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誰も知らない英雄の真実について  作者: てへぺろ


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13. 引きこもりの矜持

 少女がくるりと杖をまわすと、ゴーレムの身体がさらに強く輝く。

 たたきつけてくる巨大な腕を、全力で防いだ。

 足元の岩盤にヒビが入り、靴底が沈む。


「ぐっ!」

「リーダー!」


 ミーシャが俺に強化バフをかけてくれるおかげで耐えていられるが、気を抜けば今にも押しつぶされそうだ。


「あはは、がんばるぅ。でも、ミーシャごときに、私の魔法は解けないでしょ。諦めて」


 手を叩いて笑う少女は隙だらけだ。

 しかし、彼女が座るゴーレムの肩が、高すぎて攻撃が届かない。


 ロアがエリンめがけて跳ぼうとするのが見えたが、アランたちがそれを阻む。エリンの治癒とバフのおかげだろう、アランの傷はいえ、みるからに強力なバフがかかっている。

 遠くからみていても、ロアの動きが精彩を欠いているのが見えた。

 男たちを次々に切り倒しているが、数が多い。

 そろそろこちらに一度戻ってくる頃合いだが、アランが、その取り巻きが、ゴーレムが、うまく俺達とロアを分断していた。


「ロアを迎えにいく!」

「どうやって行くんすか!? ゴーレムが邪魔だし、僕のネズミはレッドハンズのやつらを抑え込むのでいっぱいいっぱいっすよ!」


 シーヴの言う通りだ。

 しかし、このままでは俺たちはここでゴーレムにつぶされ、ロアは力尽きる。


「まだ勝てるとおもってるなんて、かわいい。もっと、絶望でぐしゃぐしゃにしてあげる」

 

 もう一度エリンが杖をふるう。


 バキバキとゴーレムの身体が組み変わる。

 岩でできたゴーレムが、見るまに鈍色に包まれる。

 

「ロックゴーレムが、アイアンゴーレムに!? モンスターへの高位バフの応用じゃないっすか」


 シーヴが感嘆の声をあげているが、俺はそれどころではない。 

 硬さが増したからか、さきほどから防いでいるゴーレムの力が一気に増す。

 俺の筋肉が軋みをあげる。もう限界だと。これ以上は無理だと。

 

「ああ、かわいそうね、ミーシャ。薄汚いドワーフの血なんて入っているから、純血のあたしには絶対にかなわない。このまま、お友達ごと無様に潰してあげる」

「馬鹿にしないで、エリン」


 視界のすみで、ミーシャが杖を投げ捨てるのがみえた。


 かわりに彼女が取り出したのは、武骨な金属製の小さな槌だった。


「杖を捨てるなんて、ばかなの? それとも降伏するってこと? 頭までモグラ並みになっちゃったかしら? さすが弱小ドワーフ族は違うわね」


 きゃははと甲高い笑い声をあげながら、エリンがパタパタと両足を揺らす。

 そんなエリンを、ミーシャは燃え盛るような瞳にらみつけていた。いつも深くおろしている前髪の隙間から、たぎるような翡翠色がのぞく。

 

「私の血を、馬鹿にしないで、エリン! 私は、弱くなんかない!」


 言うなりミーシャが俺の前に出る。

 危ないと止める前に、ミーシャが槌を振りかぶり、横凪ぎにゴーレムの脛を打った。

 見るまにそこからヒビが入る。そのヒビは、ゴーレムの身体全体にみっしりと広がると、あっという間にゴーレムが砕けちった。


「なっ!? 私が強化したゴーレムが! ドワーフ風情のくせに!」

「そうよ、私にはドワーフの血が入ってる! だから、槌さえ持てば鉱物の強いところも弱いところも全部見える! ドワーフ相手に金属ゴーレムでドヤ顔するなんて、エリンこそ考えが浅いんじゃないの!?」


 ミーシャは次々と、他のゴーレムを槌でうち、見事に砕いていく。

 ゴーレムの肩にのっていたエリンが慌てて体勢を整えて、地面に着地する。

 

「なによ! 万年引きこもりでべそかいてばっかりだったくせに……!」

「引きこもったっていいでしょ! だからって、私が弱いわけでも、私の仲間が弱いわけでもないんだから!」

「なにそれ、すっごく生意気――」


 それは一瞬だった。

 ミーシャをにらみつけるエリンの顔に朱が散る。その服にもおびただしい血が飛んだ。


「エリン、逃げろ!」


 アランの言葉に、慌てて体勢を整えるエリン。

 そこに、もう一太刀浴びせたのはロアだった。


 肩で息をつきながら、滴る汗をぬぐいもせずエリンに斬りかかる。

 ざっくりと、エリンの片耳が切り落とされた。


「ちっ、浅いか!」 

「く……!」


 エリンが杖をふるうと、半透明の壁が現れる。

 ロアの剣は、壁に弾かれて届かない。


「よくも、よくも私の身体に傷を……! 下等種族のくせに!」


 見るまに、エリンの傷が癒えていく。欠けた耳も、再生した。

 エリンが、憤怒の表情でロアをにらみつける。


「ああもう、クランバトルなんてくだらない。アラン! こいつをここで、殺して!」

「エリン、それはさすがにルール違反です!」


 焦ったようなアランの声に構わず、エリンが杖を構え詠唱を始める。

 エリンを中心に、いくつもの魔法陣が地面に現れた。


「ルール違反じゃないわよ。バフ解除は、ミーシャもやってるでしょ。だから、たとえこの結界の加護を外したって、全然大丈夫」


 頬に血の跡が残るまま、エリンが鮮やかに笑う。

 その途端、地面いっぱいにみっしりと魔法陣が現れ輝きを増す。


 焦ったようにロアがエリンに斬りかかるも、半透明の壁に阻まれるばかりだ。


「おい、エリン! これ、俺たちもバフ解除されてないか!?」

「この結界、強いんだもん。これくらいの魔法陣じゃないと。私のバフはあとでかけなおすからいいでしょ?」


 カッっと大地が光を帯びる。

 強烈な魔力の流れが身体を走査する。

 その瞬間、今まで俺の身体にかけられていたミーシャの加護が、そして結界の影響が吹き飛んだ。


 光がおさまった後、一見、何も変わっていなかった。

 ただひとつ違うとすれば。


 死を免れる結界の加護は無い。

 ここからは、本当の殺し合いだ。

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