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誰も知らない英雄の真実について  作者: てへぺろ


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6. 死闘(俺だけ)

 クラン棟の裏手で、俺はロアと対峙していた。

 幸い周りに人はいない。


「リーダー、本気っすか!? さっき、レッドハンズのやつら、ロアさんが一人で追い払ったんすよね?」


 シーヴが心配そうな目で、俺を見て、ロアを見て、また俺を見た。

 外出していたシーヴは、逃げていく血まみれのフロイドたちに気づき慌てて戻るも、そこでは俺がロアに決闘を申し込むという謎の展開になっていて仰天していた。


 そして、完全にとばっちりに近い形で決闘の見届け人をさせられている。

 こればかりは、他にできる人がいないから仕方がない。ミーシャはたぶんまだ寝てる。


 視界が狭い。

 なぜなら俺は、かなりの重装備だからだ。

 頭まですっぽりのフルアーマー。ちなみにこれは、遺跡で発掘した謎素材で作られているので、ドラゴンに踏まれても炎であぶられても平気という代物だ。

 そして、堂々たるタワシ(タワーシールド)。

 あと、手に馴染んだロングソード。


 対するロアは、俺が貸した普段着と、練習用の木刀である。 

 手に木刀を提げたまま、珍しそうにあたりをきょろきょろみまわしている。


 装備に差があるが、ずるくないと思う。

 素材はアレだが、これが平均的なタンク系剣士の装備だし。

 俺の、いつもの装備なだけだし。

 

 とにかく、どんな手を使ってでも、俺はロアの協力を得たい。俺が死ぬことなく。


「じゃあ、はじめますよ。ルールは、リーダーが死ぬまでにロアさんに傷をつければ勝ち。ロアさん、本当にこれでいいんすね?」

「ああ、俺にかすり傷でもつけられれば、クランバトルとやらに協力してやろう」


 木刀をぶらぶらさせつつ、ロアはなんでもないように言い放つ。

 これだけの装備の差があるというのに、なにその余裕。本当に怖い。


「じゃあ、慣習だから、命を賭けるリーダーは、何か言い残しておくことがあれば、僕が承るっす」

「そんな慣習あったな」

 

 決闘なんてしたことなかったから、すっかり忘れていた。

 

「俺の、無茶な頼みを受けてくれて感謝する、ロア。ロアに、俺の全財産を全て譲る。ここで暮らすなら先立つものはいるだろう。それから、シーヴ、ロアのことを頼む。彼が困らないように。あと、ミーシャにごめんって伝えて。以上だ」

「もおお、僕にも謝るべきじゃないっすか、それ。ほんと、死なないでくださいよ」


 むくれながら、シーヴが開始を告げる旗を振った。


 瞬間、強烈な衝撃が身体を襲う。

 四方から襲いくる強烈な打突。

 次にどこから来るか全くわからず、常に予想と逆のところから容赦のない攻撃が俺を襲う。

 一瞬、頭の奥が軽くなり、意識が遠のく。


 気づけば、膝をついていた。

 饐えた匂いに、自分が鎧の中で吐いたのだと知った。

 こもる異臭が強烈だが、それ以上にひどく驚いた。

 

「まさか、こんな、戦い方が……」


 咳込みながらまた、嘔吐する。 


 ロアは、刹那の間に、俺が鎧の中で激しく揺さぶられる形になるよう木刀を打ち込んだのだ。

 結果、激しくシェイクされた俺は、腹はぐるぐるで気持ち悪いし、頭が変にふわふわする。


 これを繰り返されれば、外の鎧は無事でも、中の人間がつぶされて死ぬだろう。

 その前に、吐しゃ物で窒息するかもしれない。


「なかなか、丈夫だな」


 俺を見下ろすロアは、息ひとつ切らさず、木刀を提げている。

 その瞳は、最初とはうってかわって鋭く、視線だけで斬られそうな危うさに満ちていた。

   

「重装甲の兵を倒す方法はいくつかあるが、中身が丈夫なほど苦痛を伴う。苦しみたくなければ、兜を外せ」

「い、やだ!」


 たとえ木刀でも、兜を外せば一瞬で殺されるだろう。

 心を叱咤し、立ち上がる。剣を持つ手に、力を込めた。


 なんとか、ほんのかすり傷でもロアに切っ先が届けば、俺の勝ちだ。

 だというのに、俺が剣をふるう先にロアはいない。

 代わりに、首を、肩を、なんども強い衝撃が襲う。


 衝撃が来た方へ剣を向けるも、切っ先は虚空を斬るばかり。

 はたからみたら、まるで、俺が一人で滑稽に踊っているように見えるだろう。

 

 もうどれだけこんなことを続けているのか。

 倒れたいのを、なんとか誤魔化し耐えている。

 息はあがりきり、呼吸が苦しい。視界が、どんどん暗く狭くなっていく。


「まったく、世話が焼けるやつだな」


 鋭く息を吐くような擦過音とともに、突き刺すような衝撃が脳を揺らす。

 首元の鎧が、変に鈍い音を立てた。

 

 一瞬で、視界に光が満ちる。

 風が、頬を撫でる。

 新鮮な空気が肺に流れ込む。


 俺のフルフェイスヘルムが、外れて遠くに転がったのが見えた。

 ロアが外側からの打ち込みで、俺の鎧と兜を固定していた金具を緩め、無理やり兜を外したのだった。

 

 理屈ではわかるが、そんなことができる人間がいるなんて、信じられなかった。

 茫然とする俺の前に、木刀を構えるロアがいた。

 一分の隙もない、その構え。


「来い、カイル。お前にはそれだけの気概がある」


 明確な殺気が、嵐の前の凪のようにあたりに満ちる。

 たとえ今俺が、全力で打ち込んでも、必ず弾かれそのまま殺されるだろう。

 遠くで、シーヴが取り乱したように俺を呼ぶ声が聞こえた。そちらに向けて、震える片手を挙げる。

 今は、誰にも邪魔されたくない。


 絶望的な死の予感。

 ここで、俺の夢が途絶える、絶対的な感触。


 それでも、心の奥が猛烈に熱い。

 ここで、諦めたくない。

 まだ、あがきたい。


 燃え盛る炎のような感覚に突き動かされるように、ふらつきながらも立ち上がる。

 

 ふりあげる剣は重い。

 きっと隙だらけだろう。


 カイロスの叙事詩の一節が、頭をよぎる。

 

「俺の、俺の夢は、カイロスみたいにでかいものじゃないけど」

 

 気づけば、叫んでいた。

 どうせ死ぬなら、自分の気持ちをこの場で告げておきたかった。

 

 こんなことで死ぬなんて、人は笑うかもしれない。

 誰がなんといおうと、俺の夢には、命を賭ける価値がある。


「絶対に、譲れない!」

「っ!?……カイ、ロス!?」


 俺は、信じられないものをみた。

 素っ頓狂な声をあげるロアに、吸い込まれるみたいに俺の剣が向かうのを。


 さきほどまであれだけ隙がなかったロアが、俺の剣を避けるのも忘れたみたいに目を丸くしている。

 慌てて避けようとするも遅い。

 確かに俺の剣は、ロアの頬をわずかに掠めた。


「なぜ、お前がカイロスの名を……」


 ロアの呟きを聞きながら、俺は精魂尽き果てその場に崩れ落ちた。


 こうして、ロアにとってはかなり不本意な成り行きだったと思うが、俺は強力な助っ人を得ることに成功したのだった。

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