勇者は異能を確かめる
日向迅視点
オレは例の現場から離れて部屋に案内される。
「ここですね。ヒナタさん。どうぞ、ゆっくりして行ってください」
そう言ってマルタ様は出て行ってしまった。
(マルタ様、美しかったなぁ)
オレは感慨にふける。あっと、危ない危ない。時間を忘れて耽っているわけにもいかない。オレは異世界にきたのだ。オレは気持ちを切り替えると、部屋の間取りを見た。ベッドにソファとホテルの一室にいるような感覚だ。オレはソファにダイブし、くつろぐ。
「ふぅ、まずはひと段落・・・」
オレはソファにくつろぎながらこの世界に来てからのことを振り返る。
「いやー、危うく異世界に来て早々に死ぬところだったな」
ポリシアに魔法を放たれそうになったときは流石にもうダメかと思った。
「そういえば、オレは魔法は使えるのか?」
疑問が深まったのでオレはみようみまねでやってみようとする。
「確か、オレが見た中で名前とか言っていたのは・・・『ウィンドカッター』!」
「・・・」
あれ?何も起きないな。さらに他のもの試してみる。
「じゃあ、マルタ様が使ってたやつは?『神聖魔法』!」
「・・・」
やはりこれでも何も起きることはなかった。
「・・・出来ないな。まあ、そりゃそうか。見よう見まねでやっても出来るものじゃないか!」
オレは少しがっかりすると今度は自分が持っている力にも目を向ける。
「じゃあ、今度はオレの異能グレーホールになるんだが・・・神様は確か、さらに強力にしたとか言っていたが、どこが変わったんだ?」
とりあえずは能力を確かめてみることにする。
「まずは吸収だな」
オレの異能グレーホールは簡潔に言えば溜めて放つ能力だ。オレの吸収の能力を確かめるために空気に向かって吸収を使う。するとオレに向かってどこからともなく空気が吸収されていった。オレはその威力にすぐ吸収を止める。
「これは・・・一度に吸収出来る量が格段に違う」
前は吸引力のすごい掃除機くらいしかなかったが今回はすごいポンプで吸い上げた見たいな感じだ。見た目だけ見ても過去のオレの異能とは性能が違かった。
「と言うことは放出も・・・」
オレは念の為窓の外に向けて手をかざす。そしてそこから空気の放出を開始した。
「ブゥアーーー」
オレが吸収した空気は一気に開放されたことで強風となって吹き乱れた。その風圧によりオレの髪も乱れる。
「やばすぎんだろ」
オレは呆然とする。こんなに強い威力が出るのか?前では放出でもこの威力は出せない。放出といっても蛇口のようなものなので一度に出せる量には限度があるからだ。しかし、吸収だけでなく放出の能力も大幅に上がっていた。そしてオレはあることを危惧する。
「これ、性能が上がっているなら。不運を引き寄せる力も上がっているんじゃ・・・」
そこでオレは異世界に来てからの展開を振り返る。うん、確かにあり得そうだな。
「って、不運を引き寄せたことが原因で死んだのに不運を引き寄せる力を上げてどうするんだよ!」
なんか、本末転倒な気がする。オレはそのことに気づき頭を抱えていると扉がノックされたのを聞き取る。
「なんだ?」
オレはそれを聞き取り、扉を開けると外にはまだ小学生なりたてくらいの大きさの男の子がいた。
「あっ!やっぱりここにいた!世界樹の話を聞いて母様がとんでいってたけど、無事だったみたいだね」
その少年は緑に近い黄色の髪をしていてオレとは違いとてもサラサラそうだ。羨ましい。さらに服装はとても上品であり、雰囲気もどこかその年にしては落ち着いて見えた。少年はオレのことを知っているようだがオレはその少年のことを知らない。オレは少年に名前を尋ねる。
「そこの坊主、名前はなんて言うんだ?」
それに少し不機嫌になりながら答えた。
「坊主じゃないし!せめてもっと、他の言い方があるでしょ!・・・まあ、ともかくまだ自己紹介が済んでなかったね。僕はテオ。よろしくね!」
そう言うとテオは握手をしようと手を向けてくる。オレはそれを握り返した。
「よろしくな!テオ!オレは日向迅!よろしくな!」
オレが握手を交わした後、部屋の中に入ってくる。テオは自分の部屋の如く中でくつろいでいた。
「全く、ジンがここに来てから話題が絶えないよ」
テオは出だしにそう言う。そういえばまだ小さい子なのにこんなところにいて大丈夫なのだろうか。身なり的に結構くらいが高そうなのだが、実はテオを探していてここにいたから、お前打首な。とか言う展開になったりしないだろうか。オレはいやな予感がするとテオに親について聞いてみた。
「そうだ!テオ、お前の親はこんなとこにいて心配しないのか?」
それを聞くとハッとしたような顔をして立ち上がる。
「あっ!そうだった!ここにいるってことはお母様がもう事態は終息させたってことだもんね。じゃあ僕がもう探す必要もないんだね!」
どうやら当初の目的はオレを探すことにあったようだった。オレは気になったのでそのことについて聞いてみた。
「オレを探してたのって、マルタ様だけじゃなかったんだ!」
「そうだね。ボクとお母様が世界樹から話を聞いて探してたんだ」
「ふーん・・・えっ、お母様」
オレは一瞬思考がフリーズした。今お母様って言ったか?まずは文脈的に考えよう。そこでなんでお母様って言葉が出るのか。まず、テオの話から探していたのはお母様とテオの二人だけ・・・そして、オレを探していた人は・・・マルタ様。
本当はすぐにわかっていたのだが思考が遠回りをした。そして遠回りをしていても行きたく先は同じだった。線と線、点と点が繋がる。オレは恐る恐るテオに聞いてみた。
「もしかして・・・マルタ様ってテオのお母さん?」
「そうだけど・・・」
( ・・・子供いるんかーい。)
オレはうなだれる。オレはマルタ様にもう既に夫がいて、家族円満な食卓でマルタ様が微笑んでいる姿を想像する。そうだよな、あんなに美人なんだ。それにここは異世界だ。結婚していてもなんら不思議ではなかった。しかし、オレへのダメージはでかい。オレはこの世の中終わりみたいな顔をした。その様子にはテオも気づいたようでこちらを気遣いだす。
「これは・・・確かに今日は色々あったし、疲れているんかな?じゃあ、僕も迷惑がかからないうちに退散するよ」
テオは気を使ってくれたようだ。子供なのに対応は紳士だった。テオは扉を開けて帰っていく。その背中は子供なのに大きく感じた。扉がゆっくりと閉まるとテオの姿はここから見えなくなった。
「・・・」
「ちょっと、何ですか!」
扉の向こう側で何か話し声が聞こえる。何か言い合いをしているのか?オレがそのままでいるとその声がしてまもなく扉が開く。そこには金髪で長髪の髪を束ねた男のエルフがいた。
「え?誰?」
知らないやつが訪ねてきたのだ。当然こんな反応にもなろう。扉が開き切ったのちそのエルフの男は喋りだした。
「お前がヒナタジンか」
「そうだが・・・」
それはその問いに答える。オレが答えるや否やエルフの男は手を突き出した。そして言葉を放つ。
『ウィンドブラスター』
オレに向けて魔法が放たれた。
人物紹介①
名前 テオ
種族 ドライアド
ガブリエルの受胎告知を受けたマルタによって産まれた子供。受胎告知によって産まれたため、別に父親がいるわけではないので日向迅の認識は少し間違っている。受胎告知は一人で子供を作る秘技であり、本来男がいないドライアドに使用したことにより、本来はいないはずである男のドライアドが産まれた。そのことが神の介入を証拠づける一助になった。マルタはテオをすごく可愛がっている。




