ガチ魔族が凸ってきたので返り討ちにします2
夜空の彼方、丁度時計塔の灯りが一番星のように美しく輝くその先に、憤怒に染まるヴァフラムの姿があった。
「貴様らァ! 絶対に逃がさんからな! 魔族を怒らせたこと、骨の髄まで後悔させてやる!」
地獄の底から響くような、殺意に満ちた声。
だが、ラピス・セレスティア最上階の住人たちの声も、決して負けてはいなかった。
「それはこっちのセリフですわ! 絶対に修理代請求しますからね! どこへ逃げようとラピス・セレスティアの全力を以て追い詰めますわ! 早く降りてきなさい!」
「ご託はいいのでリベンジするならさっさと戻ってきてください。このカメラ、あまり遠いと上手く映らないのです。あ、なんならそちらへ伺いましょうか? 丁度私には翼が生えていますので」
鬼の形相でロイヤルスイートに空いた大穴の淵に立つクロエと、言うや否や翼を広げて飛翔し始めたフィエルだ。
「お前らな……」
俺は呆れつつも、窓枠を蹴って夜空へと躍り出た。
このままあいつを暴れさせれば、ホテルどころか街に被害が出る。
聖女として振る舞うつもりはないが、無関係な人間を巻き込むのは寝覚めが悪い。
「馬鹿にしやがって……!」
ヴァフラムが両手を広げると、氷の結晶が雨のように降り注ぐ。
その数、およそ五十。
「ルカ! 弾幕です! 華麗に避けて『神回避』のタグをゲットしましょう!」
フィエルが頭上を飛行しながら俺にカメラを向けた瞬間だった。
突如として着衣神装が眩い光を放ち、脈動する。
光が収束すると、俺の姿は一変していた。
いつものフリルの多いドレスではない。
体のラインに吸い付くような純白の生地に、聖なる文字が金糸で刻まれた、より戦闘的で神々しいドレス。
そして何より、背中には――
「こ、これはぁぁぁ! 出ました! ついに解禁です!」
フィエルが絶叫に近い声を上げる。
「皆さん、スクショの準備はいいですか!? 着衣神装の新フォーム! 『エンジェリック・モード』! その背中には、まるで天使のような純白の翼! その姿は正に純白の天使! 同じく天使の私でもつい見惚れてしまいそうです! さすがルカ様、尊い……尊すぎます!」
「……そのダサいネーミングは何とかならないのか」
フィエルにツッコミを入れつつ、迫りくる氷の結晶を躱す。
「エンジェリック・モード」とやらの翼は、まるで自分の四肢を動かすがごとく、自在に操れた。
「ちょこまかと……!」
ヴァフラムのいらだつ声が聞こえる。
「ルカ! 今の神回避について、カメラに向かって一言お願いします!」
……俺の至近距離に居ながら一発も被弾していないこいつもなかなかだな。
「えーどうやらルカ様は戦闘に集中している様子! 僭越ながら私が代弁しましょう! 『魔族を怒らせてみたけど大したことなかった件。強くなったのは口調だけですかぁ?』とその端正な顔に書いてあります! そして私からも一言! 女神の使徒である聖女ルカ様に逆らったこと、百回死んで悔い改めなさい!」
「書いてねぇよ! それ両方お前が言いたいだけだろ!」
「映えですよ、ルカ! 可憐な聖女の口からもしもこんな煽り文句が飛び出てきたら思わずリピート再生しちゃうでしょう? リピートするうちに、あ、こんな聖女も悪くないな、むしろこんな聖女を推せるのは私(俺)だけだから、私(俺)だけは推してやろうって、ファン心理が過熱するんです!」
「その枠はフィエルで事足りてるだろ」
「私が……? ルカにそう言われると、照れますね〜」
何故か前髪を整えながら翼をばたつかせるフィエル。
一方俺は、翼を自在に動かせはするものの、まだ空を飛翔する感覚に慣れないでいた。
そんな俺をカメラに収めつつ、フィエルは隙あらば自撮り棒を使ってスマホとおしゃべりしていた。
「調子に乗るなよ、雑魚ども!」
そのふざけた様子に業を煮やしたらしいヴァフラムが、今度は巨大な黒い鎌を生成し、接近して来る。
「ルカ! ガードです! パリィしてください!」
「注文が多いんだよ!」
俺はあえて迎え撃った。
鎌が俺の首に届く寸前、俺は翼を硬質化させた。
ガギィィィン!!
「なっ……!?」
その一撃を、見た目だけは柔らかそうな翼が弾く。
見た目に反するその硬度に、ヴァフラムの目が見開かれる。
「出ました! 『エンジェリック・モード』の新機能! 『ウィング・ガード』! 『リボン・ガード』のように自動的には動きませんが、その分自由自在に発動可能! その防御力は今見た通りです! スクショタイムですよ皆さん!」
俺は一瞬の隙をついてヴァフラムの懐に潜り込み、ゼロ距離から掌底を叩き込む。
暗殺術・「穿ち」。
衝撃を内部に浸透させる一撃だ。
「が、はっ……!?」
「悪いな。うちのプロデューサーが百回死ねと仰せだ」
ヴァフラムが苦悶の表情を浮かべ、黒い霧と共に後方へと吹き飛ぶ。
だが……
「ククク……そんな物理攻撃など、我ら魔族には通用し……」
「通用しなくても、痛くはあるんだろ?」
俺は冷ややかに言い放ち、ヴァフラムに向けて次の一撃を放った。




