狂人vsポンコツ天使
ガブリエルは緊張のせいかは知らないが初めての言葉で見事に言葉を噛み散らしていた。
「はっ! しまった!」
ガブリエルは自身が言葉を噛んでしまったことに口を抑え、恥ずかしそうにしている。小さな声で自分の失態を自ら叱責しているがわたしの聴力は魔素への適応以後、とてつもなく強化されているからか、内容はわたしに丸聞こえだった。ただわたしの前にいるというのがわかっているからか、ガブリエルは顔が真っ赤になりながらもこちらの様子を窺うように見てくる。わたしは濁すように咳をするとガブリエルは慌てて話し始めた。ガブリエルはもう一度自己紹介を仕切り直す。
「ごめんなさい。こほん。改めまして、ボクの名前はガブリエル。我が君に使える熾天使。これからよろしく、我が君」
ガブリエルは自分なりにわたしに敬意を示してくれる。ガブリエルは片膝をついた状態で頭を下げ決してわたしへ頭を上げなかった。
「顔を上げてくれ」
わたしがそう命令して初めてガブリエルは自身の顔を上げた。
「はい、我が君」
顔を上げた影響かガブリエルの表情が鮮明に見え始める。わたしを見つめるその瞳は実にキラキラとした綺麗な瞳だった。ガブリエルはハキハキと嬉しそうに話すため長い間人とまともに話していないわたしにとって新鮮なものだった。
「その・・・我が君というのは・・・」
「もちろんボクの敬愛する創造主のことを言っているんだ」
ガブリエルの純粋な瞳からはわたしに対する感情がこれでもかというほど伝わってくる。その言葉に嘘はなかった。その純粋さから出てきた言葉はなんとも言えない魅力を放っていた。さらに容姿はその魅力をさらに増大させていた。わたしが一から考え尽くしただけある。
(きちんとわたしの造形通りに出来ているな)
作った通りに出来ている。ガブリエルの頭には天使の輪がありプラチナブロンドの長い髪はところどころはねている。顔は誰が見ても美人と思う顔立ちでぱっちりした紫の瞳にシュッとした鼻、そしてゆるいギザ歯、服は袖が短くスカートの丈が膝下くらいまであるメイド服だ。背中には翼を備えられていて、決して飾りではない。飛べる。翼なくても彼女の潜在的な魔法の才能ならば飛べるのだが、そこは翼があった方が外見が綺麗に纏まるということで美しさを優先した。
(一通りガブリエルの様子を見たあと特に問題は無さそうだ)
わたしは命令が来るまで静止しているガブリエルに対して初めての命令を下した。
「ガブリエル、君にはわたしと星との架け橋になってもらう。熾天使として君の部下である天使の統制を任せる」
「はい。我が君」
わたしはガブリエルに命令を下した後実験室を出ると建物の外に向かった。ガブリエルは言わずともわたしの後をついてくる。そして建物の外につくとわたしは『リリース』と唱える。わたしの魔法に呼応して天使の軍団が召喚された。
「ザッ」
召喚された天使たちは寸分の狂いもない動きでその場で跪いている。
「パァー」
ガブリエルはその光景に目を輝かせていた。
「すごい! 流石は我が君!」
わたしは天使の軍団を一瞥するとガブリエルに一言言い放つ。
「ガブリエル、これが君が統率し、束ねてもらう天使たちだ。できるか?」
わたしはガブリエルに問うと大きな返事が返ってくる。
「ボク、我が君の期待に添えるように頑張るよ!」
その目は子供の純粋な瞳のような澄んだ目をしていた。わたしはガブリエルの反応を見た後天使の軍団にも命令を告げる。
「君たちはガブリエルの指揮下で行動してもらう」
その言葉に天使たちはわたしに丁寧な返事を返す。わたしはそれに満足すると最後にガブリエルに一言告げる。
「何か困ったことがあったらわたしにいつでも相談してくれ」
その一言を告げたあと、わたしは研究所へ戻っていった。
・・・
あれから、わたしは研究所に戻り実験をしていた。
(これで完了だな。さてわたしは新たに生命を考えるとするか)
わたしは毎度のことながら創造の真っ最中であった。しかし、今日はどことなく筆が乗らなかった。
(んー。何かが足りない気がする)
実際に作ってみたはいいがどこか違う気がしてならなかった。
「ここを変えてみるか? いや。ここをこうすれば・・・でも何かが違う気がする」
そしてさらなるアイデアを求め、わたしは研究所の自室に向かっていた。
(そういえばこの前思いついたアイデアについて書き留めた中に面白いものがあったな・・・)
気分転換で違う動きをしたことが功を奏したのかわたしの中からインスピレーションが湧いてくる。わたしは早速、自室へ走り出し、書き留めた構造を手に取り、創造を仕上げていく。そのとき、自室の扉を叩く音が聞こえた。
「我が君ー!」
ドアが開かれた。ガブリエルだ。目がうるうるしている。
「どうしたんだ」
「我が君ー、ボクの天使の輪がなくなっちゃった
「えっ?」
どうやら、ガブリエルが地面に出っ張った石で転んだ時に輪っかが頭から消えたようである。
「ボクのアイデンティティがー!」
ガブリエルは険しい顔をしていた。そして涙を浮かべながらわたしに謝罪し始める。
「折角我が君がわたしに授けてくれたものなのに・・・我が君、ごめんなさい。処罰なら何でも煮るなり焼くなり好きにして」
まるでわたしのものを壊してしまったときのような反応だ。ただ、ガブリエルは一つ誤解をしているらしい。わたしは誤解を解いてやることにする。わたしはガブリエルの頭上に手をかざしてあるものを取り出す。
「ブワァン」
「はっ!」
わたしが手を近づけた途端、光の輪が今までの言動が嘘だったかの如く簡単に出現した。
「転んだ時に自動的に輪っかがしまわれたのだろう。そういう仕様になっている」
その様子を見てガブリエルの目が点になる。伊達にわたしのこれまでの成果を詰め込んでいない。天使の輪は収納機能もついていた。
「・・・まさか。無くなってなかったなんて・・・。よかった・・・。ありがとう。我が君ー」
どうやらわたしの作った機能を理解していなかったようだ。ガブリエルはホッとした様子を見せると、途端に翼をパタパタを揺らし始めた。わたしは翼に目がいくとガブリエルは恥ずかしそうに翼の動きを手で静止させる。
「あっ。・・・つい、嬉しくて。翼が勝手に・・・」
犬のように翼に感情が表れているようだ。ガブリエルを見ているとガブリエルは翼に感情が現れるのが恥ずかしかったのかお礼だけ言って立ち去ってしまった。
「わぁー恥ずかしー!」
部屋を出ていったガブリエルの声が廊下から響いてくる。その声は急激に遠ざかっていった。
「さて、これで用事は済んだな。大事でなくてよかった」
わたしは安心して自室の椅子に腰掛ける。書類を手に取ると中断していた作業を再開することにした。
「作ってみるか」
書類を手に取りわたしは実験室に向かった。
アイデアとなるものは書類に全て書き溜めてある。あとはそれを元に魔法で再現するだけだった。
「不老長樹木か」
今回創造するのは不老長樹木という木だ。ちなみにどのような効果を持つのかというのもお察しの通りだ。
(食べたら不老の力を授ける黄金の果実を生やす伝説の果実。それがこの植物のコンセプトだ)
この世界は魔法が使えるファンタジーな世界だ。ならば、ぶっ飛んだ能力のファンタジーな素材なりがあった方がいいだろう?
「個数はどうするか。伝説だからな。それなりに増えてしまったらまずいだろう。ならば数を減らして・・・」
わたしは最初に解き放つ目標個体数を推定する。ここが結構重要なところだった。生物は一匹惑星に解き放つだけでは増えない。ただそれは二匹解き放てばいいという話でもなかった。例えば卵から孵った数千匹の魚のうちが大人になるのは数匹しかいないとかいう話を聞いたことはないだろうか。それと同じだった。繁殖が可能である数を解き放つ。これが結構重要なのだ。
「百年に一度果実を実りクローンを作るように種を宿すようにしておこう。伝説の木だ。病気への耐性を最大限高めて、時代が変わっても対応できる選択肢を残しておくか。そうなると一本の木があるだけで増えることができるか。でも一本だけとなると切り倒されたり、山火事が起こったり何かがあったら終わりだな。各地に何本か転々と植えていくか」
この植物の果実は特別な力があるからな。果実の効果を知った者たちに自身を守らせることができれば、安定して繁殖を行えるようになるだろう。
『創造』
とりあえず試作品として一本だけ実体化させることにした。実体化された不老長樹木はキラキラに輝いている。特別な力を有していると一目でわかる外見をしていた。これは力作だな。
わたしが満足そうにしているとドタドタと走る音が聞こえてきた。どうやらこちらに向かってきているようだ。
「我が君〜」
ガブリエルだ。ガブリエルはわたしと不老長樹木を交互に見ながら唖然としている。
「発行してたから我が君がいる場所を突き止めることが・・・って何この植物」
どうやらガブリエルはわたしを探していたようだ。不老長樹木が目印となったようだが冷静になってこの植物が普通じゃない外見であることをツッコミ始めた。
「不老長樹木だ。不老にする果実が実る木だな」
「それは・・・すごい! って。今はそんなこと言ってる場合じゃなかった! 我が君! 今すぐ来て! やばいことが起こっちゃったの!」
ガブリエルはものすごく焦った表情をしていた。また問題が起こってしまったらしい。とりあえずわたしは何が起こったのかをガブリエルに問いただすことにした。前みたいに勘違いの可能性もあるわけだからな。
「まあまあ、落ち着いて。何があったのか話してくれないか?」
わたしが丁寧に問い詰めていくとガブリエルは何が起こったのか話してくれる。
「天界にテレポートしようと思って魔法を使おうとしたら。思いのほか魔素を込めすぎちゃったらしくて・・・その・・・穴が空いちゃったの」
ここの土地が穴が空いたぐらいなら、報告しなくてもいいのに律儀に報告してくれたようだ。
(どれどれ? 穴が空いたくらいなら治せ・・・)
わたしは万里眼で犯行現場を探す。その現場は案外早く見つかった。
「えっ?」
わたしは思わず声を漏らす。穴が空いたという状況はわたしの予想とは斜め上の方向な状況になっていた。わたしは恐る恐るガブリエルに確認を取る。
「ガブリエル・・・もしかして穴って、地面に穴を開けたわけじゃない?」
わたしは見たままのことを話す。ガブリエルは涙目になりながら白状する。
「空間に穴が空いちゃって。ボクたちではどうしようもできなくなっちゃったの・・・」
「・・・」
わたしは無言のまま考える。
(今回は勘違いではなさそうだ)
完全にわたしが出動する事案だった。わたしの反応にガブリエルは萎縮する。翼も垂れ下がっていた。わたしはすかさずフォローを入れることにした。
「とりあえず怪我がなくてよかった」
(ガブリエルに怪我がない時点でおそらくは魔素の破壊の力で空間を壊してしまったのだろう)
性分なのか色々と推測してしまったがまだ問題が解決したわけではない。わたしは早速本題の解決に取り掛かることにした。




