0 〜旅の終わりは唐突に〜
シリーズ化目指し、気合い入れて書いてます。・・・気合い入れてこの程度か(汗
大型帆船ガイアフロート号は、お世辞にも最新式と呼べるような船ではない。どこぞの貴族が大金を投じて華やかに進水式が行われたのも、今は昔。もうじき第一線を退きどこかの海に沈められる、そんな運命しか待っていない。
船長室で航海日誌をつけながら、トッドはパイプを燻らせる。ロウソクの炎が揺らめいた。
最近は造船技術も進んで、過去には無謀と言われた航路ですら各国の船で賑わうようになってきた。さらには蒸気船などと呼ばれる、風の影響を受けない船――昔気質のトッド船長には信じられないことだ――すら現れ始めている。
かつて一級帆船として栄華を誇ったこの船も、そして世界の海を駆け回った彼も、奴隷運搬船とその船長という低い立場に落ち着いている。
この船と同じように、自分もそろそろ潮時なのかもしれない。そんな思いを巡らせていると、歳のせいか、うとうとしてくる。
眠っていたのは少しだったのか、それともそれなりの時間だったのか。いずれにせよ激しい縦揺れで、トッドは目を醒ました。
さっきまでとは打って変わって、足下が揺れている。おぼつかないものを感じながらも、なんとか船長室を出る。
よろけながら廊下を走ってきた若い船員が、船長を見つけて叫ぶ。その若者が放った言葉に、トッドは耳を疑った。
「船長!早く救命ボートへ!」
「な、なんだと?何があった?」
若い船員は傍目にも大慌てだった。泡を吹きながらまくしたてる。
「嵐です!急に雲行きが怪しくなったと思ったら、あっという間に……おそらくもう長くは保ちません!」
バカな。何十年も船乗りをしてきた自負が、彼にはある。船室に入る前に眺めたあの奇麗な星空のどこに、嵐が来るような予兆があったというのだ。だが、そうでなくてはこの揺れ方は説明できない。
第一、この船員の報告が事実だとして、大型帆船が沈むような荒れ模様で救命ボートがなんだというのだ。濁流の中に放り込まれた木の葉に等しい。
「港までは?」
「サンテ港が最寄りですが、もうまともに舵を切れない状況です!船長、お早く!」
とりあえず促されるまま歩き出した瞬間、足下から地鳴りのような音が響く。木が割れる音、つまり船体が崩壊する音で間違いない。
同時に水が廊下に雪崩込んでくる。そのすさまじい勢いと量は、人の思考を停止させるのに十分な迫力だった。
「せ、船長!」
若い船員の懇願するような視線と声が、彼の最後の記憶となった。
「1」でもいいんで星つけていただけると、書いてる人はなんか嬉しいです(笑)