勇者は屋敷を出る
日向迅視点
オレとフォルトゥナとアナシスの三人は屋敷を出て、目的地へと目指していく。屋敷の周りには自然が溢れていたが少し歩くと建物が見えてきた。
「おっ、人だ」
オレは人を発見する。よくよく目を凝らして見てみると耳が長かった。エルフだ。
「これが世界樹の街ククナの景色だよ」
フォルトゥナはオレに対してぶっきらぼうな口ぶりで言う。
「ククナって言うのか」
世界樹の下に位置するこの街は本来なら日陰のはずの場所なのだが何故か明るくなっていて空気がうまく、心地がいい。
「それにしてもエルフしかいないな」
見渡す限りのエルフでヒューマンはいなかった。それにフォルトゥナのように角が生えているやつもいない。
「それは精霊女王の結界のせいだよ」
「結界?」
オレはその言葉に首を傾げたがそのままフォルトゥナは説明してくれる。
「ポリシアが許可したもの以外を弾く結界を張ってるんだよ。基本的に今ここにいるのは一緒に世界樹を拠点にしているエルフがほとんどだろうね」
フォルトゥナの言葉はどこか冷淡だった。やはり最初の出会いが出会いだ。オレの印象はマイナスからスタートというところか。なりゆきでこうなったが、旅の仲間なのだ。仲良くしていかなくては。
「あの・・・フォルトゥナさん?」
オレが恐る恐る話しかけるとフォルトゥナはこちらの方に向く。
「何? それとフォルトゥナでいいよ。お姉ちゃんからも仲良くするよう言われてるし」
フォルトゥナは面倒くさがりながらも話は聞いてくれるようだ。
「なんかさ。この街を見てるとさ。マルタ様の屋敷が異様に感じるんだけど、やっぱマルタ様ってすごい偉い人なの?」
オレは色々と疑問を解消することから始めた。
「いや、そんなの当たり前でしょ。だってお姉ちゃんは世界で一番信仰されている宗教の事実上トップなんだよ」
「・・・まじか」
高いことは予想していたが予想は斜め上に吹き飛んだ。巫女服やらなんやらでヒントは散りばめられていたがまさかトップだなんて。あれ、なんかオレ失言とかしてないよな。心の声とか漏れてないよな。
オレはこれまでの自分の行いに心臓をバクバクさせているともっと衝撃的なことを告げられる。
「もっと言えば、ポリシアも精霊女王だし、スノーはエルフの長だし、あげればキリがないよ」
爆弾がオレに向かって次々と投下されていく。流石に肩書きが渋滞していた。
「ポリシアが結界をどうとか言っていたのはそういうことだったのか」
オレはその情報の渋滞を一つ一つ読み解き対応していく。
「あれ? じゃあフォルトゥナは何か」
「私はただの魔人族だよ」
「魔人族?」
確か魔族あたりの話で聞いたフレーズな気がするがよく覚えていない。オレの反応からアナシスは補足する。
「魔人族は魔石が体内にある種族だ。今は大体魔族と同じと見るものが多いけどな」
アナシスはフォルトゥナとは違い威嚇するような口ぶりだ。
「あれ? 魔族ってことは現在戦争している魔王のとこの種族か?」
「私は魔族陣営に位置している種族だけど魔王とは関係ないかな?私は小さい頃にね。お姉ちゃんに保護されてお父さんの養子になったんだよ」
オレはそれにうんうんと相づちをする。そのあとも少し話をしていると屋敷を出て少し状況が落ち着いたからだろうか。なぜかは知らないが、急に疑問が頭に浮かんだ。
「そもそも、なんで魔王のところに行かなくちゃいけないんだっけ?」
世界樹の話では勇者だから戦争を起こした魔王を止めてこいみたいなふうに言われたわけだが、そもそも魔族の王なのだ。ゲームのようにはいどうぞと王座の間に通してくれるだろうか。それに考えてみればオレが魔王のところにいく必要はどこにもない。
「どうかしたの?」
フォルトゥナはオレの発言に引きながらも気にかける。
「いや、そう言えばオレが行く意味もなくない?」
オレはそもそもの問題に気づいてしまった。
「それでも勇者なの? 目的なんて・・・確かにない。そもそも私が選ばれた理由だって」
フォルトゥナも考えてみるが出てこないようだ。そのことをフォローするかのごとく見かねたアナシスが発言する。
「フォルトゥナ、それに・・・ジン、別に旅をしなくても大丈夫なんだよ」
オレはその言葉にフリーズする。
「今なんて?」
それにアナシスは答えた。
「世界樹は世界で神の知識を覗ける貴重な存在だ。だが神の知識を覗いているだけで思考を覗いているわけじゃないんだよ。つまりは知識から神の思考を予測しているにすぎない。神の言葉ならともかく強制されるものでないよ」
アナシスはそう答えるとフォルトゥナも驚く。
「えっ、でもキマ様の考えかもしれないんだよ」
「確かにわたしはキマ教の信者ではあるけど、別に世界樹を信仰しているわけじゃないんだ。それにこれは命に関わる問題だ。それに世界樹が神の思考を読み取るなんぞ無理があるだろう?フォルトゥナ」
オレのときとは違いどこか優しい口調で話しているアナシスはフォルトゥナを撫でようとするが振り払われる。
「もう子供じゃないんだからやめて!」
「うっ」
アナシスはどこか悲しそうだった。
・・・
「じゃあ、なんのために旅をするの?」
フォルトゥナはそもそもの話をする。
「何となく旅をするのか?」
オレもそれに疑問が浮かんだ。
「いや、主旨は魔王を止めることだ」
アナシスは冷静に主旨を正した。
「それにこれはフォルトゥナにも関係があることなんだよ。このまま進んでいくと魔族の迫害が起こる可能性がある。今はこの大陸ではないが主戦場であるグレートエッジ大陸では迫害が起こっているかもしれないな。これは放っておくと世界に伝播するだろう。このままだとフォルトゥナはお日様のもとで歩けなくなるかも知れない。それに世界樹は神の知識しか知らないがそれでもわかることはある。きっといけば何かが起こるのだろうね。だからこの旅も無駄にはならないはずだよ」
アナシスの言葉にフォルトゥナは固まった。
「このまま戦争が続いたらわたしも迫害されて・・・」
フォルトゥナは何か悪い想像をしているのか顔が青くなった。
「そう言えばオレの元いた世界では昔に魔女裁判なんてものがあったらしいな」
「魔女裁判?」
オレは魔女裁判の話をフォルトゥナにした。
「・・・って、こういうことがあってだな」
「ひぇ!」
オレが魔女裁判の話をするとフォルトゥナは怖がる。怖がるフォルトゥナを見たアナシスがオレを止める。
「それくらいにしてもらおうか。フォルトゥナが怖がってらのでね」
オレとフォルトゥナの間に割り込みそのまま居座った。
「ああ、ごめん」
オレは謝る。そしてアナシスは改めてオレに向かって言った。
「それでジン。お前も恐らく魔王との会合において役割があるのだろう。どうか娘のためにもこの旅についてきてくれないか? 私も娘の件は忘れよう。どうか一緒についてきてくれないか?」
アナシスは手を差し出した。これを取れば本当の意味で旅が始まることを意味していた。オレは色々と考えていたがどうするか決まった。
「おう、これから頑張ろうぜ」
オレはアナシスの手を取る。オレの明確な目的が決まった。なんか大義もなくただ目的を遂行するのってなんか気持ちが悪いからな。オレは仲間の今後のため、魔王に直談判する。これが目標になった。
「ジン・・・これからよろしく頼む」
アナシスの手が強く握られる。そしてその握手の上に覆い被さるようにフォルトゥナの手が加わる。
「わたしももちろんこの旅に参加するよ」
俺たちは決意を固めて早くも再スタートするのだった。
日向迅の世界の出来事①
魔女裁判
異能の差別により生まれた迫害の象徴的な事件。それは一人のテロリストによって起こされた。テロリストオスカー・リブラは異能魔女への鉄鎚により人々の差別の感情を湧き立たせ先導した。異能の名前から魔女裁判とのちに名付けられたこの事件は多くの被害者を出した。




