表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

☆公式デビュー☆

 数日後、俺たちの滞在する宿に、王家の紋章が入った一通の書状が届けられた。


 フィエルが言うには、ゴッズ・グラムでのバズがアストリア王国の為政者たちの耳にも届き、「ゴブリンの群れを単身で殲滅した、女神の使徒たる銀髪の聖女」として、王城への出頭命令が下されたのだという。


「ついに公式デビューですね! さあルカ、とびっきりの一張羅に着替えて……」


「女神の使徒ってなんだよ! 設定盛りすぎだろ! そもそもこのドレス脱げねえよ!」


「今、この世界の人々へゴッズ・グラムの普及が進んでいます。つまり! ルカ、あなたは女神ユーティ様の使徒としてこの世界に名を売らなければならないのです!」


「なんでだよ! 話が1ミリも理解出来ないんだが」


「全ては女神ユーティ様の信仰のため。まずはゴッズ・グラムを人々へ普及させます。その上でユーティ―様の使徒たるルカがバズれば、自ずとこの世界の人間のユーティ様への信仰も高まると言うものです!」


「そんなことに俺を利用するな」


「おやおや、ルカはバズりたくないのですか?」


「興味ないって言ってるだろ」


「またまたぁ」


 フィエルとそんなことを言いあいながら、俺は重い足取りで壮麗な王城へと向かった。

 通された謁見の間には、豪奢な玉座に座る国王と、その脇に控える宰相らしき老人、そして数人の騎士たちがいた。

 彼らの視線が、一斉に俺に突き刺さる。

 それは、好奇、期待、そして――侮蔑。


 特に強い侮蔑の視線を放っていたのは、騎士たちの中央に立つ一人の女性だった。

 磨き上げられた白銀の鎧に身を包み、腰には長剣を携えている。


「白銀のジーク。今、ゴッズ・グラム上で人気絶頂の騎士団長です。そのフォロワー数、なんと10万人超え! 彼女とお近づきになれれば一気に名を売れるかもしれません!」

 フィエルがこっそりと耳打ちして来る。


「向こうはお近づきになる気はさらさら無さそうだが」

 ジークは変わらず、険しい表情で俺を見て……いや、睨んでいた。


 国王による形式的な謁見が終わると、ジークが静かに一歩前に出た。

「陛下。この者が本当に『女神の使徒』たる力を持つのか、私自身の目で見定める許可をいただきたく存じます」

 その声は、見た目通りの低く、よく通る声だった。

 有無を言わせぬ響きに、国王は静かに頷く。


「女神の使徒殿、この申し出、受けてくださるかな」


 品定めするような国王の目つきに、居心地の悪さを感じる。

 周囲が上品な装いで着飾る中、俺だけが大胆に太ももを露出させ、フリフリのドレスを着ているのが、場違いな気がしてならなかった。


「具体的にどうしたいんだ」

 俺は感情を押し殺し、淡々と言う。

 

 すると、ジークが横から口を挟んだ。

「これから私と手合わせして、貴様の実力を測らせてもらう」




 ――場所は城の練兵場に移された。

 俺とジークは、大勢の騎士たちが見守る中、向かい合って立つ。

 ジークは木剣を、俺は丸腰だ。


「貴様の力を見せてみろ。あのゴブリン共を一瞬で屠ったという、その力を」


「女をいたぶる趣味はないんだが」


「これは……面白い。王国最強と謳われるこの私に勝つ気で居るのか」


 ジークの唇の端が、わずかに吊り上がった。それは、獣が獲物を見つけたかのような、獰猛な笑みだった。


「小娘、貴様、名は」


「ルカだ」


「ルカ。その力、本物か試させてもらう!」


 ジークの気配が変わる。

 木剣の構えが、先ほどまでとは比べ物にならない殺気を帯びた。


 一瞬の静寂の後、二つの影が激突した。

 剣戟の音が、練兵場に響き渡る。

 

 俺はジークの放つ横なぎを紙一重で躱す。

 返す一撃を着衣神装ゴッド・ドレスのリボンが防ぐ。


 その隙に間合いに入り……


 と、ここで俺は、練兵場へ移動する最中の、フィエルとの会話を思い出した。


「ルカ、出来うる限り戦いを長引かせたうえで、引き分けてください」


「……は?」


「聖女ルカは民衆に愛されるべき存在です。しかし、王国最強の騎士をたやすく打ち負かすほどの力は、敬愛ではなく畏怖の対象となり、かえって脅威と見なされてしまうのです」


「待て、なんで俺が王国最強の騎士に勝てる前提で話を進めてる?」


「ルカは女神の使徒なのですよ? 女神ユーティ様より賜りし着衣神装ゴッド・ドレスに身を包むルカが、ただの人間に負けるはずないじゃないですか」


 ジークと剣……いや、拳を合わせてみるまで、半信半疑でその言葉を聞いていた俺だったが。


 ……遅い。

 いや、俺の動きが速すぎるのか?

 生前の俺に比べて、確かにこの身体は身軽だ。

 だが、その分筋力も落ちているはずだ。

 

 なのに、この速さはなんだ。

 自分の一挙手一投足が、自分のイメージする速度を軽々と越えてくる。


 これが、着衣神装ゴッド・ドレスの力か……?

 ジークの振るう剣が止まって見える。


 紙一重で躱して、彼女の首元にそっと手刀を振るう。

 彼女はかろうじてそれを躱す。


 今度は少しだけ速度を上げての突き技。

 そうやって彼女の限界を見極める。


 その後は彼女の剣技を避けることに終始した。

 俺が扱うのは一撃必殺の暗殺術。

 万が一、彼女が受け損なったら、痛いじゃ済まないだろうから。


 いつまでそんなことを続けていただろう。

 やがて荘厳な声が響いた。

「そこまで!」


 俺とジークの間に割って入るように、宰相が杖を突き立てた。

 国王が玉座から立ち上がり、静かに命じる。


「勝負は預ける。両者、剣を収めよ」


 俺とジークは視線を交わしたまま、ゆっくりと距離を取る。

 ジークは木剣を収めると、俺に向かって静かに告げた。

「……どうやらお飾りの人形ではなかったようだな」


 その声には、もはや侮蔑の色はなかった。


 遠巻きに見ていたフィエルが、ぱたぱたと飛んでくる。

「すごい! すごいじゃないですかルカ! あの騎士団長と互角なんて! さすが私の見込んだ聖女です!」


「わざとらしい称賛だな」


「そんなルカにご褒美です。これを見てください」


―――――――――――――――――――――――


 ☆☆☆本日のルカ様☆☆☆

 デビュー戦(?)の相手がいきなり騎士団長とかバランス調整どうなってんの!?

 なのに余裕で引き分けるウチの推し。ポテンシャルが天元突破してるんだがwww


 #ウチの最推し#デビュー戦がラスボス戦


―――――――――――――――――――――――


「だからSNSには興味ないって……」


「違います。その下です。何か文字が浮かんでいませんか?」


 金貨5枚、銀貨235枚、銅貨3240枚……。


「なんだこれ」


「ルカを応援したい有志からの投げ銭です。つまり……ルカのお小遣いです」


「って言われても、どれくらいの価値なのかさっぱり分からないんだが」


「一週間は豪遊できます! ちなみに私にお金の管理を任せてもらえれば、一ヶ月は持たせて見せますよ」


「日本円だと三十万くらいか?」


「いいえ、百万くらいでしょう」


「……お前が倹約できる子なのかと一瞬でも期待した俺が馬鹿だった」


「何を言うんですか。それくらい必要経費でしょう! かび臭いベッドで目覚める聖女なんて嫌でしょう? 私もかび臭いベッドで寝泊まりしたくありませんし!」


 正しく天使のような笑顔でこちらを見るフィエル。

 フィエルの手の平の上で踊らされているようで気に食わないが、その指先がスマホを叩くたびに生活費が振り込まれるのも事実……


「あ! そうだルカ、そろそろ女の子特有の日が来るんじゃありませんか? まだ分からないこともたくさんあるでしょう」


「うるさい。余計な気を回すな」


「その日がいつ来ても大丈夫なように、一緒の部屋で寝泊まりしましょう! 安心してください。私が手取り足取り教えてあげますから」


「だから――!」


 こうして、俺の尊厳を大いに破壊することになるその日までの間、俺はフィエルからセクシュアルハラスメント、略してセクハラを受け続ける羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ