兵士達に絶大な信望があったコンドラチェンコ

両名の死は、確かに大打撃だ。

自分以外を信頼することの少ないステッセルだが、コンドラチェンコだけは

片腕とも頼んでいたのに…彼が死ぬくらいなら、代わりに消えて欲しい奴らが

いくらでもいる。何かというと、この自分を飾り物のように扱う頑固者の将軍ども…

そして、戦争のことなどなにもわからないくせに、上司の権限をふりかざして

うるさく口を出してくるあのデブ…極東総督アレクセーエフもいなくなって

くれたらどんなにか、せいせいするだろう。


ステッセルは野戦軍の指揮官に転出する予定だった。で、部隊はいちはやく

北方に移動していたが、本人が移動する前に遼東半島は陸海共に遮断され、

旅順の陸軍司令官として残らざるを得なかったのだ。


総督アレクセーエフはロシアの極東侵略政策の急先鋒で、皇帝ニコライ二世に

満州、朝鮮経営の魅力を吹き込んでこの戦争を引き起こしたとされる、

『二メートルのベルト』と揶揄される身体は、ロシアの膨張、肥大を文字通り

体現している。

…などと考えているうちに、もう一つの報告を聞きそびれかけたが、

北西正面の要塞群の外れに位置する小さな高地に、日本軍の攻撃が集中しており

歩兵が頂上付近を占拠しつつある…というものだった。


なんであんな所を…?本防御線から外れているので簡単な塹壕とわずかな監視兵を

置いてあるだけだ。正面攻撃がうまくいかないので、体面をつくろうために攻撃

したのか?ステッセルには、その標高203メートルの禿げ山になんらの

戦術的意義も見いだすことができなかった。


午後…旅順港に浮かぶ戦艦『ポルタワ』が巨大な水柱に包まれた。


その数時間前、椿はある儀式を行った。

『二百三』高地の頂上と結ばれた電話に向かって聞く。


「そこから旅順港が見おろせるか?」


「…見えます!敵艦隊が一望のうちです!!」


大本営、満州軍司令部、連合艦隊旗艦『三笠』に簡潔な連絡が届く。


『本八日未明より、二百三高地に攻撃を指向。午前八時占領。敵の逆襲を

排除しつつ陣地を拡張、午後五時現在確保しあり。観測所設置。

重砲による攻撃で敵艦ポルタワ、レトウィザン、ポベーダを撃沈。

明日以降も砲撃を続行の予定』


封鎖作戦を続けるうち、海軍では『あそこをとれば旅順港内を見おろせるはず』と

いう場所を発見していた。第三軍司令部にも再三要望もしていたが

「陸軍には陸軍のやり方がある』と無視されていた。


二百三高地の陣地は『顔を立てるため』第一、九、十一および第八師団から

少しずつ抽出した予備隊を含めた大兵力と多数の機関銃で強化されつつある。


後は旅順艦隊を全滅させればよいだけだ。連合艦隊は封鎖作戦から解放され

まだ大西洋にも出ていない、ロシア第二太平洋艦隊を迎え撃つ準備を始められる。

要塞本体は坑道作戦でじっくり攻めつぶしてやる。


後知恵を有効利用して、兵力、砲弾をたっぷり用意すれば

まあこんなものであろう。


椿の興味は旅順を離れ、北に向けられる。


ちょうどこの日、クロパキトン大将率いるロシア野戦軍は南下運動を本格化させ、

日本軍の前線に攻撃を開始した。『沙河会戦』の始まりである。


旅順攻撃は椿にとって『まぎれの少ない』戦いだ。使用する戦力も自分の

手の内にあるものがほとんどだから、推移が読みやすい。


だが沙河は、史実からの改変…日本軍に有利だと思う…が、どれだけ影響を

するのかわかりにくい。ロールプレイングゲームでAIの戦闘を見守るような

不安があり、それだけに面白くもある。


要塞攻略や防衛陣地の突破戦ではなく、大平原での正面からの激突。

文字通りの『大会戦』こそ漢と書いてオタクと読む…のロマンなのである。


つづく








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