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第十六章『輜重輸卒が兵隊ならば』

第十六章『輜重輸卒が兵隊ならば』


『輜重輸卒が兵隊ならばトンボ、チョウチョも鳥のうち』という戯れ歌が

いつ頃のものなのかは知らないが、日本陸軍の補給、兵站の軽視をこれ以上無く

表している。明治の軍はそれでもまだましな方かもしれない。

三十年以上も後、ナポレオン戦争のごとき『食料現地調達』で世界を相手の戦争を

やらされた昭和の兵士達はより悲惨だった。


「国力の制約から正面装備に精一杯で手が回らなかったことは理解してます」


「それでもなお現状は看過できません。『兵站無くして勝利なし』…これを今後の

陸軍戦略の基本にして頂きたい。ただ、今現在は努力目標でよいです」


「それに関連しますが、今の陸軍の苦境の元凶『砲弾欠乏』について責任の所在を

明らかにして、その度合いに応じて処罰をし、それを全軍に周知させてください。

これは絶対条項です」


長岡がおずおずと声を上げた。


「砲弾欠乏が我が陸軍の戦争準備の不明であると言うそしりは、甘んじて受けますが

責任者の処罰という件は戦時中、士気の面でいかがなものかと…決定がなされている以上

組織全体が罰を受けることに…」


「長岡さん。『みんなに責任がある』というのは『誰も責任を取らない』のと

同義なんです。また、責任というのは『ゼロかすべてか』の二者択一ではありません。

その立場、関与の度合いに応じて適宜に差をつければよいのです。そしてこれは

『今だからこそ』やるべきことじゃありませんか」


「………?」


「戦争に負ければ軍どころか国が無くなるかもしれません。責任云々どころでは

ないでしょう。勝ったとしたら…『とにかく勝ったんだからいいじゃないか』という

ことになるのがごく普通、有りがちなことです。その結果、病巣は将来に残り遠からず

母体…日本を殺すことになるでしょう。手術をするなら今!…全陸軍の将兵が砲弾欠乏に

泣いている今だからこそ『一ヶ月の一門あたりの砲弾使用量は五十発』という、およそ

近代戦の軍事常識に対する無知きわまりない計画の責任を追及しなくてはなりません」


「確かに…その通り…かも知れません。この件は私に任せてもらえますかな」


寺内正毅…規律に厳格…すぎるとも言われるこの陸相なら、まあいいか。


「信頼します。ただし、検証無き信頼は双方に益無しと言います。後で確認はさせて頂きますよ」


「承知」


「では、百万の砲弾を提供しましょう。輸送の便を考えると広島の宇品港近辺に

出すのが良いでしょう。場所の手配を頼みます」

チャリーン


各種砲弾、平均で一発六十ポイント…百万発で六千万ポイント

残…五億三千二百万ポイント


史実の陸戦最大の決戦、奉天の会戦で懸命に溜め込んだ砲弾を大盤振る舞いした

日本軍の使用量が二十五万発程というから、とりあえずこれでそこまで行けるだろう。


「私はなにも偉そーにご託宣を垂れるために来てる訳ではありません。これは日本帝国との…

一種の取引です。私の助言がその時点での日本にとり負担となっても、必ずそれ相応の

援助との交換であることを約束します。そう、錬金術は『等価交換』ですから」


出師のときは近い。だが、その前にすること…設定すべきルールがまだいくつか

残っている。宿に戻って夜食の『緑のた…き』をすすりながら、椿の妄想は

尽きない…長岡は焼きそば『UF…』に舌鼓を打った後帰っていった。


つづく



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