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次なるバズを探して

「お待たせしました! 緊急企画会議、開始です!」


 翌日の昼下がり。

 フィエルが高らかに宣言し、俺の平穏なランチタイムは終わりを告げた。


「ルカ、座ってください! クロエさんも!」


 テーブルの上には、すでに企画書とおぼしき紙の束が積み上げられている。

 俺は嫌な予感しかしないその山を見下ろしながら、重い腰を下ろした。


「……なんだ、その紙の山は」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! これぞ、私が徹夜で考えた、聖女ルカの次なるバズりロードマップです!」


 フィエルはバシッと紙の一枚をめくり、俺たちの前に提示した。

 そこには、極彩色のペンで殴り書きされたタイトルが踊っていた。


「突撃! 隣のモンスターハウス! 〜聖女ルカの害獣駆除日誌〜」


「……却下だ」


 俺は即答した。

 タイトルからしてロクなものではない。そもそも隣のモンスターハウスってなんだ。


「ええーっ! まだ内容も説明してないのに! 聞いてくださいよルカ! 今回の魔族騒動で、ルカの『物理で解決する聖女』というブランディングは確立されました! ならば、この路線を突き詰めるのが正解! 世界各地の凶悪な魔物や害獣を、ルカがひたすら物理で黙らせていく……どうです? そそるでしょう? 想像しただけで『いいね』の音が聞こえてきませんか!?」


「聞こえるのは俺のため息だけだ」


「ええー! 絶対バズるのに! 世の男の子たちのハートを鷲掴み間違いなしですよ!」


「そこまでしなくても、もう十分にフォロワー数も増えただろ」


 フィエルのゴッズ・グラムのフォロワー数は、つい先日、十万人を超えた。

 今の俺たちは最早トップレベルのインフルエンサーと言って差し支えなかった。


「SNSはそんなに甘い場所ではありません! 現状維持で満足したインフルエンサーは皆、すぐに忘れ去られてしまうんです! つまり現状維持イコール衰退を意味します! 死ぬ気で数字を取りに行かないとあっという間にファンが離れますよ!」


「うっ……」

 テンション高く身を乗り出してくるフィエルに、思わず引く。


「おっしゃる通りですわ。ラピス・セレスティアのお客様からも、最近は街道に出没する魔物の被害報告が増えていると伺っております。ルカ様がそれらを討伐する姿を配信すれば、ホテルの治安維持アピールにもなりますし、何より……魔物の巣窟というのは、得てして『映える』ロケーションが多いのです。鬱蒼とした未開の森や、薄暗い洞窟……。普段、危険すぎて立ち入ることの出来ないそれらの場所を映像に収めればそれだけで極上のコンテンツとなります。そこにルカ様の美貌が加われば更に……」


「クロエさん! やはり良く分かっていらっしゃる!」

 フィエルがガバっと振り向く。


「ええ、フィエル様とならきっと、ルカ様の魅力を余すことなく世に伝えられますわ」

 振り向いたフィエルの手を取り、がしっと握手を交わすクロエ。


 二人は俺のため息を他所に、勝手に盛り上がり始める。

 ……ったく、この二人は仲が良いんだか悪いんだか。


「第一弾は『森の暴れん坊・グリフォン』なんてどうでしょう? 空中の激戦、絶対バズりますよ!」


「素敵ですわ! でしたら衣装は、動きやすさと可憐さを兼ね備えた、空の騎士風のミニスカートで……」


「採用! さっそく準備しましょう! 善は急げ、バズは待ってくれませんからね!」


 フィエルが立ち上がり、俺の手を強引に引く。


「ちょっと待て。空を飛べるのは『エンジェリック・モード』だけのはずだ」


「大丈夫ですよ。ルカの跳躍力なら翼などなくても、グリフォンごときちょちょいのちょいです! さあルカ、行きますよ! あなたの伝説の第二章が、今ここから始まるのです!」


「わたくしも同行いたしますわ。グリフォンの生息地の近くには、ラピス・セレスティアの支店がありますの。旅の疲れはどうぞそちらで癒してください」


 抵抗する間もなく、俺は二人に引きずられるようにして部屋を出た。

 背後で、パタンとドアが閉まる音がする。

 それは、俺の心の平穏への扉が閉ざされた音のようにも聞こえた。


「さあ、撮影を始めましょう! 旅は道中こそが一番楽しいものですからね! 目的地に着くまでのワクワク感! これをどう視聴者に届けるか……プロデューサーの腕が鳴りますね!」


 フィエルの能天気な掛け声と共に、俺たちは陽光降り注ぐ街の外へと繰り出した。


 ……騒がしい。

 だがこいつの心の底から楽しそうな笑顔を見ていると、少しだけ、こんな騒がしさも悪くないと思えるのだった。

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