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誰も知らない英雄の真実について  作者: てへぺろ


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12. 決戦の地

 レッドハンズは、たびかさなる同士討ちと雨による視界の悪さで、散り散りになっていた。

 戦況の把握もできず、すでに統制はきいていない。


 そんな中、孤立した敵を倒していくのはさして難しくはなかった。

 今までのように、ロアは手加減しなかった。

 華麗に、舞うように、あっという間に敵を屠っていく。


 そのたびに、相手は霞むように光を放ちながら消えていく。

 結界の力で、死ぬ前に柵外に飛ばされたのだ。


 いつの間にか、ずいぶんと静かになっていた。

 降りしきっていた雨も、いつの間にかやんでいた。


「あとは敵の本陣、つまり向こうのリーダーがいる隊だけっす。でも、なんかずっとおかしいんっすよ」


 シーヴが地面に書いた地図をみて、俺も違和感に気づいた。

 最初からずっと、レッドハンズのリーダーの位置が変わっていない。

 初期地点から動いていないのだ。


「ここは、たしか草も生えない岩盤地帯のはずだ。なんでこんなところに?」

「ほほう、こう来たか。なるほどなあ」


 なぜかロアが目を輝かせはじめた。

 今までそれなりに楽しそうではあったが、こんな風にあからさまにわくわくしているのは初めてだった。


「どうする? リーダー、十中八九、罠だが」

「ロアに任せたい。俺は戦術はさっぱりだし」

「いいのか? 本当にいいのか? 俺は行ってしまうぞ? 罠とわかっていても」

「えっ、なんでそうなるんすか!?」

「こんな手は見たことがない。おそらく相当な秘策がここにあるか、もしくは馬鹿か。どっちか知りたいに決まってるだろう。できれば秘策が見たい!」


 強く言い放つロアのノリに、俺は既視感しかなった。

 だいたい遺跡での俺は、こんな感じだ。横でミーシャもちらちら俺を意味ありげに見ている。

 

「よし、行こう! 見たいんなら仕方ない」


 こうして、わくわくするロアにつられて、俺もウキウキと歩き出した。

 決戦の場へ。


 ◇


 レッドハンズのリーダがいるはずの場所。

 そこに辿りついた俺は驚愕した。


 白く華奢なティーテーブルと椅子、そして雨避けだろう大きなパラソルをそこへ掲げる、屈強な男。

 ティーテーブルには優雅に茶を飲む男が一人。

 見知った顔だった。

 レッドハンズのリーダー、アランだ。彼を周りを囲むように、レッドハンズのメンバーがぐるりと整列していた。30人はいるだろうか。

 

「私がお茶している間に、他が壊滅状態。驚きました。でも、あえて言いましょう。ようこそ、と」


 アランは洗練された動きで立ち上がると、歓迎するとでもいうように手を広げ、お手本みたいなお辞儀をする。

 順番に俺達を眺めてから、最後にロアで視線を止めた。


「あなたが、フロイドが言っていた方ですか。私の戦術を破るとは」

「だいぶ拙かったが、初めての陣形にしては初手は良かった。鼠鷲陣から鱗円陣への切り替えも妥当だったな。ただ、戦場は生き物だ。もっと戦況把握に努めたほうが良い」


 ロアのまるで講評のような言葉に、あからさまにアランが眉をひそめる。

 不機嫌というよりは、いぶかしげな視線をロアへと向けた。

 

「何者です?」

「クラン『晴れのち曇り』の雑用係だが?」

 

 アランがふわりと、にじむような笑みを浮かべると同時に、あたりを濃密な魔力の気配が包む。


「私の勘が告げています。あなたは、危険だ」

 

 地響きが巻き起こり、俺達の足元もぐらぐら揺れた。見る間に岩が組みあがり、何体もの巨大な人型をとる。

 ゴーレムだ。これを組み上げる材料のために、アランはこの岩盤地帯にとどまったのだろう。


「傀儡使い、か」

「ご明察」


 アランの言葉が終わる前に、ロアが一気に距離を詰める。霞むほどのロアの斬撃を、咄嗟に剣を抜き放ったアランが受ける。 

 ロアの舞をおもわせる流麗な剣技に対し、アランは意外にも粗野な剣さばきだった。とはいえ、見事ロアの猛攻をしのぎ切る。


 呆気にとられていた周りの男たちがあわてて武器をとりだし構えたころには、ロアはアランから距離をとり、俺たちの元へと戻っていた。


「むぅ、組み上がる前に、術者を仕留めきれなかった」


 口をとがらすロアに、俺はあらためて盾を抱え直す。

 今まで、ロアと切り結んで立っていたやつはいなかった。戦闘系クランのリーダー、伊達ではない。


 迫りくるゴーレムが、俺達に向かって、手を伸ばす。その圧倒的重量で、押しつぶそうとでも言うように。


「ひとまず、手近な木偶を壊す。潰されないよう気をつけろ」


 言うなり飛び出したロアは、手近なゴーレムの膝に斬撃を打ち込んだ。見事にゴーレムの膝が砕けたものの、ロアの持つ剣も折れた。ゴーレムがバランスを崩し、膝をつく。

 ここ一体は固い岩盤だ。それらがゴーレムの材料になっている。

 正直、よく切り砕いたとは思うが、武器との相性が悪すぎる。 


「ミーシャ、あのゴーレムと術者を使う魔力を断ち切れるか? シーヴは、他の奴らの牽制を頼む」


 俺の言葉に、ミーシャが杖を構え、シーヴの鼠が取り巻きの男たち目掛けて走り出す。


「良い判断だ、カイル」


 再び戻ってきたロアに、予備の剣を渡す。

 

「ロア、ここは、俺に任せて。アランを」

「任せろ」


 襲い来るゴーレムたちを、俺は渾身の力で防ぐ。

 ミーシャが、シーヴが、それぞれの術に集中できるように。


 幸い、ミーシャのおかげで、少しずつゴーレムの動きが鈍くなってくる。一撃一撃は重いが、なんとか防げるものだった。

 遠くでは、アランとロアが剣を交わす。その合間に周囲の男たちも、切り倒していく。男たちの身体に、小さな鼠が何匹も張り付いている。

 ロアがアランの腕を切り飛ばすのが見えた。

 

「いける、このまま勝てる!」


 勝利の予感が胸をよぎる。

 

 その時だった。

 ゴーレムの身体を、淡い緑色の光が包んだのは。

 突如、ゴーレムが俊敏になり力強さを増す。


「なっ、新手!? 一体、どこにいたんすか!?」


 シーヴの驚愕の声に重なるように、その場に似つかわしくない間延びした声が聞こえた。


「あぁ、もう、私は寝てていいって言ってたのにぃ」


 一体のゴーレム、その肩の上に、一人の少女が腰掛けている。

 眠そうにあくびをかみころしてから、俺達をみて、面白そうに片眉をあげた。


「あらあ、久しぶり。まだ生きていたのね、沼モグラのミーシャ」


 よく見れば少女の耳は長く尖り、その瞳はミーシャと同じ翡翠が彩る。


「エリン……!」


 苦々しげに、ミーシャがつぶやいた。

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