狂人は島の縮小を止めたい
よろしくお願いします
「満潮か!」
緊急事態ですっかり忘れていた。そうか、満潮はあるよな。だが、呑気にしている場合ではない。
もたもたしているうちにわたしの活動可能領域は狭まっているのだから。
「直径でざっと5メートルくらいか」
一番高い場所でも海抜が高いわけではない。何もしなければ陸地は消えることになるだろう。
「他に移ろうにもどこにも島なんて見えないんだよな」
と言っても今から島の標高を上げるなんて出来ないのだが。
「地球温暖化最終形態だなって、あれ?」
そんな変なことを言っているとなにかふわふわしたものが浮いているのを発見した。
「いつのまにこんなもの・・・、いや違う。目を凝らしたら大量にいる」
島の中にも外にもふわふわしたものがいたるところに漂っている。
「存在を認識してから突然見えるようになった。
なんなんだ。これは」
むし?いや違うか?そもそもこんな大量に近くに突然現れたりしない。
不思議現象はまだまだ続く。
「ふわふわが地面に染み込んだ途端に地面ができた」
なんだあれは!
わたしは驚愕したがすぐ現実に戻る。
冷静になり分析する。
(あれが何回も起これば陸地を確保できるのではないか)
わたしはもう一度この現象が起ってくれと願うように観察する。
(おこれー)
わたしが強く願った瞬間わたしの目の前の何もない空中で土の玉ができた。
「わたしは非科学的なものは信じない派だったが、わたしの目は非科学的なものを信じる派閥のようだ」
わたしは目では確かめたが起きたことが信じられなかった。すでに異世界にいる時点で言えることではないのだが。
「砂の球ではないここにはこんな土なんて見当たらなかったのに。無から有を生み出した?まさかこれは」
「『魔法』か?」
もしかしたら魔法なのかもしれない。実に不思議だ。本来なら今すぐ研究したいところだが、今は緊急だからな。
『土を生成しろ』
わたしは強く念じ土を高く積み上げ続ける。そしてあるところで体に異変が起きる。
「体に激痛がっ」
痛い。苦しい。だが気を失う前になるべく高く土を積み上げる!
『土!』
『土!』
『土!』
『土!』
何度か唱えているうちにわたしは意識を手放した。
・・・
「ここは・・・」
気がついたら次の日になっていたようだ。どうやら満潮を乗り切ったらしい。
「しかし、まだ問題は山積みだな」
食料も水もない。だがわたしはまだ諦めていなかった。
(無から有が生み出せる魔法なら・・・)
わたしはこのとき決意した。魔法を研究して生き残ると。
こうしてわたしは魔法についての研究を始めた。
〈砂浜に書いたメモ〉
調べてみるとどうやらあのふわふわが原因らしい。どうにもあのふわふわにはどうやら不思議な力があるようだ。
そして不思議なことに大地を形成した新たな砂は無から現れているようだ。魔法が実在しないと説明出来ないような事態が起きている。
どうやらわたしは本当に異世界転移というものに遭遇したらしい。わたしはこの場で生きていかなければならない。
そのために魔法は助けになるかもしれない。もし叶うならこの邪魔するものがいない世界で存分に探究ができるように。
そのために魔法について研究していこうと思う。
「色々と魔法についてわかってきたかな」
『クリエイト:ウォーター、リーフ』
とりあえず水の確保と草の確保に成功した。草でも食べられれば問題ない。
領域を広げてながら魔法について調べているうちに色々なことがわかってきた。
「ふわふわのもの、魔素と定義された粒子はまだ大まかな定義はわかっていないが、何かを拍子に魔力というこれまでの4つの力にはなかった法則性を捻じ曲げる力を発するものなのかもしれない?」
魔力を発するために必要な外力はおそらくは人間の思念的な何かかもしれないな。
ただわたしが魔法を使うとき気分が悪くなるが時間経過で回復可能。
「魔素の発生源は魔素自身で植物の細胞分裂みたいに増えるところを確認したけど、ますます生命みたいだな。でも、生命ならわたしの培ったノウハウが活かせるか?」
今後高度な魔法を運用していく上でわたしが扱える魔素は圧倒的に足りない。ならば魔力に食べるためにはどうすればいいか考えなければ。
他に試せる生物もいないためわたしはわたしの体で実験する。
・・・
転機が起こったのは三年後だった。
土地は10メートル四方になり生活にも慣れ余裕も少しできた。そしてある結論に達した。
「魔素は他の魔素に干渉しない。正確には魔素は物質や概念に影響を与えるけど魔素が放った魔力が他の魔素が放った影響を受けないも言うことかな。魔力によりできたものは干渉するが魔力自体は干渉しない。いわゆる魔法で放った概念だけを置いていくと言うことか」
まあ、平たく言うと魔素は魔素に何もできないと言うことだ。
「魔素の性質を取り出して」
わたしはそれから研究して3ヶ月、ついに取り出すことに成功した。地球の頃の研究の成果がなければ成し遂げることはできなかっただろう。
そしてその一ヶ月後、念入りな準備の末とうとう取り掛かる。
「魔法とわたしの知識を組み合わせ自分が魔素を受け入れる土壌を作る。光合成を持った動物をつくるような感覚だ。自分に魔素の性質を細胞を取り込ませる」
魔法だからな何か名前をつけてみよう。えーと
『生命進化』
そのとき、わたしは熱を発して光り始めた。変化を見届けわたしは眠りに落ちた。




