11. 束の間の休息
おもむろにロアが石ころを拾うと、鋭く天へ向かって投げる。
切り裂くような鳴き声とともに、一羽の鳥が地に落ちた。レッドハンズのテイマーが操る、偵察用の使い魔だ。
「敵の目は、これで最後のようだな」
戦況把握に鳥瞰は有効だが、つぶされないことが前提。
そういいながら、ロアは戦闘の合間に、やってくる諜報役の鳥を石で撃ち落としていた。
ちなみに、人間が来る時はもれなく制圧して葉っぱ漬けにしている。
まだ夕刻には早い頃合。
たれこむ雲で、夕陽の兆しは全く見えない。
休憩をとると言ってロアが座り込んだのは、草原のど真ん中だった。
「さすがに、ここは敵にみつかるっすよ!?」
落ち着かなげに、周りをきょろきょろするシーヴに、ロアは少し遠くをあごでしゃくった。
「周りをみろシーヴ。やつらはもう、それどころじゃない」
周りの山から、丘から、いくつもの煙が立ち昇っている。
そこからは、剣戟や怒号が聞こえてくるのだった。
「あっちは同士討ちで大忙しだ。目もつぶした今、俺たちを血眼で探しているだろうが、ここは盲点すぎて気づかれにくい」
抱えていた重い盾を下ろすと、はじめて足がガクガクするほど疲労していることに気づいた。
今までは、戦場の高揚感に完全にのまれていて、自分の身体がどうなっているのか、全くわかっていなかった。
リュックから、ポーションを取り出して全員に配る。
シーヴとロアは勢いよく煽ったものの、ミーシャはぺたりと座ったまま受け取ろうとせず、じっと杖を眺めている。
「ミーシャ、大丈夫か、ミーシャ」
何度声をかけても、反応しない。
俺をおしのけて、ロアがミーシャの前にどっかりとあぐらをかいた。
「魔法師特有の過集中だ。あまり続くのはよくない」
そういいながら、ぶあついミーシャの前髪を、ロアが片手でかきあげる。
普段は髪で隠している、ミーシャの翡翠色の瞳がよくみえた。わずかにとがった下向きの耳も。
「ミーシャ、俺を見ろ」
びくりとミーシャが顔をあげ、しばらく焦点のあわない目をさまよわせてから、ロアの目を不安そうに見つめた。
「少し休め」
「あ……、でも、魔法が」
「これくらいでお前の魔法は途切れはしない。自身に流れる血を、信じろ」
ロアにうながされ、ミーシャがようやくポーションを口にする。
のみおわってから、自分の目や耳が露わになっていることに気づき、慌てて髪で隠した。
その様子に不思議そうに眉をひそめ、ロアはもう一度ミーシャをまっすぐ見つめる。
「何におびえているか知らんが、自身の血統を誇れ。俺から見ても、お前は強い」
一体、いつ、気づいたのだろうと、俺は不思議だった。
ミーシャは、エルフとドワーフの混血だ。
エルフは他族との混血を嫌う。ここからずっと南にあるエルフの村で、ミーシャは常につまはじきにされて生きてきたらしい。
そうして、だれかと関わるのが心底嫌になって、遺跡にこもっていたところを俺と出会ったのだった。
ぽつりと、冷たいしずくが頬に落ちる。
見上げれば、空には真黒な雲。まるで戦場のあちこちからあがる煙に染めあげられたような色だった。
滴るしずくは見る間に数を増し、乾いた地面に黒く染みをつくる。
「本当に、今日は良い天気だ」
雨にうたれながら、しみじみロアがつぶやいた。
「シーヴ、残りはあとどのくらいだ?」
「んー、半数近く減ってますね。あんなやり方でこんなに減るんすね」
「味方を手にかけるのは精神にくるからな。死のない戦に慣れきり、覚悟もなく戦っているのだろう。そういうやつらに、こういう手はよく効く」
身に覚えしかない。
ロアがここで何をやっても、相手が死なない。
その安心感は、確かに俺の心の奥にしみついている。
「ここからは、相手と正面からぶつかることになる。覚悟はいいな? リーダー」
「わかった」
反射的にうなずきながら、己の心を叱咤した。




