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☆神・コラボ回確定☆

「『【コラボ回】白銀のジークと一緒に魔物の家に突撃インタビュー!~物理言語は種族の垣根を超える~』企画~~~♪♪♪」


 宿屋の一室に、フィエルの弾む声とタンバリンの音が虚しく響き渡る。


 ハイテンションな天使、冷ややかな視線を送る俺、そして俺の反応を窺いつつもどこか真剣な面持ちの騎士団長。

 三者三様の反応が、いたたまれない空気を醸成していた。


「……物理言語ってなんだ」


 俺の冷ややかなツッコミにも、フィエルは全く動じない。


「本当にその企画で、民衆からの支持を得られるのか……?」


 ジークが真顔で問い返す。


「ジーク! 甘いです! 人気を得られるかどうかを企画のせいにしてはいけません! 人気とは! バズとは! インフルエンサー自身の魅力と覚悟によって掴み取るものなのですから!」


 フィエルはビシッと指を突きつけ、アイドルのプロデューサーさながらに熱弁する。


「そ、そうか……確かにその通りだ。私の覚悟が試されていると。では、私はどうすれば良い?」


 あまりに素直なジークの反応に、俺は思わず天を仰いだ。


「簡単です。まずはこの服に『着替える』という覚悟を示してください」


 そう言ってフィエルが取り出したのは、純白の生地が眩しい一式だった。

 光沢のあるうさ耳カチューシャ、体にぴっちりとフィットしそうなビスチェタイプのバニースーツ、そして、網タイツ。


「白銀のジークのイメージカラーに合わせて、清廉潔白な白で統一してみました! さあ、これで今日のゴッズ・グラムの話題を根こそぎかっさらってやりましょう!」


「…………」


 ジークは無言でそれを見つめ、次の瞬間、部屋の空気が氷点下まで下がった。

 彼女の肩がわなわなと震え、その端正な顔は屈辱と怒りで朱に染まっている。


「……ふざけて、いるのか?」


 地を這うような低い声が、フィエルに突き刺さる。


「いいえ、大真面目です! これは『平和の使者』としての決意表明! 威圧的な鎧を脱ぎ、無防備でキュートな姿を晒すことで、視聴者たちに親しみを持ってもらうと同時に、魔物の油断も誘える! 名付けて『ギャップ萌え平和条約』です!」


「だが、そのような格好では騎士の誇りが保てんではないか」


「フリフリのドレスを着たまま文句も言わずに戦うルカを見習ってください。彼女はかっこ悪いですか? 全てはバズのためと、羞恥心をかなぐり捨てて画面の前に立つ覚悟が、あなたにありますか? そんなルカをかっこ悪いと断じる資格が、あなたにありますか?」


「いや文句たらたらだけどな? 文句しかないけどな。羞恥心をかなぐり捨てた覚えもないけどな!」


 ジークは「むぅ……」と唸りながら、険しい顔で俺に視線を向ける。


「無理に着なくても良いと思うぞ。そんな薄着で戦場に出て怪我でもしたら大変だろ」


「いや、私にはまだ覚悟が足りなかったようだ。これくらい、着れないようではルカと共に画面の前に立つ資格はない。そう言いたいのだろう」


 いや、違うぞ。なんでそう思った?


 つい口にしかけたが、よく考えればこれは好機だ。

 騎士の格好をした騎士然とした騎士が戦場に出るのが当たり前の国で、一人でフリフリのドレスを着て戦うのと、騎士団長様がバニーガール衣装で戦場に出撃するフランクな国で、フリフリのドレスを着て戦うのは、さてどちらがマシでしょう。


「分かってくれたようだな」


 俺の目と、ジークの目が交わる。

 その間には、奇妙な友情のような何かが、漂い始めていた。


「ああ。だが着替え方が分からん。すまないが、手伝ってくれるか」


「……は?」


「恥ずかしい話だが、このような衣を身に着けたことがないのだ」


 俺もねえよ。

 バニーガール衣装なんて着たことある方が珍しいよ。


 そう、心の中でつぶやいた瞬間。

 俺の着ていたドレスが眩い閃光を放ち始めた。


 純白のフリルは何故か深紅に染まり、光沢のあるバニースーツに。

 胸元のリボンは赤白のツートンカラーのうさ耳に。

 ソックスは足に這うように網タイツへと、姿を変える。


 その間、僅か1秒以下。

 瞬く間に着衣神装ゴッド・ドレスは深紅のバニースーツへと変貌を遂げていた。


「こ、これは……! 着衣神装ゴッド・ドレスの便利機能『トゥデイズ・コーデ』! 着用者の意思をくみ取り、自動で本日のコーデを決めてくれる神機能! これは『ブックマーク』必須です!」


 ……最悪だ。

 これじゃまるで、俺がバニーガール衣装を着たい人みたいじゃないか。


「おっ! ルカのその表情、いただきです! さっそくゴッズグラムにアップしなくては! 【本日のルカ様コーデ】……っと。これはバズの予感しかしませんねっ!」


「なるほど」とつぶやきながら、懐から取り出したメモ用紙に、何やら走り書きをするジーク。

 メモを取り終えると、俺の方に向き直った。


「ルカ、貴様は私に道を示してくれたのだな」


「いや、そういうわけじゃないんだが……」


「その意図も見抜けず、着替えることすらためらっていた自分が恥ずかしい。許してくれ」


 ジークは何かを決意したかのように、鎧を脱ぎ始める。


 カチャカチャ……ポフッ。

 カチャカチャ……ポフッ。


 慣れた手つきで小手を外し、それから頭の後ろで一つに束ねた金色の髪を解き始める。

 それから……


 おっと、何を見ているんだ俺は。

 慌ててジークに背を向けると、スマホのカメラを構えるフィエルと目が合った。


「おい、撮影はやめろ」


「何を言うんです、ルカ! 女騎士が目の前で鎧を脱いでいるのですよ! 女騎士の鎧とはただ身を守るものではありません! その心までもガードしている鋼鉄の鎧を! 我々の前で! 今まさに、脱いでいるのですよ! 無防備な彼女の心に迫れるのは今を置いて他にありません!」


「いいからやめろ」


 力づくで端末を取り上げる。


「ああああああ! ルカ、これを逃せば一生、こんなチャンスはめぐって来ないかもしれないのですよ! 後生ですから! 私に撮影を続けさせてください!」


 尚も何やらご託を並べ立てるフィエルを尻目に、俺は部屋を一度出ることにした。

 女の身とは言え、元は男。

 ジークの着替えを何食わぬ顔で見ていられるほど、俺の神経は図太くないのだ。


 ――――――――――――――――――


 【本日のルカ様コーデ】

 今日のルカ様は真紅のバニーコーデ!

 王国の流行を先取りしちゃうぞ♡

  

  #バニーコーデ流行れ #サプライズコラボ有


 ――――――――――――――――――

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