記憶
更新遅れてしまいました、すいません
ソフィアが言った方向を振り向こうとした時だった
頭が激しく揺れ、とっさに前にあったてすりに手を置いた
記憶の混ざり合うことが、ここ最近増えてきている気がする
目の前の光景が、別の光景に見えてしまう
例えるならば、ヴェー様が剣の素振りをしている上でキャーキャーと金切り声にも似た声で叫ぶ姫
「かっこいいです私の殿下!!」
【かっこいいです、×○先輩!】
いかんいかん、なぜか別の声が頭に響く
記憶が、今まで少し薄れてきていた記憶がここに来てまた蘇りつつ合った
衣佐奈と呼ばれる少女の行き場のない記憶
頭が立っていられないほど痛くなってきて、てすりに持たれるようにしてしゃがみ込んでしまった
「どうしましたか!?」
「ご、ごめんソフィア、なんか頭痛い」
数秒前まで元気だった主が、突然しゃがみ込んで頭を抑えているのを見てソフィアは慌てている
ごめん、なんかヤバいかも・・・・
【ねぇ衣佐奈ちゃん、わたし・・・】
【かわいそうにねぇ、衣佐奈ちゃん】
【ヤバいんだって、なんか知らないけど】
【息してねぇよ、こいつ」
なに? この声は・・・
頭痛がさらにひどくなってくると、鉄格子に掴まることも出来なくなってきた
「なにか病気かもしれません、いったんお部屋に戻りましょう」
心配そうなソフィアの声が聞こえてくる
「わかった」
ソフィアが回りにバレないよう、手を肩に回してそっと私を立ち上がらせると、先ほど歩いていった方向に歩みはじめる
流し目でヴェー様の方を見ると、やはりというか私の事に気づかずに素振りをしていた
夢を見た
前世の記憶、衣佐奈と呼ばれていた女性の記憶
ここ最近再び蘇ってきている前世の日常の風景
私の父は世界をまたにかける貿易商人で、母はその父の秘書であった
当時バブルによって急成長をなしたらしい私の父の会社は日本最大の貿易会社だった
母とは、25歳のころに共に会社を立ち上げてその内に恋愛へと発展したんだそうだ
次に兄妹
衣佐奈には上に兄と下に妹がいた
上はk大の経済学部に入れるくらいの頭の持ち主で、妹は有名中学へ試験で受かったこちらも頭のいい兄妹だった
衣佐奈はというと、自宅から程近い私立校へと通い高校は公立に入ったという平凡な娘
兄妹の中では平均的な娘であったために、なにかと気まずい環境でもあった
衣佐奈は高校三年の夏にある出来事によって死亡した
これは前にも話しただろうがトラックに引かれたのだ
しかし、しかしこれはたんなる事故と呼べるものではなかった
この事故は意図的に起こされた物だったのだ
衣佐奈は事故で死ぬという不運な死ではなく、殺害と言う必然的な死によって命を断った
何が起こったのか私には分からなかった
リーナ様の異変に気がついたのは、私がヴェザイン殿下を見つけたときだ
リーナ様が突然てすりに掴まったかと思ったら、膝をおつきになって立てなくなっていた
なにがおきたの?
とっさに、リーナ様に大丈夫かと質問しても苦しそうに頭痛を訴えてきた
急いでリーナ様の肩に手を回して立ち上がらせて部屋に戻ろうかと言うときに、今度は完全に意識を失われれたので、これはまずい!と医務室へと急ぎ担いで走った
結果的に風邪だそうで、今日歩き回って熱が上がったのだろうと言われた
今だ意識が戻らず苦しそうにはぁはぁと息を吐いて医務室のベットで眠られているリーナ様は痛々しくて、悲しくなってくる
「リーナ様・・・」
「・・・けて」
そんな時、苦しそうな表情でリーナ様は小さな声で何かを口ずさんでいた
とっさに身を乗り出してリーナ様の口元に耳を近づける
「・・・けて」
「!?」
泣きそうになった
こんなのリーナ様が病気で死にかけたとき以来の感情だった
"たすけて"
そして、ひさしぶりに聞いた4つの言葉だ
「大丈夫です、私はあなたのおそばにいて何時でもあなたをお助けします」
彼女の手をつかんでそう答えるしか私にはなかった
バブル崩壊後に起きた会社の違法大量検挙であった
私の父の会社は脱税問題が合ったらしく、それが見つかったのが私が高校三年の5月
父は仕方なく責任をとって会社を辞職し、賠償金を支払う結果となった
そこから家庭の崩壊が始まった
母は秘書として仕事を続けることが出来たが、賠償金問題で家は一気に貧しくなっていった
退職金だけでは到底支払うことが出来ない金額だったのだ
6月に家を売り払い小さなボロアパートに住み始めた
母はそれでも家族を元気づけながら仕事をしていたが、父は退職という喪失感から抜け出せず一日中家に引きこもる毎日
そんな生活が一ヶ月続いたが、さらに追い討ちをかけるような出来事が起きた
きっかけはささいなことだったが、私が塾へ通いたいと言ってしまった事からだった
受験間近なこの時期から本格的に勉強を始めようとしていた私は授業料はバイトで稼いでなんとかするからと親に話した、しかし反応は私の期待していた事とは正反対驚く回答だった
【そんなお金があるのなら私に渡しなさい、今家計が苦しいのはあなたがしっているでしょう】
【塾なんかよりも今は食料だ、勉強は学校で何とかしなさい】
今の家の状況で大学と言えば国公立、短大、専門学校だって安い授業料のところしか受けられないだろう
私は看護師に憧れて、それになるために学校しらべや何やらで授業料が安く家から近いところさがして、そこがとても倍率が高くて今のままの勉強法ではダメだと思って塾にいきたい、お金は払うからと、そう説明したのにかかわらずだ
父と母の考えている事もその言葉も間違ってはいない
勉強は最終的に自分の気の持ちようだから、本当に入りたいなら頑張ればいいし、他の少し高いところでも奨学金をもらえばどうにかなると
でも、当時の私としては、そんな事を言う両親にショックを受けた
結局母に今まで貯めていたお金を没収され、私はひたすら学校で勉強をした
しかし、私が渡したお金こそが、私が殺される引き金となったお金であった
私が目を覚ますとまわりは既に真っ暗で何も見えなかった
ベットの上だというのは分かったが、それ以外にはなにも分からない
仕方ないのでのんびりとベットで横になっていると、すぐ近くから寝息が聞こえた
暗くてよく分からなかったけれど、多分ソフィアだろう
倒れたのだろう自分をこうしてずっと見ていてくれたんだ
目が慣れてきてぼんやりと輪郭が見えてきたので、そっと手を髪の上に置いて撫でた
「ありがとね、ソフィア」
本当に久しぶりに前世の記憶を見たな