勇者と殺しの覚悟
日向迅視点
「外に出たら走るぞ」
アナシスの言葉と共にオレたちは結界を抜け出した。
「万が一人ざらいに遭遇したときはどうしたらいいんだ?」
オレはアナシスに聞く。
「そのときは殺すしかないだろう」
オレはその言葉を聞き少したじろいだ。元の世界でもこっちに来てからも人を殺すことはなかった。
(もし人ざらいが来ても殺せるだろうか?)
オレたちが素早く移動しているとぷよぷよとしたものが近づいてきた。
「これは確か・・・小精霊だったか」
オレはそれに足を止める。
「ジン! 足を止めるな」
アナシスはオレを注意する。
「小精霊が何か言おうと・・・」
オレは小精霊のことを二人に伝える。
「何?」
「そういえば、ジンって精霊が見えてたよね。それで?小精霊は何て?」
二人もオレの言葉に足を止めた。
「わたしポリシア。このさきあぶない。フォルトゥナにつたえて」
「ポリシア?」
確か精霊女王の。オレの言葉にフォルトゥナは反応した。
「ポリシアは他の精霊の視界を見たりお願いしたりできるんだよ。それでなんか言ってた?」
「ああ、この先が危ないって言ってたな」
「ならば迂回したほうがいい」
アナシスはそういうと早速遠回りに動く選択をした。アナシスは現在感知を展開しているがどうやら範囲外の先に人ざらいがいたらしい。
「ちなみにその人ざらいに囚われているやつはいないんだよな」
オレは小精霊に確認をとる。
「たぶんいないとおもうよ」
そうかならよかった。オレは安心するも束の間、オレたちを罠が襲った。
「うわっ!」
「魔物か!」
フォルトゥナの悲鳴にオレは身構えるがそれは罠でありフォルトゥナの足をがっしりとホールドし、吊し上げた。
「きゃーぁあ」
それと共に連鎖して罠が発動する。
「バンッ」
「っ! フォルトゥナ」
爆発音が響くと周りが煙幕で包まれる。
「まずい! 毒だ! 吸うな!」
アナシスの言葉に口を塞ぐそして異能を発動した。
「グレーホール」
オレは毒物を異能で吸い取っていく。そしてオレが吸い込んだことで毒の煙幕でが晴れる。
『ウィンドカッター』
『ウィンドクッション』
宙吊りになったフォルトゥナはアナシスによって助けられた。
「大丈夫だったか? フォルトゥナ」
「ありがとう。お父さん」
「罠が発動したここは危険だ。今すぐに・・・」
アナシスは発言をやめて身構えた。
「あれ? バレちゃってる? 釣れないな。罠も壊れてんじゃん。これハズレ引いたんじゃない?」
そこには猫の耳が生えた男がナイフを構えていた。
「だが上玉があるじゃないか。こりゃ当たりだぜ」
男の犬の獣人がまた後ろから来た。犬の獣人はフォルトゥナを見て舌なめずりした。アナシスは咄嗟にフォルトゥナを庇う。オレもフォルトゥナと男たちの間に位置するように構えた。
「こいつら毒で弱ってる気配がないが、まさか不発に終わったんじゃないだろうな」
「それはないだろう。爆発の音はお前だって聞いたはずだ。なんらかの形で無効化したってところか」
奴らの口ぶり的に罠を仕掛けたのはこいつらのようだ。
「貴様らか。私の娘を罠に嵌めたのは」
「そうだが、なんだ?まさかここで抵抗するとかないよな。おいおい、オレらが二人だけと思っちゃ困るぜ」
猫の獣人はそういうと背後からゾロゾロと現れる。
「わかっているさ。感知で感じたからね」
アナシスは声色が低くなり始める。
「娘に手を出して、タダで済むと思っているのかな?」
アナシスは静かながらもぐつぐつと怒りを燃やしていた。オレは戦う準備として大気を吸収に入る。
「ジン、お前は近づいてきたやつの処理を頼む」
そういうとアナシスは魔法を発動した。
『サイクロン』
その瞬間、嵐ができ、人ざらいへと向かっていく。
「上級魔法!?」
犬の獣人はかろうじて魔法をかわす。『サイクロン』の影響で人ざらいの軍勢の統率は乱れた。
『ウォーターランス』
そしてかろうじて生き残ったものも着実に仕留めていく。
「市街地ならいざ知らず、ここは森の中。この程度の攻撃で死んでくれるなよ」
アナシスは木の影に隠れたものを消すためさらに魔法を行使した。
「魔法使いなら接近をするまで!」
猫の獣人がこちらに向かって接近してくる。
「ジン! 猫の方を頼む。わたしは犬の方をやる」
その言葉通りに猫の獣人の方に向かっていく。オレは近づいてくる猫の獣人との間に先ほど吸収した毒の壁を作る。
「!? これは!? 毒!」
オレの展開した毒を感知した猫の獣人は鼻を塞ぐ。
オレはその動作を見逃さず剣を振るう。
「なっ!」
だがオレの剣は猫の獣人に受け止められる。
「軽い!」
オレの剣は軽そうに弾き返される。そしてオレは咄嗟に後ろに避ける。
猫の獣人の短剣はオレの胴を薄く切り裂いた。猫の獣人の第二の剣撃が迫る。オレは咄嗟に空気を解き放った。
『リリース』
それに猫の獣人は体を押し返される。溜める時間時間が短かったようで威力はほどほどだ。オレはすかさず第二陣の補充に入る。
「ジン!」
フォルトゥナは心配そうにすると魔法を唱えた。
『神聖魔法』
フォルトゥナが魔法を発動するとオレの胴の切り傷は回復していく。
「これは・・・」
マルタ様が使っていたやつだ。フォルトゥナも使えたのか。フォルトゥナは魔法をかけたあとオレに注意する。
「マルタ様みたいに万能じゃないから。並べく傷は負わないでよね」
「ああ、わかった」
オレはフォルトゥナの言葉を噛み締めると猫の獣人の攻撃に備える。
「まさか、身体強化もない剣士だなんて。雑魚だな」
猫の獣人はオレを見て獲物を見る目をする。完全にオレを獲物認定した猫の獣人は再びオレに向かって突進してくる。
オレの剣は奴には聞かなかった。現在、効果が少しでもあるとすればリリースによる空気砲だが、先ほど放出したばっかだ。まだ溜める必要がある。
オレは考える。だが考える間もなく相手は迫ってくる。
「死ね」
純粋な突きがオレを襲う。オレは間合いに入られないように振るう。
「ちっ」
大ぶりな動作はやめ、純粋に短剣の間合いに近づかれないようにして立ち回る。おそらくは力では猫の獣人が勝っているだろう。だから技で勝負した。
力は逃し、カウンターを狙う。そして確実にダメージを稼いでいく。
「うざったい!」
猫の獣人はこれのカウンターで着実に傷が増えていった。もちろん、いなしきれなくて傷を負うこともあるがこちらにはフォルトゥナがいた。少しの傷ならフォルトゥナが回復してくれる。時間を稼ぐうちにあれが溜まる。オレはあえて隙を晒すように大ぶりの構えで猫の獣人を迎えた。
「隙だらけだ! 死ね!」
猫の獣人はこちらに速いスピードで突っ込んできた。オレは大ぶりの構えから渾身の一撃を放つ。
「馬鹿が! それじゃあ遅い」
オレの大ぶりの振りでは猫の獣人の一撃が先に届いてしまう。はずだった。
『リリース』
オレは貯蓄した空気を一気に放出する。その空気は剣を押し出し推進力を作り出す。それは猫の獣人の想定を大いに上回っていた。想像よりも速い振りに猫の獣人は咄嗟に短剣でガードを試みるが意味がなかった。その一撃は風が刀身に纏わりつきさらに風が推進力となることで本来よりも高威力で速い一撃になり、それは剣が通る道をただただ叩き割った。猫の獣人は短剣と共に両断された。
『ウィンドソード』
オレの一撃が猫の獣人を絶命に至らしめた。オレは今の手の感触がこびりついた。
「オレが殺したんだ・・・」
オレはこれまでに感じたことのない自分が殺したという事実を突きつけられるのだった。
「人を殺すってこんな気持ちなんだな」
オレの初めての殺しをして感じたことといえば何もなかった。ただただその場の状態に流されて、ただやらなければやられるという感情に任せて剣を振るった。そこで発生した殺しはオレに違和感を与えなかった。ただこれが当たり前だと言わんばかりにその光景を見ても何も思わなかった。もしかしたらただただ呆然とすると言った方が正しいかもしれない。オレは目の前の死体を少しじっと見た。
「ジ・・・」
「ねぇ・・・ン」
「ジン!」
死体に目がいっていたオレをフォルトゥナが現実に戻す。
「ジン。大丈夫」
フォルトゥナはオレの様子に神聖魔法をかけてくれる。
「ああ、大丈夫!」
オレはフォルトゥナに大丈夫だと伝えた。どうやらひと段落したみたいだな。アナシスの方を見ても人ざらいは綺麗に一掃されていた。
「片付いたか」
アナシスはそういうと戦闘でついた砂埃を払う仕草をするといった。
「他にも人ざらいがいないとも限らない。移動するぞ。世界樹の付近を抜ければ安全になる」
オレたちはアナシスの言葉を聞くと人ざらいがこないうちに急いでその場を後にした。
キマの不思議な生物図鑑④
名前 なし
種族 デフォルメスライム
スライムは弱い生き物である。だからこそ襲われたら元も子もない。そんなスライムだが独自に進化した固有種というものも存在する。その一つがデフォルメスライムだ。スライムが人類に守ってもらおうと思って進化した姿であり、人間に極めて友好的。しかしかわいい見た目を得る代わりに元々弱いスライムよりさらに弱くなっている。その生態から人間からマスコットとして可愛がられることに成功したはいいがさながら守ってもらう相手を間違えた。デフォルメスライムは野生で生きているのであり、人間とは生活スペースが違ったのだ。デフォルメスライムが人間に守ってもらう場面はごく稀でさらに普通のスライムより弱いからすぐに死ぬ。さらに人間に懐かれるためになんかいい香りまで発しているため次々と動物の胃袋へと消えていった。現在は野生のデフォルメスライムは絶滅したとされ、人工的に増えたデフォルメスライムだけとなっている。デフォルメスライムはその可愛さといい香りがすることから富裕層に人気で高値で取引されている。




