☆反撃開始☆
部屋に戻った俺を待っていたのは、予想通りというべきか、重苦しい沈黙だった。
フィエルは泣き腫らした目で俺を見上げ、クロエはハンカチを握りしめたまま、視線を彷徨わせている。
「……ルカ?」
フィエルが、恐る恐る声をかけてくる。
俺は何も言わず、二人の前に置かれたローテーブルに自分のスマホを置いた。
カタリ、と硬質な音が響く。
「仕事の時間だ。涙を拭け」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
俺はスマホを操作し、ユーティから送られてきた「抹殺リスト」を画面に表示させる。
「こ、これは……?」
クロエが目を細め、画面に並ぶ文字列を追う。
そこにあるのは、無機質なデータの羅列だ。
だが、その意味を理解した瞬間、彼女の表情が凍りつき、次いで戦慄へと変わった。
「アカウント名『魔王』……本名、ガリウス・フォン・ベルンシュタイン。住所、王都第三地区……ベルンシュタイン伯爵家の三男!? それに、こちらの『真実の探求者』は、大手魔導具商会の副会長……!?」
クロエの声が震える。
無理もない。そこに並んでいるのは、王都でもそれなりに名の通った権力者や、その子息たちの名前だったのだから。
「な、なんですかこれぇっ!?」
フィエルが画面に食らいつくようにして叫んだ。
その瞳から涙は消え、代わりにプロデューサーとしての狂気的な輝きが徐々に戻ってくる。
「全部……全部割れてるじゃないですか! パンツの色まで分かりそうな勢いで個人情報が丸裸です! ルカ、一体どうやってこんな情報を!?」
「神の啓示だ。……文字通りのな」
俺はソファに深く身を沈め、断頭台へ送られるのを待つばかりの「抹殺リスト」に、ほんの少しだけ哀れみを込めた視線を送る。
「さて、どうする? こいつらは安全圏から石を投げているつもりでいる。自分たちが特定されることなど、万に一つもあり得ないと高を括っている」
俺は二人の顔を交互に見やった。
「料理法は任せる。フィエル、お前ならこれをどうバズらせる? クロエ、お前ならこれをどう利用する?」
俺の問いかけに、二人のスイッチが入る音が聞こえた気がした。
フィエルが不敵に笑い、端末を高速でタップし始める。
「決まってるじゃないですか! こんな美味しいネタ、コソコソ隠して使うなんて勿体ない! エンターテインメントの基本は『意外性』と『カタルシス』です! 正義の味方ぶっていた奴らが、実は一番腐敗した特権階級だったなんて、民衆が大好物のストーリーですよ!」
クロエもまた、能面のような冷徹さを取り戻し、美しい指先で顎に触れた。
「ええ……。裏で取引をして弱みを握るのも一興ですが……これだけの規模となると、一度完全に掃除してしまった方が、ルカ様のブランドにとってはプラスになりますわ。徹底的に、慈悲なく叩き潰すことで、『ルカ様に仇なす者はこうなる』という規律を植え付けるのです」
意見は一致したようだ。
「ルカ! 企画内容はもちろんこの私、フィエルに任せてもらえますよね!?」
「ああ、やっちまえ」




