表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ちょっと不思議な体験をしました

作者: 葉月 藍
掲載日:2026/08/01

私こと宮下聖良は26才の介護職員だ。

老人ホームで働いている為、夜勤もあるし、休みも不定期。学生時代の友達とは休みが合わず、自然とおひとり様に慣れてしまった。

そんな私の趣味は見かけた花や植物の名前を写真に撮り検索する事。

これは、ホームで暮らすおばあちゃん達が、玄関に生ける花を替えるたび「このお花は何て名前?」って聞いてくるから。携帯で写真を撮ると、名前を検索出来る機能を使っているうちにハマった。

何なら、調べた花や植物の写真も、アルバムに整理してる。

更にそれでも飽き足らず、何と今日から2泊3日でソロキャンプだ。

近場の公園などは行き尽くしたので、思い切って山に行く事にしたのだ。


車で広いアスファルトの道から、川沿いへ下る道へ逸れる。広い河川敷は、夏場は親子連れが大勢キャンプする人気スポットらしいが、季節外れで平日な今日は誰も居なかった。

奥まった木陰に車を停めて、早速携帯で辺りの植物を写真に撮り、検索していく。

やっぱり、近所では見かけない植物が多い。

ニンマリしながら、周りを見渡すと、山の斜面に細い丸太で組んだだけの簡素な階段が見えた。見上げると、結構上の方に展望台らしきものが見えた。

まだ昼にも少し早い時間だ。

ちょっと行ってみるかな?

あそこまで、行って帰って来るまでに、どんだけ写真が増えるだろう、と、わくわくしながら階段に足をかけた。


「撮った。撮りまくった。撮りまくってやりましたよ〜!」

車に戻るとトランクを開ける。ソロキャンプに必要な道具はある程度載せてきたが、まずは撮ってきた写真をチェックしたい。

折りたたみのテーブルと椅子を下ろして広げると、クーラーボックスの中からコーラを出す。

プシュっと開けたコーラをテーブルに置いて、川と山とコーラの写真を撮ってご満悦。

「……ん?」

撮ったばかりの写真を開くと、選択、編集などのいつも見ている項目の中に、コピーや取り出す、などの項目が目についた。

「こんなん、あったっけ?」

とりあえず、取り出すをタップする。

すると、写真が消えた。

「えっ、写真が消去された!あ、取り出すってそういう事⁉︎」

取り出すというより、取り除くでは⁉︎

ちょっとショックを受けたが、消えたのはコーラの写真だ。今すぐ撮り直せる。

そう思って顔を上げると…コーラが2つに増えてる⁉︎

テーブルには、口の空いたコーラが2つ並んでいた。

もう一度写真を撮る。

今度はコピーをする。

すると、『コピーを取り出す』の項目が増えた。その後に数字が1から10まで並んでいる。

とりあえず、1を選んでみる。

写真に変化はなく、テーブルの上にはコーラが4つ…。

「どうなってんの?」

頭を捻るしかないが、無意識に次に何を試そうか、増えても良いものを探し始める。

クーラーボックスの蓋を開け、中身をパシャリ。コピーを取り出す、3。

クーラーボックスの中のお茶やお肉や保冷剤が3つずつ増えた…。

「え、夢?」

携帯を見て、クーラーボックスを見て、コーラを見る。

クーラーボックスの蓋を閉めてパシャリ。

コピーを取り出す、1。

蓋を開けてみる。

中身は空っぽ。

ホッとしたような、残念なような。

そして、思いついて過去の写真をチェックしてみた。先月食べに行ったパンケーキの写真。ドキドキしながら開くと、やっぱり、コピーと取り出すの項目がある。

…コピー、取り出す、1。

「マジか」

テーブルにはお皿に乗った、クリームとベリーがたっぷりのパンケーキ。だが、カトラリーは無い。写真に写してなかった。

とりあえず、持参した使い捨てのフォークを取り出して食べてみる。

普通に美味しいし、お腹も膨れる。

あれ、これ、ほんとに夢じゃない?

私、起きてる?


まあ、色々試すよね。

ネットの料理の写真をスクショしようと思ったけど、山の中だからか、ネットに繋がらなかったよ、残念。自前の写真は全てコピー出来た。怖い事に、人物の写真もコピー出来そうだったけど、取り出すじゃなくて、模写する、て項目が出てきた。恐る恐る模写したら、服や髪型、髪色まで模写されたけど、顔もスタイルも私のままだったよ。

…べつに、残念じゃないよ…。

で、パンケーキのお皿やクーラーボックス、模写した私の服装なんかは、もう一度写真に写すと、コピーを削除するって項目が出て、タップすると元に戻ったよ。でも、お腹はいっぱいのまま、写真に写したコピーだけが消えた感じだった。

そうやって一通り試して満足した私は、またまたあっちの花、こっちの草、こっちの木の実などの写真を撮りまくり、陽が翳るまで楽しんだのだった。


車中泊して翌朝。川で顔を洗って、サッと軽く食べると次の目的地に向かって車を走らせた。

「あれ?」

河川敷から細い坂道を上がると、すぐにアスファルトの県道に出たはずだ。だが、なかなか辿りつかない。道はいつまで経っても細い土の道のままだ。

「あっれ〜?」

横道は無かったし、そもそもこんなに木々が鬱蒼としてた?

しばらく走って、少し開けている場所に出た。視界が明るくなったと思ったら、湖に出たようだった。

え?湖?

こんな近くに、そんなのあった?

車を停めて辺りを見回すと、また見覚えのない花が目に入ってとりあえず写真を撮る。で、流れるように検索して、はっとする。

ネットは繋がってないのに、ずっと検索は出来てた。…何で検索出来るの?

それに、知ってる植物が一つも無かった。

知らない植物しか、なかった…。


どっと不安が押し寄せる。

さっきまでは楽しかったのに、ここに立っているのも怖いくらいだ。

震える手で車のドアを開け、中に乗り込む。

カーナビを操作し、行き先を自宅へセットした。

2泊の予定だったが、今は見知った場所へすぐにでも帰りたい。


「ウソでしょ、ここ、どこよ〜…」

カーナビの指し示すまま、行けども行けども山、山、山で、やっと山頂近くに見晴らしの良さげな場所があったので車を停める。

見下ろす山肌に、ドアがいくつも見えた。

そう、ドアだ。

ドアだけが山肌に張り付いている。ドアが集まる辺りは木々も手入れされており、何なら花壇のようなものもある。

そう、まるで

「ホビットの家みたい」

呆然と見ていると、ドアが一つ内側から開いた。中から小さな、ちょっと手足の短い男の人と、更に小さなおさげ髪にスカートを履いた女の人が出てきた。よく見ると、男の人は手に斧を持っていて、女の人はカゴのような物を渡している。

まるで、仕事に行く主人にお弁当を持たせる奥さんのようだ。

思わずパシャリ。

そして、模写。

ぐっと背が縮んで、運転席のハンドルから顔が出なくなった。手も小さいというか、指が短い。

バックミラーを動かして自分の顔を映すと、耳もちょっと尖っていた。

車から出て、ここがどこか聞いてこようか、ちょっと悩んだ。だけどこんな小さな集落に、1人でふらっと入って行ったら不審者扱いされる可能性もある。それに、言葉が通じるか、わからない…。


また怖くなって模写を解除すると、ひたすら車を走らせた。

気付くと夕方だ。

陽が陰り、木々の影が長く伸びて不安を増長させる。

今日は1日車を走らせていた。車が通れる幅の道は、今走っている道しかなかった。途中何度かは、人が1人通れるくらいの道とは交わっていたが、人の気配はなかった。

「てか、人って居るよね?」

あの小さなホビットみたいな人達しか居ないなら、自分は巨人ではなかろうか。

「やだやだ〜!」

かなり情緒不安定である。

カーナビは、自宅へはこの道を真っ直ぐと指し示したままで、到着予定時刻などは表示されない。ただ、自宅へのルートが指し示されている事だけが、心の支えだった。

『ピロン、この先、100メートル、右折です』

「⁉︎」

『この先、右折です』

「‼︎」

カーナビの指し示す辺りで車を止めて右を見るが、大きな木の幹が立っているだけで、道などない。

辺りは薄暗くなってきていてよく見えないから、携帯を取り出してライトを木の幹に当ててみた。

「‼︎」

ライトがあたった木の幹は、携帯の画面には写っておらず、右側に真っ直ぐ伸びるアスファルトの道が見えた。

戸惑う気持ちも、疑う気持ちもある。

…でも。

うん、行くしかない。

車を少しバックさせる。左手では携帯をかざし画像を見ながら、ハンドルを切ってゆっくりと木の幹に近づいていく。

ぶつかる!

目に飛び込んで来るのは木の幹のアップだが、携帯の画像では右折して、右の道へ進入していく。

『右折しました、このまま、しばらく道なりです」

ハッと目を擦ると、カーナビの画面の道路上には、昨日の朝通ってきた県道の番号。

顔を上げて道を見ると、アスファルトに、両脇に白いガードレール。それに対向車のライトが遠くから近づいてくるのが見えた。

慌て車を発進させる。

すれ違う車。

まばらな街灯。

道の先には、街の明かり。

「か、帰ってきた?」

緊張と期待と不安でドキドキしながら進んでいく。

ポツポツと民家が見え、やがて住宅街に入る。街灯は間隔が短くなり、商店街のアーケードも通り過ぎた。

「いつもの、コンビニ」

駐車場に車を停めて、コンビニの中へ入る。

「あ、こんばんは〜」

顔見知りの店員さんに、声をかけられた。

その声を聞いて、顔を見て、やっと肩の力が抜ける。

詰めていた息を、ほうっと吐き出し、

「こんばんは〜」

笑顔を作ろうとして、顔もガチガチに強張っていた事に気づいたのだった。


家に帰って携帯の写真を見ると、植物の写真も、ホビットの写真もちゃんと見ることが出来た。だけど、コピーや取り出す、模写のモードはなかった。

クーラーボックスを開けると、結局食べ損なった肉×4パックのまま入っていた。

コピーして増えた分は写真を撮れば破棄する事が出来ていたが、破棄のモードも消えていた。

なので、お肉は全部、美味しく頂いた。


日が経つと、あれは何だったんだろうっていう気持ちがまた、むくむくと湧いてきた。

撮った写真の植物は、ネットで調べても存在自体が見つからなかった。

あの世界には、まだ写してない植物がたくさんあるに違いない。

一回帰ってこれたから、また大丈夫では?と、甘い気持ちも湧いてくる。

保証なんてないし、危ない事だと分かっているけど、好奇心が抑え難い。

ほんのちょっとだけ。

この間の道がまだあるか、確認するだけ。


そんな誘惑に負けて。

結局、次の連休に、またあのキャンプ地へ車を走らせるのだった。

拙い文章ですが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ