14 〜死亡フラグはまだ立たない〜
少女が家出を決意した頃、時を同じくして警察も夜間警らを始めるところだった。
例の連続殺人犯を確保するための警戒警らだ。 とは言え、通常勤務を考えると署の人間を総動員する訳にもいかず、若手警察官中心でシフトを組んで人を見繕っていた。
六人殺されても、まだ上の連中は本気にならないし、重すぎる腰を上げない。きっとまた戦争でも起こらないと気がつかないのだろうと、ロイドは冷めた気持ちでそれを見ている。
その六人目が殺されてから三日。これまでのペースから考えると、そろそろ動き出してもいい頃合いだった。
「警戒は二人一組、決して離れるな。死体を切り取っている以上、ヤツはかなりの馬鹿力で、しかも鋭利な刃物を持っている可能性が非常に高い。何かあったら笛で合図。……まあつまり、いつも通りだ」
猟奇殺人鬼の警戒にしてはやや緊張感の抜けた声色で指示が出る。居並ぶ刑事達も慣れたものだ。
「ウチのかみさんが、なんでこんな時間に仕事なんだ、浮気だろうってうるさくてよ。浮気できたらそっちにいってるっつーの」
そんな会話を指揮官がめざとく聞きつける。
「ゴーシュ、奥さんの愚痴もいいがな、言ってくれるうちが華だ。私はもう粗大ゴミ扱いだぞ」
ベテラン刑事のカミングアウトに刑事達から笑いが起きる。
談笑は余裕とか油断といった類いのものではなく、なんとなく漂う夜の町の嫌な気配を、バカ話で少しでも薄めようとしているかのようだった。
「さて、そろそろ時間だ。各員、くれぐれも油断するんじゃないぞ。では、解散」
所定の持ち場に署員達が散って行く。今日こそは捕まえたいと思いながら。
ロイドが拳に力を入れて眼鏡をかけ直すと、横から元気な挨拶が飛んできた。
「改めてよろしくお願いします、ロイドさん」
今日のロイドの相棒は新人刑事ディックだ。この間の配置転換で刑事になったばかり、元気が取り柄の若者である。責任逃れの上ばかり見ているロイドにとって、情熱を持って仕事に当たる彼に好感が持てるのは必然に思えた。
「ああ、よろしく。今日で終わりにしたいもんだな」
警察的にも、個人的にも、体力的にも。
「そうっすね!絶対捕まえてやりますよ!」
「そりゃ頼もしい」
彼のラグビー選手のような体と元気があれば、犯人と格闘になっても大丈夫だろう。
「お前みたいな若いのが、これからの警察を引っ張って行くんだろうな」
ロイドの言葉に、ディックは少し驚いたように返す。
「何言ってんすか。ロイドさんだって若いじゃないですか。俺なんかより頭良いし」
「……まあな。まだ腐る気はないけどよ。じゃ、よろしく頼むぜ」