フィエルとのアフター
「はい、カ〜ット! お疲れ様でした〜! 配信終了です!」
フィエルの明るい声と共に、スマホの画面が暗転する。
先ほどまでの熱狂的なプロデューサーの顔から、ふと力が抜けたように、フィエルは小さく息を吐いた。
「ごめんなさい。きっとルカは配信する気分じゃないって、分かってたんですけど……」
そう言うと、フィエルはふわりと宙に浮き、俺の目の前へと舞い降りた。
「気を遣わなくていい。俺なら大丈夫だ」
……昔のことを思い出し、ほんの少しだけ郷愁にかられた。ただそれだけのことだ。
「ルカ、たまには私を頼ってくれてもいいんですよ」
フィエルがそっと俺の隣に並ぶ。
月明かりに照らされたその横顔は、どこか幼く、そして穏やかだった。
「他人に頼るとか、柄じゃないんだ」
「ルカのこと、もっと知りたいんです。前世がどうだったかは知りませんが、今は私がいるんです。プロデューサーとして、パートナーとして。辛い時は辛いって言ってください。配信の外では、聖女ルカじゃなくて、ただのルカでいていいんですから」
その言葉に、胸の奥の張り詰めていた何かが、少しだけ緩んだ気がした。
誰かに頼る、誰かに弱みを見せる。
それはかつての俺――殺し屋としての俺には許されなかったことだ。
……おせっかいな天使だな、と思う。
いつものように次のバズを探して目を輝かせていてくれたら、感傷を悟られずに済んだのに。
「……分かったよ。いつか、どうしようもなく辛くなったら、その時は頼らせてもらう」
「はい! いつでもどうぞ! 私の胸はルカのために空けておきますからね!」
フィエルは嬉しそうに破顔すると、いつもの調子に戻って俺の背中をバンと叩いた。
「さ、帰りましょう!」
フィエルは先導するように、軽やかな足取りで歩き出す。
その背中には、先ほどまでの湿っぽい空気は微塵も感じられない。
切り替えの早さは、さすが自称敏腕プロデューサーといったところか。
「……あ、そうだルカ! 今日は大勝利記念ということで、クロエさんに頼んで特上のスイーツを用意してもらいましょう!」
振り返ったフィエルの瞳は、再び欲望――もとい、希望に輝いていた。
その後ろについて、俺も歩を進める。
すぐに並んで、一緒に歩きだす。
二人で一緒に見上げる先には、綺麗な星空が広がっていた。
ほんの少しだけ視線を下げると、そこにはラピス・セレスティアに空いた大穴と、それを憤怒の形相で見つめる、クロエの姿があった。




