17 〜あんまり気合い入れないで探した方が、案外見つかる〜
せめてノエルに、退院したら行きたい所でも聞いておけば良かった。と後悔したところで、完全に後の祭りだ。
ディンに彼女の行く場所など分かるはずもなく。ノエルを探す手段にしても思いつくのは、手当り次第に町を走り回るくらいのことだ。我ながら情けなくなってくる。
そして方法は無いのだが、問題は幾つもある。
ノエルのこともそうだが、もっとも恐ろしいのは、今この町に潜伏している猟奇殺人鬼のことだ。
狙われるのは若い娘ばかり。つまり、今ディンの後ろを走っている元気娘も、殺人鬼から見れば、殺される資格があるということだ。
「メイ、僕から離れないでよ!」
「わお!ディンさんかっくいー!惚れちゃいますよ?でも、私に惚れちゃダメですよ☆」
「君ってヤツは……」
さっきまで見たことも無いようなしおらしい顔をしていたくせに、もうすっかりいつもの調子を取り戻したようだ。
なんとなくジャケットの上から触れて、そいつの存在を確かめる。ずしりと重いそいつは、万が一に備えて手入れだけは怠らないでいた三十八口径。だけど、最後に射撃練習をしたのはいつだっただろうか。大体、剣はともかく、銃の類いは元々苦手だ。
「間違ってメイを撃たないようにだけ気をつけよう……」
「え?なんですか?」
「なんでもない」
自分で考えていて悲しくなるが、きっと無いよりいいだろうと、無理に思い直す。
「どこに行っちゃったんですかねぇ……神父様達が見つけて下さってるといいんですけど」
「ワトスン神父、大丈夫なの?こんな夜中に」
なぜか自信満々の笑みで答えるメイ。
「大丈夫です。お隣さんも叩き起こしてきましたから。すんごい包丁持ってましたし」
教会の隣は肉屋と魚屋だ。確かに、すんごい武器を持ってそうだが、それはそれで殺人鬼に間違えられたりしないだろうかと不安がよぎる。
「それに、狙われるのは若い娘ばかりですよねぇ。あっちは年配の男ばっかですから、問題ないと思いますよ」
相も変わらずあっけらかんとして遠慮のない物言い。君も対象なんだぞと言いたくなるが、それでこそメイと言うべきか。
だが、この広いサンテの町で少女一人を見つけることは、正直至難の業だ。そこでディンは考えを絞る。
あれほど人の世を嫌っていたノエルが、人が溢れるこの町に留まりたいと思うだろうか。それにあの子は賢い。朝になれば、彼女の脱走が発覚して誰かが探しにくる、とちゃんと理解している。だからこその夜中の脱走のはずだ。そこまで分かっていれば、おそらく夜のうちにサンテを出てしまうだろうと踏み、町の外れに向けて探していた。
それは自分の勘に賭けるような、ある意味では無謀なものだったが、限られた人数で一人を捜すにはある程度範囲を限定せざるを得なかった。
「一応、警察にも届けましたけど」
「あっちはあっちで犯人探しに躍起だから、あんまり期待はできないかな……」
「ロイドさんに頼んでみては、どうでしょう」
メイの提案は、ディンとロイドの仲を考えれば至極当然のことだが、
「ロイドは今夜も警戒で出てるんだ。無理は言えない。それにもし警戒してる警察官が見つけてくれたら、それはそれで結果オーライさ」
密かにディンはそれにも期待している。出動している人数は多くないらしいが、それでもディン達よりも人探しに長けた人達がディン達よりも多人数で目を光らせているという事実は、いい気休めになった。
できれば自分で見つけてやりたい、というのが本音ではあるが。