1. 果ての砂海
見渡す限り、一面の砂地だった。
砂丘が緩く弧を描き、乾風が褪せた砂を巻きあげていく。
「果ての砂海、か」
響く声は枯れきり低い。後ろ手に縄、くわえて擦り切れた襤褸を纏う。
なのに、その男の瞳は炯々と光を放っていた。
周りの者たちは男の一瞥に、たまらず一歩下がる。
彼らは揃いの鎧に身を包む兵だった。
一人が覚悟を決め剣を抜き放つも、切っ先は震えて揺れる。
どっかりと胡座をかいた男は、眼前の刃から目を離さない。
「殺せ。情ほど始末に負えぬものはない」
その言葉に気圧されたのか、白刃が照りつける陽光に輝く。
振り下ろす刃が断ったのは、肉ではなく戒めの縄だった。
枷が解かれた両腕を握って開き、男は不機嫌そうに兵達に視線を走らす。
「極刑ではなかったか」
「やり方は指示されていない」
兵の返答が掠れ切っているのは、砂風のせいだけではないだろう。
忌々しいと言わんばかりの男の舌打ちに、場が一気に重さを増す。その威圧感に、兵達の鎧が小刻みに震えた。
「剣を、俺の血で汚したくない、か」
「違う! 俺たちは皆、貴方に感謝している」
他兵の制止を聞かず、一人が叫ぶ。
「貴方は俺達を救ってくれた。英雄と呼ばれた貴方を、こんな形で失う、なんて」
嗚咽が、兜の隙間から漏れる。
「どうか、どうか生き延びてください」
哀願の声に、男は静かに頬を一掻きし溜息をつく。
「もうひとつの枷も、外す気はないか」
「他の枷……?」
「知らぬならいい。もう行け」
兵達は安堵したように一礼し、一歩下がった。同時に眩い光が彼らを包み弾ける。後に残るは足跡のみ。
周りはどこまでも広がる、砂、砂、砂。
「買い被り過ぎだ。どいつもこいつも。……カイロスも」
一人残された男は片膝をつき、砂を握る。
粉砂は指の隙間から零れ散る。
僅かにざらつく残滓のみを残して。
「夢を為したお前に、俺はもう必要ないのか」
呟きは砂に吸われ、どこにも届かない。




