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13 〜ハートに火をつけろ!〜


 シスター・メイは大事なことを忘れていた。

 もともとそそっかしい面があるのは自分でも分かっている。が、分かったところで二十年以上にもわたる自らの積み重ねが治るものではないと思う。むしろ治す方法があったら教えて欲しいくらいなのだが。

 そんな訳で、今宵もノエルに訊き忘れた件で、シスターは廊下を歩く。端から見れば早足で、本人的には普通の足取りで。

 ノエルの部屋のドアをノックするが、毎度のごとく返事は無い。もう寝ているのかも、とふと考え、そっとドアを開けた。

「失礼しまーす。ノエルちゃん、まだ起きてる?ちょっと訊きたいんだけど……」

 部屋は真っ暗だった。暗闇に目を凝らすと、ベッドの掛け布団がわずかに盛り上がっている。

「あれ?」

 やはり寝ているのかとも思ったが、なんとなく違和感を感じる。うまく言えないが、人の気配がしない。

 そっとベッドに近づくと、その予感は確信へと近づく。思い切って布団をはぐと、その中には丸めたシーツが入っているだけで、ノエルの姿はどこにもない。

「ノ、ノエルちゃん!」

 慌てて明かりをつけても、狭い部屋にノエルの姿はなく、メイは一瞬途方に暮れた。トイレに行ったのかも、と安直に自分を安心させようとするが、それなら布団に細工をして行く必要はどこにもありはしない。

「どうして……!」

 ノエルのよそ行きのために用意していた服が見当たらないことに気が付いて、シスターは悟る。 

 ノエルは出て行った。あの子は教会に居ることもディンと暮らすことも避けて、第三の選択を選んだ。

 その事実だけで、シスターの胸は押しつぶされそうに痛み、思わず自分の体を強く抱きしめた。

 結局私は、あの子の心を開いてやるどころか、何もしてやれなかったんだ。あの子が来てから、私は一体何をしてたんだろう……。

 うつむいて視線を落とした弾みで、机の上のメモ帳が目に入る。そこにはただ一言だけ、四つの文字だけが寂しそうに取り残されていた。


 ごめんね。


「……ッ!」

 メイの頭を雷が駆け抜けて行く。それが合図だったかのように、彼女の中に自分が戻ってくる。


 違う。ノエルは心から私やディンさんが嫌だから出て行ったんじゃない。あの子はまだ本当の自分を見せるべきかどうか、迷っている。そうじゃなきゃ、こんな書き置き……!

 おやすみの挨拶の時は確かにいたのだから、ノエルが出て行ってからまだそれほど経っていないはずだ。大切なことを訊き忘れていた自分に感謝しつつ、頭を巡らせる。そうじゃなければ、気が付くのはきっと明日だった。


 そうだ、過去に落ち込んでいる場合じゃない。

 それに、私の言葉は確実に彼女に届いていた。

「ほんっとにもう……謝るんなら出て行くなっての!絶対見つけてあげるからね!」

 景気付けに呟いて、メイは駆け出す。その顔には不敵な笑みさえ浮かんでいる。

ご精読ありがとうございました。

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