平凡な僕と、そうは思っていない従兄。
なんでもあり。
我が国も、貴族とはいえ割と恋愛には寛容。
貴族学園に所属している間に相手を決める者も多い。
というのも、歴代の王と王妃が学園内で愛を育んだとされ、それになぞらえて自分たちもあやかりたいと思う者が多いからだ。
だが、恋愛に寛容とはいえ、うまくいかないケースもある。
僕、とか。
とある貴族の家の三男、長く続いている家とはいえそこまで大きくないし、僕の肩書き自体も魅力はあまりないのだろう。
いくら恋愛に寛容とはいえ、将来性のないやつには、手も挙がらない。
どこのご令嬢も、そこまで馬鹿じゃない。
僕はこのまま平民になってもいいかなぁ…とは思っているのだけれど。
「やあ、ヘンドリック。いい相手は見つかったかい?」
「……もう、また僕の教室に来たの?君だって、そこまで暇じゃないだろ?」
「おや、可愛い弟分の様子を見に来て、何か悪いことでもあるのかい?」
一つ学年が上のこの従兄が、どうしても僕に恋愛をさせたがるのだ。
従兄の方がいい家だし、嫡男だし、もちろん婚約者もいる。
それでもクラスの女の子たちが、きゃあきゃあ盛り上がっているのを見るのと、やっぱり恋愛でも選ばれるのは従兄みたいな男だよな〜と、虚しいを通し越して感心してしまう。
こんな優秀な従兄や兄たちを見てきた僕からすると、僕って選ばれなくても当然だよな、としか思わないんだけどなぁ。
それなのに、この従兄は……。
「ヘンドリック、俺はね君が平民になるなんて、そんなこと見逃せないんだよ」
「いや、君は買い被り過ぎなんだって。僕は兄さんたちとは違うし」
「そんなことないさ。ほら、今だって君を見ている女性陣の目が絶えない」
「それ、君宛だからね?君が教室に来るたびに、盛り上がるんだから」
「大体、ヘンドリックは自分の賢さを自覚していなさすぎるんだよ。本来なら、文官にだってなれるのに」
「冗談キツいって」
「本当だよ。まったく、ヘンドリックの自分の見積もりが甘いところはずっと変わらないね」
従兄が肩を竦めるのを見て、苦笑いしそうになる。
身内贔屓もここまでくると、頭が痛いものだなぁ。
どうしてだか、僕のことを高く評価してくれるこの従兄は、なんとか僕を平民にしないようにと、僕以上に奮闘している。
昔から可愛がってくれているとは言え、そこまでしてくれなくてもいいのに。
「僕が平民になっても、君は僕との縁を切ったりしないだろう?そりゃあ、気軽に会える間柄ではなくなるだろうけど」
「そんなの当たり前さ」
「じゃあ、別に何も問題ないじゃないか」
僕がそう言うと、かけていた丸眼鏡がズレた。
学園に入ってからかけるようになったこの眼鏡が、どうにもなれなくてすぐにズレてしまう。
それを何もなかったみたいに、従兄が直してくれた。
「きゃあっ」と女子の悲鳴に近い黄色い声がした。
「この眼鏡、ちゃんと毎日つけてくれているんだね」
「そりゃあ、君がくれたものだし。君と兄さんが言ったんだよ?毎日つけるようにって」
「ああ、そうだよ。約束守ってくれて嬉しいな」
そう言って、天使みたいな微笑みを見せるから、クラスの女のこの一人が卒倒した。
美貌と笑みで人を殺せるとしたら、この従兄くらいなものだろう。
「ほら、また他の人に迷惑かかるからっ…!早く教室に戻ってよ」
「はいはい、じゃあまたね。俺らの可愛いヘンドリック」
従兄は悪びれもせず、僕の鼻の付け根にキスして教室を出て行った。
だからっ、そういうところだって…!!
あ〜あ、従兄に守られているような男に、誰が恋したいと思うのさ。
僕に恋愛させたい割には、その行動が遠ざけているって、わかっているのかなぁあの人。
そもそも、僕は特に恋愛したいわけでもないんだよなぁ。
世間が寛容とはいえ、したい人間ばかりでもないというかさ。
あれだけ人気者の従兄や優秀な兄たちに囲まれて育ってきたから、地味にハードルが上がっている自覚もあるし。
それなのに、平凡な僕には平凡が似合うから、その齟齬を埋めるよりは何もしないというのが平和的解決な気がするんだよね。
まあ、僕はこのまま平民になるんだろうなぁ。
◇
可愛い従弟の様子を今日も見に行った。
今日も丸眼鏡をしっかりかけていたのを確認できて、ホッとする。
あの子は顔が可愛すぎるから、あれぐらいしないと女どころか男に狙われてもおかしくない。
そこでプレゼントした眼鏡だったが、ヘンドリックの兄たちも大賛成だった。
だって、ああでもしていないと、ヘンドリックは目立つ。
あれには特殊なレンズが使われていて、多少顔の印象が変わるようになっているが、それでも貫通するように可愛いから心配になって当然だ。
ヘンドリックがそこそこ育った3歳の時には、絶世の美少年に育っていて、俺ら親戚一同は頭を抱えたものだ。
本人は、美男美女の親戚たちに囲まれて育ったから自覚がないが、群を抜いて可愛すぎるのだ。
何度誘拐されそうになって、何度使用人たちが過ちを犯してでも一線を越えそうになっていたことか。
全部俺たちの手で未然に防いできたから、あの子は知らない。
そんなこと知らなくていい、ずっと守られていればいい。
そう思ってきたけれど、成長すれば立場も変わってくる。
ヘンドリックは俺たちからしたら、絶対的に守るべき存在だが、世間からしたら、ただの貴族の三男だ。
どこかに婿養子に入れないと、立場はキツくなる。
本人にやる気さえあれば、文官試験などあっという間にクリアして、家に置いておく理由にもなるのに、なぜかそんなことはできないと思い込んでいるため、火をつけるのにも一苦労だ。
まあ、ヘンドリックが文官にならなくても、俺の侍従あたりにすればいいだけの話だし。
俺以上にブラコンなあの子の兄たちが、あの子を手放すとは思わないけど。
歳が一つしか変わらない俺がいて、よかった。
じゃなかったら、学園内であの子を守れる者がいなかった。
今日もあの子が平和に学園生活が送れますように。
ついでに、ヘンドリックのことを顔や優秀さだけではなく、優しすぎて自分のことは後回しにしてしまう優しさや弱さなんかを好いてくれる平凡な女子が現れてくれれないいんだけどねぇ。
俺は、他の親戚連中と違って、あの子が自立すればいいと思ってるから。
あの子を一生抱え込んで、自分の手元に置いておきたい兄たちとは違うからな。
はあ〜あ、ヘンドリックにとってのいい子をあの子が卒業までに見つけないとなぁ。
了
お読みくださりありがとうございました!!
246日目。




