7 〜胎動〜
町の中心、サンテ中央広場。古くから、市民の憩いの場として、革命に倒れた王の処刑場として、新しい統治者のお披露目の場として、様々な役割を担ってきたであろう町のシンボルだ。
その正面に急ピッチで建造中の建物が、その姿を徐々に現し始めている。
世界で二例目となる蒸気機関車の路線開通に合わせ、駅舎を造っているのだ。落成式はこの広場に多くの市民を集め、大々的に行うという。
レンガを持ち上げた屈強な男が、近くの作業員と何事か大声で会話をし、笑いあっている。
小さい子どもを連れた女性が何人か、子どもそっちのけで井戸端会議を開いている。
自転車に乗った通りすがりの郵便局員が、知り合いの老人と挨拶を交わしている。
どれも世間一般で言うところの『ありふれた日常』であり、見方を変えれば『幸せな風景』と見て取ることもできる。
しかし、男は思う。
どうして彼らはあれほど能天気でいられるのだろうか。こんなにも欺瞞に満ちた世の中に対して、なぜ疑問を抱かない振りを続けていられるのだろうか。
男は願う。
愚かなこの世の真なる統治を。
人外の降臨を。
そのための儀式を、贄を。
真なる平和を。
――夜。
男は狂った眼光で生け贄を選び、血塗れた手で、屠った女の一部を持ち帰る。
彼が信じる聖夜の完成のために。
ご精読ありがとうございました。