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3 〜カルテをドイツ語で書く医者は診察に自信が無い〜

 

 レースのカーテンが持ち上がってはフワリと落ち、また持ち上げられては下がる。風と遊んでいるようだ、と言えば聞こえは良いが、当のカーテンは、もしかすると迷惑なだけかもしれない。

 見ている人がどう解釈するかで、物事なんてのはどうとでも受け取れるものだ。


 そんなどうでもいい想像を繰り返す毎日。私は弄ばれるカーテンか、それともじゃれることをやめない風か。


——。


 病院から教会に回されてくる患者がいる、と連絡を受け、神父はサンテ病院の事務担当者と面会していた。

 通常、入院費を払えないような患者や、体の傷だけで投薬治療の必要性が薄い者が、病院の空きベッド数によって移送されてくる。そう頻繁にあることではないが、珍しいことでもない。そもそも神父が若い頃は、病院などという施設はなくて、ほとんど教会で診ていたものだ。

 移送されてくる患者は、あの沈没船に乗っていた女の子らしい。

 医師の診断の結果、身体的外傷は奇跡的と言っていいほどに軽く、多少無理をすれば今すぐにでも日常に戻れる程度らしい。しかし、教会に預けてくるということは何かしら問題がある、ということとイコールだ。

 報告書には次のように記してあった。


『例えて言うなれば彼女は「空っぽ」である。彼女自身の能動的発言はもちろんのこと、こちらから何を話しかけてもほとんど答えず、必要最低限の会話でさえ積極的には行わない。加えて、まれに彼女が発する言葉ですら、聞き取るのに苦労するような小さな囁きであり、意思疎通は極めて困難である。

 怪我の程度は、左腕の骨折(ごく軽度)、右足首に枷によるものと思われる擦過傷(やや深い)が見られる。適切な処置を施し養生すれば、現時点で命に関わるような怪我ではない。

 彼女の場合、身体的な怪我よりも心に負っている傷の方が重大と思われる。原因は不明だが、沈没による恐怖からの心的傷害、もしくはそれ以前から病を抱えていた可能性も考えられる。』


おつきあいありがとうございました!

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