表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/38

その後……

 翌日、丁度俺が朝食として出されたパンにクリームを塗りたくっていた時のこと。


「昨夜はお楽しみでしたね」


 対面に座るフィエルは何故かむくれている。

 温度のない声で、じとーっとした目をずっとこちらに向けている。


「なんだ。俺の顔に何かついてるか」


 触らぬ神に祟りなし。

 機嫌の悪そうな時にわざわざ首を突っ込まないのが俺の流儀だが、こうも見られていては言葉をかけざるを得ない。


「昨夜はお楽しみでしたね」


 尚も同じ言葉を発するフィエル。

 ツンと顔をそむけ、何なら「ツーン」と口にしている。


「なんだ、何を怒っている」


「クロエさんとのデートの事ですよ!」


 俺は昨日のことを思い返す。

 確かあの後は、クロエと共に豪華なディナーを食べ、それから記念撮影と称して街の各地でツーショット写真を撮り、それから……


 ――宿への帰り道。


「夜道は危ないですから」


 などとのたまうクロエに、宿に到着するまでずっと腕を組まれていたのだった。

 そりゃもちろん、悪い気はしない。

 女と腕を組んで街を歩くのを嫌がる男などいない。

 ……今の俺を男と称して良いものかは、分からないが。


 途中、レンガ造りの綺麗な橋を通った。

 水の流れる音を聞きながら、月の光を背にして、二人でポーズを取った。


 再び歩く。景色が変わるたびに、ポーズを取る。

 やがて宿の前にまでたどり着く。


 別れ際、彼女は俺の耳元で、甘く囁く。スマホの画面を大切そうに両手で抱えながら。


「今日のルカ様は、誰が何と言おうとわたくしのものですわ」



 ――思い出した。


 確かに、あれはまさにデートだ。

 だがデートとはいえ、クロエの言葉を借りればシークレット・デート。

 ……まさか、フィエルはどこかから見ていたのか。


「思い出したようですね」


 顔を上げると、フィエルがスマホの画面を突きつけてきていた。

 そこには、昨夜の俺とクロエのツーショット写真がデカデカと表示されていた。


 夜景をバックに、腕を組んで歩く俺たちの姿。

 そして、挑発的な文字と共に投稿された、クロエのアカウントによるポスト。

 更には……


「見てください、このハッシュタグ! 『#ルカ様と秘密のデート』『#公式カプは私』『#天使には負けません』……これ、完全に私への宣戦布告ですよね!?」


 フィエルがバンバンとテーブルを叩く。


「大体、プロデューサーである私を差し置いて『独占』だなんて、抜け駆けが過ぎます! ルカはみんなのアイドルなんですよ!? 特定の個人とイチャイチャして、ガチ恋勢がアンチ化したらどう責任取るんですか! 炎上しますよ! 主に私の心が!」


「お前の心が炎上してどうする。それに見た目は女同士なんだ。ガチ恋勢も、てぇてぇだとか言って許してくれるさ」


「甘いです! ルカの考えは、そのパンに塗ったクリームより甘々です!」


 フィエルは食い気味に反論してくる。


「確かに『尊い』は正義です。百合は世界を救います。ですが、それとこれとは話が別です! このハッシュタグの悪意が伝わりませんか!?」


 彼女は再びスマホの画面を突きつけ、ブンブンと振ってみせる。


「『#天使には負けません』……これは明らかに私個人への挑発! 『#公式カプは私』……これはプロデューサーとしての私の地位を揺るがすクーデターです! もしこれを許して、ルカの正妻……じゃなかった、パートナー枠がスポンサーに乗っ取られたらどうするんですか!」


「お前、今どさくさに紛れて正妻とか言わなかったか」


「言ってません! とにかく! 昨日のような単独行動は今後一切禁止です。これからはトイレもお風呂も、この私が同行して厳重に管理させていただきますからね!」


「それは断固拒否する。俺にも人権というものがある」


「問答無用です! さあ、口の周りのクリームを拭いてください。今すぐ『公式』の格の違いを見せつけるための、朝のラブラブツーショットを撮りますよ! タイトルは『寝起きドッキリ☆ルカ様の無防備な朝』で決まりです!」


 俺はクリームたっぷりのパンを口に押し込みながら、朝から騒がしいこの日常に、小さく溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ