10. 戦闘日和
最初にロアが向かったのは、火力系魔法師がいる隊だった。
向かった、というより、襲ったという方が正しい。
ロア対策だろう、前衛に盾剣士をおきつつランサーや魔法師で距離をとりながら攻撃してくる、そんな戦法だった。
横手から突然現れたロアに、あっという間に前衛が倒されていく。
数人倒すと、ロアは俺達の元へ戻ってくる。
降りかかる剣や槍、矢、そして魔法を俺は必死でしのいだ。
ロアは強い。
ただ、あの動きを長時間できるかというと、別だ。
必ず疲労が溜まる。ミーシャの治癒魔法もあるが、それでも疲労は蓄積する。
それを最小限に抑えるために、ロアは定期的に俺の盾の内側に戻るのだ。
――よく聞け
ロアは遺跡で、何度も俺たちに言った。
――俺一人では、この戦は勝てない。だが、4人なら勝てる。
シーヴは常に戦況を把握する目に。
俺は、全員を守る物理的な盾に。
そして、ミーシャは治癒と魔法への対策を。
全員が一丸となり、まるでひとつの兵のように戦えと何度も訓練させられた。
息を整えたロアは、再び剣を携え飛び出していく。
もちろん、その間も俺は油断できない。
俺たちも、狙われる。
全員の命を守るため、俺は必死に盾を構えた。
いつの間にか、敵の隊は全員、地に伏していた。柵の外に出ていないということは、致命傷は与えられていないのだろう。
あちこちで、魔法師が放った炎が木々を燃やし、赤く燃え上がっている。
「あと、5分くらいで別動隊が来るっす。まるで――」
「波状攻撃のような陣形、だろう」
ロアの言葉に、シーヴは神妙に頷いた。
「ちょうどいい」
ロアは俺の荷物を漁ると、謎の葉っぱを取り出した。
よく森で見るような気がするが、それがなにか意識したことはなかった。
その葉っぱをちぎり、倒れている敵の口に順番に突っ込んでいく。
最後に、燃えている枝をひとつ取り上げると、敵の近くに置いた。
「息をとめて、向こうへ走れ!」
ロアの言葉に、慌てて俺とシーヴとミーシャは走りだす。視界の片隅で、ロアが葉っぱを何枚か火の上にくべているのが見えた。そこから、吹き出すように濃い煙が立ち昇る。
しばらくすると、小高い丘にたどり着いた。
あたりに敵影はない。
そこからは、さきほどの森の中の様子が一望できる。
茂みに身を隠しながら、様子をうかがう。
さきほどまで俺達がいたところに、レッドハンズの別動隊が集まってくる。
煙が立ち込めているが、丘の上からは少し木々が切れていて、よく見えた。風が無いせいで煙は散らず、その場にたまっていく。
地面に転がっていたレッドハンズのメンバーたちがゆらりと起き上がるのが見えた。
彼らは驚いたことに、やってきた別動隊に攻撃し始めたのだった。
「ロア、これは……」
「陣形を敷くような戦術は、兵が『まとも』であることが前提だ。そこを突くと、少数でも崩しやすい」
「あの葉っぱは、なに?」
「クロフォルの葉だ。あまり知られていないが、あれは特殊な加工をすると強い幻覚効果を引き起こし、凶暴性が増す。一昼夜は覚めない代物だ」
別動隊は、味方を攻撃していいのか迷っているのだろう。動きが鈍い。
そこへ向けて、幻覚にやられた魔法師が何発も火球を放っているのがみえた。
「もしかして、このために手加減してた?」
「無論だ。殺そうとすれば柵の外に飛ばされてしまうからな。あとで無事に戦えるよう手加減するのは骨が折れたぞ。さて、他にも何隊か、兵力を増強しよう。火を使う魔法師がいい」
そんな感じで、俺たちは片っ端からレッドハンズを、謎の葉っぱ漬けにして狂わせた。




