16 〜悦楽の信徒〜
生け贄は彼女にしよう。
最近は警察も動き出し、供物の調達もだいぶやりづらくなった。とは言え、それでもターゲットには事欠かない。
殺人鬼がうろついていると知ってもなお、夜勤のために町に出る労働者達を見ていると、同情を通り越して嫌悪さえ抱く。自らの命をかけてでも働かなければならないのか、それとも自分だけは大丈夫だと本気で思っているのか。私はこうやって、夜道に目を光らせているのに。
金が無いと生活すらままならない。やはりこんなくだらない世は一度やり直さないといけない、と殺人鬼は思う。圧倒的な魔の力を呼び出し、住み良い世界を創る。
そのための供物として、彼女のような穢れの無い血を持つ少女は最高の贄だった。
暗闇の中でもはっきりと分かるほどの、見事な金色の髪と、憂いを帯びた儚げな瞳。どこの良家の娘だか知らないが、申し分の無い逸材だ。あの首を供えればきっと、儀式の完成までの日数が飛躍的に短縮できる。
だが、もう少し。もう少し裏路地に踏み込んで欲しい。そうすれば確実に仕留めることができる。
彼は異常者だが、馬鹿ではない。自らが正常でないことはよく分かっている。大義のためとは言え、人殺しは人殺し。許されるものではないとさえ考えている。理想の世界が完成した後に、それでもその罪を問われるのであれば、喜んで罰を受ける覚悟もある。それゆえ、残酷で非情な罪を重ねることに躊躇いは無かった。
だからこそだ。目的を果たすために、今避けなければならないのは警察に捕まること。身柄を拘束されては何もかもおじゃんになってしまう。
そっと、殺人鬼は彼女の後を追い始める……。