勇者はさらに考える
日向迅視点
「わたしはフェリシア・フォン・ファングロア!この国の王女にして、ファングロア獣王国騎士団総長だったものだ!」
「そうなんだ・・・」
「・・・あまり驚かないんだな」
「まあ、カラクがお姫様とか言ってたし」
予想はしていたが、本当にお姫様なのか。
「ファングロアは数年前。第三王子が起こしたクーデターによって他の親族はいなくなったはず」
フォルトゥナはどういうことかと思考を巡らす。
「それは少し違う。現に私がここにいる」
フォルトゥナは懐疑的な視線をフェリシアに向けた。
「ファングロアの王家は代々フェンリルの獣人が王をつとめているからその白銀の毛は確かにフェンリルの獣人とも言えなくもない。けど、クーデターを起こしたのにわざわざ火種となる王家を生かしておくとも思えないんだよなぁ」
フォルトゥナの不信はそこから来ていた。
「でもカラクの反応は明らかにおかしかったぞ?」
オレはフォルトゥナにカラクの反応について指摘した。フェリシアはカラクという言葉に反応する。そしてオレたちに質問してきた。
「君らの雑談はあとにしてもらおうか。わたしは君らに聞きたいことがあってだな。君らはカラクの仲間なのか?」
フェリシアがその質問した途端に周囲から冷気を感じた。
「何だこれ!」
冷気は大気を凍らせ、オレとフォルトゥナの胴体は急速に氷に包み込まれた。
「救ってくれた恩は感謝する。だが、カラクが関わっているとなればこちらも話は変わってくるのでな」
フェリシアはさらに氷の剣を生成する。
「言葉によってはこの首、無いものと思え!」
その剣先は凍ってないオレの喉元に突きつけられる。
(やばい、死ぬ)
フェリシアの目はマジだった。これは質問を間違えたら殺される。オレは思考を巡らせた。おそらく、この氷は魔法によりできている。異能は? いや、オレの首が飛ぶ方がはやいだろう。フォルトゥナも拘束されちゃってるから立ち向かうのは危険だ。
(なんか強くないか?)
こうも簡単に動けない状況になるなんて・・・まずい状況だ。カラクは簡単に制圧していたように見えたが簡単に制圧できる相手じゃないぞ!オレは眼球だけフォルトゥナの方を見た。フォルトゥナは何か打開策を思いついているのかもしれない。オレが見るとフォルトゥナはいたって冷静だった。何か策があるのか? オレがフォルトゥナを見ているとフォルトゥナはフェリシアに向けて話しかけた。
「少しいいかな?」
オレからフォルトゥナの方に刃が向く。
「なんだ?」
「まわりを見てまだ落ち着けないの?」
フォルトゥナはフェリシアにまわりを見るように言うとそこには騒ぎを聞きつけたのか、オレが奴隷から解放した人たちが集まっていた。
「誰だか知らないが恩人を殺されるのを黙ってみるほど俺たちは薄情じゃない!」
「そうだぞ」
フォルトゥナはこれがわかっていたのか。奴隷から解放された人々は掛け声とともになだれ込み、フェリシアを拘束しようとする。
「っ!?ちょっ!」
フェリシアは氷の剣を持っていたが何もせずに取り押さえられてしまった。取り押さえられた今がチャンスだ。すかさず異能を発動する。
『魔法吸収』
「っ!?」
オレは魔法吸収でオレを拘束していた氷を取り除いた。フェリシアはその光景に驚く。拘束を解いたあと、すかさずオレはフォルトゥナの方にも異能を発動させた。
「冷た! フォルトゥナも! 『魔法吸収』」
「ありがと」
フォルトゥナは氷の拘束が解除されるとすぐに警戒を強めた。こちらは氷の拘束を解いたのに対してフェリシアの方は人々に押さえつけられている。フェリシアは押さえつけている人たちを説得しようとした。
「わたしは君たちを守ろうとしているんだ! 離せ! そこの二人は・・・」
「恩人に刃を向けるやつの言葉なんて信用できるか!」
フェリシアの言葉は人々の声によりかき消される。オレは取り押さえられたフェリシアに話しかける。
「魔法を使わないのか」
さっき使ってた魔法を使えば簡単に抜け出せそうだが使う様子はない。
「わたしの魔法は無垢なる民に向けるものではない!」
どうやらフェリシアなりの信念があるようだ。オレたちは無垢なる民を害するものということか? オレとしては身に覚えがないので誤解ははやく解いておきたい。
「この状況なんだ。素直に話を聞く気になったか?」
「・・・仕方がない」
フェリシアは目を背けながら渋々了承した。
「オレの名前はジン。そしてこっちはフォルトゥナ。お前はフェリシアでいいよな」
「好きに呼べ」
オレはさらに質問していく。
「少し頭を冷やせよ。そもそも、オレはお前とカラクの関係もちっともわかってないんだ。色々と誤解から解いていこうぜ」
オレはフェリシアの誤解を解くために話していく。
「冷静に考えてみろよ。オレたちがお前の敵だったらフェリシアが気絶していたときに殺していただろう?」
カラクが拘束した後にフェリシアが気絶したが、その後に猶予などいくらでもあったはずだ。フェリシアはそれを受けて勢いが落ちる。
「確かに・・・」
フェリシアは黙り込んだ。が、また反論をしてみせた。
「でもカラクと一緒にいたことは説明がつかないぞ」
オレはその意見を弁解する。
「あれは仲間を助けるために一時的に協力をしただけだあって別にカラクの部下とかでもなんでもないぞ? 臨時パーティみたいなものだよ。だからオレはカラクのことはあんまり知らないし、むしろお前の方が知っているんじゃないか?」
カラクがSランクだっていうことぐらいか? オレがわかるのは。
「それは確かにそうかもしれないが・・・」
フェリシアの中でオレたちが敵じゃない判定と敵判定がせめぎ合っているようだ。そしてオレの説明を聞いて冷静になってくるにつれて敵じゃない判定が優勢になってきていると感じる。ん? なんか顔怖いな。もしかしてまだ敵判定優勢か? いや、抵抗はしなくなったから敵じゃないと理解はしているんだろう。そうだよな?
「そもそも! 敵だったら奴隷から解放してないだろ」
「・・・」
フェリシアはただ黙り込んで絶妙な表情をしていた。これはどっちに傾いたかわからない表情だ。オレはフォルトゥナに判断を委ねることにした。
「フォルトゥナ、フェリシアのこの顔はどういうことなんだ?」
「・・・」
「フォルトゥナ?」
「ああ! ごめん! ジン、ちょっとフェリシアについて考え事してて」
どうやらフェリシアについて何か気になることがあるようだが何が気になるのだろうか。
「どうしたんだ?」
「そもそも王族か確証がないと思ってね」
「えっ、そこから?」
カラクの反応的にも王族で間違っていなさそうだがフォルトゥナはまだ疑っていたのか。
「いや、本人の口で王族だよって言うことなら偽物でもできるし、確かにフェンリルの獣人の特徴にはあっているけど、もしかしたら白髪の犬の獣人かもしれないじゃない? べつに確証があればいいんだけど・・・」
フォルトゥナは何か策があるようでフェリシアに近寄ってあるお願いをした。
「ステータスを見せて」
そうかその手段があったか。それはオレが世界樹で水場を不可抗力でのぞいてしまったときにやったやり方だった。フェリシアは黙ってステータスを開いた。
名前 フェリシア・フォン・ファングロア
種族 獣人 (フェンリル)
称号 王家の血 神獣の血族
「・・・これは、」
バリバリに王家だった。フォルトゥナとオレは固まって二人で固まってヒソヒソ話を始める。
「どうしよう? お父さんを救いたいってときに・・・」
「・・・すまん。多分それ、オレがハプニング引き寄せてるわ」
異能は相変わらず仕事をしているらしい。なんか申し訳なくなってきた。
「それに王女って・・・絶対面倒くさいことになるよ? これ」
フォルトゥナは王女だと言う事実を信じたくないらしく現実逃避をはじめる。だがフェリシアは現実逃避をさせてくれなかった。
「確かに敵じゃない可能性の方が高そうだ。だが、味方だとしても君たちはわたしと協力するしか道はない」
どうやらオレたちは敵じゃない判定になったらしい。だがその後に何か不穏なことを言っている。
「何を言って・・・っ!?」
フォルトゥナはそこで何かに気づいたのかやらかしたかの如く頭を抱えた。どうやらフェリシアが言った言葉の真意に気づいたようだった。
「どうしよう・・・」
「どうかしたんだ?」
オレはどういうことかわからなかったのでフォルトゥナに聞いてみる。
「私たち、現王政に対して完全に敵対行動を取ってる・・・」
「え?」
フォルトゥナはさらに説明をする。
「ジン、よく考えてみて? ファングロアは今ね? 国としてすごく不安定なの。クーデターで第三王子が王座についたけど国民からの不満は大きい。そこで死んだとされていた王女が姿を現したらどうなると思う?」
「・・・内戦だ」
オレはことの重大さを身に沁みて感じる。そこでフォルトゥナの説明は終わらない。
「それでさ。王女を奴隷から解放したのは誰だっけ?」
オレだった。
「その行為、王様が許すと思う?」
「・・・許さないな」
この王女が特大の地雷源だったわけか。それをオレが踏んだと。
「やべーじゃん!」
ここで一旦二人のヒソヒソ話を終える。フォルトゥナは少し投げやりになった。
「まずいよ、これ! どうしよう。さらに面倒くさくなってるじゃん! これわたしたちだけじゃ対応できないよ? 世界樹の方にも伝えないと! ジン! 近くに小精霊いない? ポリシアと連絡を取りたいんだけど!?」
「なんかここに来てから精霊全然見かけないんだよな」
何もかもうまくいかなかった。
「ハプニングが多すぎる・・・。とりあえずお父さんを助けにいかないとだし、王女どうするかもそうだし! ・・・もう! 次から次へと、どうすればいいの!」
フォルトゥナの叫びが盗賊の村に響いた。
・・・
あれから少し時間がたち、とにかく行動しようということになってオレたちは現在フェリシアを拘束しながら移動中だ。奴隷から解放した人々を置いていくわけにはいかない。フェリシアは一応暴れたため集団の不安を抑制するためにも拘束してある。
「これ絶対アナシスに追いつけないんじゃないか?」
大人数であるためスピードはそんなに速くない。さらには大人数を運ぶ量の馬車はなかったのでどちらにしろ歩きペースだ。追いつけるはずがなかった。
「あー。ちょっと今、脳動いてないから」
フォルトゥナは現在顔がバカになっている。本人曰く今は何も考えたくないらしい。
「そもそもお父さんを奴隷にしようとするの? お父さんあれでも、高位の神官なんだけど? おかしいでしょ。キマ教と敵対でもしたいのかな」
フォルトゥナは文句を垂れている。アナシスの救出は現在の状況を鑑みるとすごく厄介だ。その原因はもちろん王女であるフェリシアのせいだった。現在オレたちはフェリシアとファングロアの現在の王様の板挟みにあっている。フェリシアはオレが奴隷から解放したため現王政にこのことを知られたらまずいし、フェリシアを裏切ったら密告される可能性もある。前からも後ろからも刺されてもおかしくない状況だ。フェリシアを奴隷にして現在の王様に差し出せば全て解決だって? そもそも奴隷だったのを解放したのはオレだ。マッチポンプもいいところだし、フェリシアは何気に強い。てか普通に強い。オレとフォルトゥナが一瞬で拘束されるくらいには。騎士団総長を名乗る実力は確かにある。そんなやつに生命維持の契約を結んで再び奴隷にするなど無理だろう。そもそもなんでそんな実力あるのに生命維持の契約で奴隷になってるんだよ。もしかしてカラクに負けて奴隷になったのか。だったら恨むのも納得だが。それに奴隷から解放したやつを自分の都合で再び奴隷にするなんて倫理観的にも間違っている。曲がりなりにもこちとら勇者だぞ。
「これは、交渉以前の問題か?」
「・・・」
フォルトゥナも黙り込んでいた。王女は拘束されながら移動するなんて今の現状を考えたら不安だろうに逃げようという素振りは見せない。拘束されているとは思えない落ち着きようだった。もしかしたらいつでも逃げられるからこのままでいるのかもしれない。オレとフォルトゥナは拘束されたフェリシアが積まれている荷台に定期的に訪れるとその都度雑談を交わす。そのおかげもあって以前の怖い顔もだんだんと和らいでいった。そしてオレたちはまた雑談をしにいく。フェリシアは荷台の外をじっと眺めていた。そしてオレたちに話しかける。
「昔は精霊がもっといたのに・・・随分と見なくなった」
フェリシアはまわりを見て嘆いていた。オレも探しているが本当にこの辺りには精霊が見当たらない。
「ん? フェリシアは精霊が見えるのか?」
そういえば、精霊女王はともかく、小精霊は見れる人は稀少なんじゃなかったか? オレの疑問にフェリシアはすぐに答えてくれた。
「わたしは精霊が見えるぞ? 昔はファングロアにも今より精霊がいてな。寂しくなったものだ・・・。国が廃れるのを見るのは辛いものがある。」
国が廃れる? 精霊の多さに関係とかあるのだろうか? オレは疑問に思っているとフォルトゥナが答えてくれた。
「精霊は楽しいところほどいっぱいいるらしいよ?」
つまりは精霊がいないここは楽しくない場所ってわけか。確かに元々精霊がいたのにいなくなっているなら廃れていると言えるか。オレたちはそうした雑談をしながら進んでいく。
「もうそろそろ村かなんかあるかな?」
「服の代わりに布の人がいるからちゃんとした服を着させてあげたいしね」
そうして少し歩いていると村じゃないがあるものを発見した。
「小精霊だ!」
ここに来て久しぶりに見かけた。世界樹付近と比べたら本当に精霊が少ないな。
「フォルトゥナ! 小精霊がいたぞ!」
オレは嬉しそうにフォルトゥナに告げるとフォルトゥナもオレに嬉しそうに近寄る。
「いったんここで休憩だ」
オレは集団に休憩を告げた。小精霊がこちらに近づいてくる。
「なになに? なんかあたしがみえてそうじゃん。おはなしにつきあってよ!」
この小精霊はどこかノリノリな雰囲気があった。
「ポリシアに繋ぐことはできるか?」
「えー。じょおうさまになんかようなの?」
「緊急事態なんだ! 頼む!」
オレは小精霊に頼み込んだ。
「もう、しょうがないな。しょうせいれいにまかせなさい!」
小精霊は頼みを引き受けてくれる。
「どう? 繋がった?」
フォルトゥナはこちらの報告を待っていた。
「いや、もうすぐで繋がる・・・」
「せいれいじょおうさんじょうだよー」
小精霊はポリシアの存在を体いっぱいで表し始めた。
「じょおうさまがどうしたの? だって!」
精霊を介して世界樹にいるはずの精霊女王ポリシアと繋がる。精霊女王は遠隔から他の精霊の視界を伝えたり、要望を送ることができるから成せる技であった。
「ポリシア。実は今・・・」
オレは今の現状を事細かに伝える。小精霊はポリシアの感情を表すかの如く全身で困った態度を見せた。
「あなしすがやばいのね。これはやばいね!」
小精霊はうんうんと頷いている。ポリシアの言葉の翻訳は小精霊次第なのでときには全く違うことを言っている可能性もあった。
「小精霊。これちゃんと翻訳できてるよな?」
「しつれいな! おこっちゃうよ。ぷんぷん」
まあ、察する通り細かい指示を伝えるのは難しい。それからも小精霊の言葉を読み解き頑張って情報を交換していく。
「じゃ、これで! またね!」
「ありがとうな・・・ふぅ」
「どうだった?」
フォルトゥナは小精霊を認識できないので、オレがポリシアから聞いた情報を今かと待っていた。
「そうだな。まずはアナシスの交渉だな」
「盗賊からお父さんは王様に送るから王都の方に向かっているって聞いたけど・・・」
「とにかく、追いつけそうにないし、王都に行って交渉だな」
「そうだね」
フォルトゥナと二人で確かめ合う。
「それと今救助した人たちなんだが、それもこの先にある街まで送り届ける必要があるって」
「まあ、いつまでも旅に連れさせるわけにもしかないし・・・」
これは街に行けば解決できる。そして最後の問題だが・・・
「まあ、最後が一番の難所だな」
「何となく予想はついてるよ?」
「フォルトゥナが予想するようにフェリシアをどうするかって言う問題だな」
オレは小精霊ごしに聞いた案をフォルトゥナに提案する。
「ポリシアって案外こういうこと思いつくんだな。それでだな、フェリシアをアナシス救出の脅しに使うって案だな」
ファングロアは前述した通り、現在政治的に不安定だ。王女の存在はノイズだ。そもそも相手もアナシスを奴隷にし、キマ教に喧嘩を売っているのでそれを買ってしまおうってことだな。
「作戦に強引さがない?」
「相手の出方がわからない以上、どう行動すればいいかわからないからな。とりあえずの大枠だよ」
そもそも相手がこちらが王女を誰が解放したかもそもそも解放されたかもわかっていないかもしれないのだ。情報は未知数である。
「どちらにせよ、そこの王女と話をしないとだな」
オレはフェリシアの方をチラッと見る。どちらにせよアナシスには追いつけなさそうだし、王都で王様と交渉してくるしかない。そのときに王女は作戦の上で大きな鍵となる人物だ。
「まあ、悩んでても仕方がないし、やれるところからやるしかないね」
フォルトゥナは吹っ切れると決意をさらに漲らせた。




