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第二章『ぐんばつこうぼうき』

第二章『ぐんばつこうぼうき』


その小学校は斜面を台座上に切り開いて作られていた。

開けた東南の低地には低い家並みがごちゃごちゃどこまでも続いている。

大きな建物としては彼方に見える妙に横に長いビルが一つ。

屋上にポツッと小さな昇降口…何かを思わせる形。

教室の窓からそれを遠望して少年は頭の中で声を上げる。

『敵空母、距離八千、砲雷戦開始!』

あまり健全とはいいがたい三年生である。


東西の冷戦が激化しつつある時代。

『日本は東洋のスイスにならなくては』などと

のたもう先生がいる時代。

スイスがどんな国家であるか…歴史的に大量の傭兵を提供してきたこと

皆兵、女性に参政権のないこと、地政学上の位置など、いってるほうも

聞いてるほうもまるで知ってないわけで…

要は中立であることにつきるのだろう。

だがしかし、非武装はともかく中立は悪くないかも…

敵対するものどうし争わせ、疲弊を待って一挙に…

『漁夫の利』『いてきをもっていてきを制す』などの語彙はなくとも

少年の策謀は深まるばかり。


『平和教育』にもかかわらず、

家族から聞く戦争とそれに関連する悲惨な歴史の片鱗…

トラック島の父親は前述したが、母親もまたそれなりのめに遭っていた。

東京日比谷のパーラーに勤めていた彼女は

昭和11年、一部陸軍将兵の起こしたクーデター

2、26事件のおり占拠された地区にいたのである。

戦争末期にはB29のばらまく焼夷弾の中を逃げ惑ったのはいうまでもない。

…にもかかわらず少年は立派な軍事…軍国ではなく…少年に成長?していく、


零戦、大和ときてあとが続かない級友や近所のガキは

もはや語るべき相手ではなかった。

かけ算の九九は七の段あたり少しあやしい彼であるが、

日本海軍艦艇の名を覚えるのにエネルギーは惜しまなかった。


空母あかぎ、かが、ひりゅう、そうりゅう、ずいかく、しょうかく

戦艦やまと、むさし、ながと、りくおく…陸奥、ふそう、やましろ

いせ、ひむかい…日向

重巡洋艦さいじょう…最上、みすみ…三隈

しょせん限界はあったが…


テレビがまだ少ないこの頃、ドラマはラジオで聞くものだった。

『ぐんばつこうぼうき』ある夕刻耳に飛び込んだのは

そんなドラマ…戦記ドラマの章タイトルだった。

ぐんばつ…は抜群の業界用語ではもちろんない。

おそらく『軍閥興亡記』だったのだろう。

こうどうは、とうせいは…といった意味不明な単語がとびかう物語は

さすがにおもしろいものではなかった。

この時点で少年が聞き続けたのは、彼がその名前から

『こう坊』と呼ばれていたという些細な理由からにすぎない。


しかし次の章は『戦艦武蔵』であった。

グオーン、だだだだ、ズガーン…悪名たかい某架空戦記のように

やたら派手な効果音の中、少年の目には米軍艦載機にかこまれ

のたうつ武蔵の姿がはっきりとうかんでいた。

録音技術が未発達の当時あの効果音はどうやって出したのだろう。


ここで少年は武蔵の主砲が警報なしに発砲して、機銃の照準に多大の

障害となったことを知る。

『高度な対空戦闘システムがなければ大和級戦艦といえども沈む』

こうして、小学三年にしては非常に高度な、そして無用な知識を身につけ

妄想の艦隊は次のステップへと歩みを進める。


『まんが』と少年雑誌の戦記ブームである。


つづく



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