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12 〜ルーム・アローン〜

 分からない。答えが出てるようにも、永遠に解けない謎かけのようにも思える。

 

 夜。ノエルは、ベッドの中で冴えてくる自らの意識を、どうにもできずにいた。

 まるで自分の意志など始めから無いかのように、この身体は眠ろうとしない。まさか身体すらも、自らに愛想を尽かしたか。それも仕方ないように、彼女には思えた。

 ディンは今日もアップルパイを持って訪れ、いつもどおりの優しい笑顔で彼女の心を理解しようとした。シスターは努めていつもどおりに振る舞い、ここが彼女の居場所であるように錯覚させてくれた。

 だが、彼女には何が正しいのか分からない。

 ついこの間、貴族の家を離れた時。彼女が信じてきた幾年はある朝あっけなく崩れ去り、家族との再会を信じていた道は、望みもしない地への途方も無い道程へと姿を変えた。

 あの二重の裏切りの中で彼女は、初めて『死』を意識した。いや、本当に彼女が望んだのは、『死』などという現実的なことではなかったのかもしれない。自分という存在自体を――存在した記録すらも、この世から残らず消してしまいたいと思うほどの、絶望。

 だが、今は――。

 絶望が消え失せた訳はないが、それとは正反対の方向に光を見出したい自分が、確かにここに存るのではないのか。

 そして自分が自分に言っている。そんな光は偽物だと。かつて光を信じ、不条理に耐えながらも地道に彼女の精神を支え続けたひたむきな自分が、今度は静かに彼女を脅迫している。

 お前は悪魔の子だ。

 いくら考えても答えは出ず、心は堂々巡りを繰り返す。そもそもここまで自分の心を揺らすあの優しい人たちが、彼女には分からない。

 最終的に彼女は、自分の声に従う。

 しばらくしてベッドから這い出したノエルは、燭台に灯をして鏡の前に立つ。メイが外出用にと用意してくれた服に、初めて袖を通す。

 メイがニコニコと服を持ってきた時は、きっと着ることは無いと考えていた。それがいざ、こうやって鏡の前に立って着替えてみると、我ながらなかなか似合っているなとさえ思う。服が黒系の色だと、明るい金髪とのコントラストが際立つ。今まで服に気を使ったことなど一度も無かったが、シスターのセンスの良さのおかげで少し気分がいい。

「痩せっぽっちだもんね……」

 自嘲気味に呟いて、髪に櫛を入れる。本当に自分は何をやっているのだろうと、思わず笑いそうになった。笑えるのに笑わないのか、笑えないのに笑おうとしているのか、自分でも理解できない。

 身だしなみを整え、ドアをそっと開ける。

 後片付けのシスター達を除けば、教会内をうろつく者はいない時間だ。さほど苦労せず、裏口から町へ出られた。通りは行き交う人もほとんど無く、どこかひんやりした空気が溜まっている。

「どこに……行こうかな」

 その言葉に前向きな意味合いは一切なく、むしろ後ろめたい気持ちがどんどん膨らんでくる。

 振り返って教会の尖塔を見上げ、少女が呟く。小さな謝罪の言葉は、産まれて間もなく風にさらわれて、消えた。


ご精読ありがとうございました。

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