狂人は自分を顧みない
わたしはダンジョンの最終調整をしていたがどうにも手が付かずにいた。その原因はガブリエルである。
(んー、ガブリエルに仕事を任したはいいが、きちんとやれているだろうか)
これまでの行動を見ると少し危なっかしいところがある。問題がなければ良いが。
それから数時間
「やはりどうにも作業に手がつかない」
(これでは作業もできないな。いっそのことガブリエルがきちんと仕事できているか見てみるか)
わたしは万里眼を発動する。
『万里眼』
そこを見るとちょうどガブリエルがスクロールを与えているところだった。
「おお、しっかりやれているな」
ここまでは順調だ。さて、あとは帰るだけか・・・って何してんだ!
(あれは・・・受胎告知?確か子供を性交渉なしで一人で妊娠させる能力だったよな。何をしているんだ)
ガブリエルの行動理由がわからない。わたしはアカシック・レコードで何でこれをしようとしたのか探る。魔法の対象者とガブリエルの行動を読み解いていく。
「原因と考えられるのはこれか?ガブリエルの最後に見た大図書館の資料の一部。今回魔法のスクロールの被験者になったドライアドの絶滅危機についてか。これは確か精霊種にしたことで精霊として近辺の精霊と繁殖できないかと狙った奴だったか。あれからドライアドの数は・・・現在は一人だけ!もしかしてそれでガブリエルは・・・」
しかしドライアドはどうして繁殖しなかったんだ? その疑問を解消すべく、わたしはアカシック・レコードをさらに展開する。
ドライアド
深刻な絶滅危機に瀕している。現在の生き残りは一人だけ確認される。ここまで少なくなった原因としてキマ教があげられる。キマ教はもともとドライアドが信仰していたものを各地に渡り歩いて広めたものであり、今では広く四つほどの大陸に普及している。しかし、キマ教の教義に「神に使えるものは身を清めよ」と言うものがあり、つまりそれは神官が繁殖行為そのものを禁止するということでありキマ教を各地に広める行為をする彼女たちはまさにこの対象だった。結果的に時が経つにつれて寿命やさまざまな要因でなくなり、現在は巫女である個体名『マルタ』だけが生き残っている。
なるほど、キマ教はドライアドが元となったわけか。しかし、わたしは教義も何も言ってないのに教義あるとは不思議なものだ。わたしはそのことを推測する。
(わたしがドライアドの一人にあげた (ちょうど最後の一人のドライアドが持っていた) 称号「キマの加護」から神が手助けしたと思ったということか)
わたしは偶然にもキマ教の誕生理由を知るのだった。
「思いもよらずキマ教の誕生秘話が明らかになってしまった・・・」
奇妙なものだ。しかし、話は逸れたが本題はガブリエルの件だ。
「流石に勝手に子供作るのはやりすぎだよな・・・」
倫理的にアウトである。まあやってしまったことはもうどうにもならないが・・・。
(とりあえず、あの二人をここに呼ぶか)
これはしっかりと正さないといけないな。
補足 なおキマは実験で生命を色々と弄んできたので完全にブーメランである。そもそもキマが同じような思考を持っているから何をしようと思ったのか推測できたのである。
・・・
わたしの連絡を受け、ガブリエルとガブリエルの副官であるハミンはすぐにこちらにやってきた。ドアの前でノックが聞こえる。わたしは入るよう促す。わたしの部屋に入ってきたハミンは深刻そうな面持ちだった。どうやらわたしが何で呼び出したか検討はついているようだ。一方ガブリエルはというと笑顔だ。ハミンはガブリエルを見ると咄嗟に頭をガシッと掴み自分と一緒に下げさせた。
「本当に申し訳ございませんでした」
わたしに向かってハミンは、ガブリエルの頭を抑え、深々と下げている。
とりあえずわたしは頭を上げるように言い、本題に入る。わたしがガブリエルに受胎告知の件を注意するとガブリエルは顔が青くなり笑顔が消える。話が終わりガブリエルは話し出した。
「すみませんでした。ドライアドが絶滅しそうっていうことを聞いて「受胎告知」を使ってしまいました」
やはりか。アカシック・レコードで大体予想できていたがと言うことらしい。いやはや、自分もそれを見たらわたしも頭にその考えはよぎるだろうが、なぜそれをやろうという考えに至るのか。一般常識で考えたら「受胎告知」が常識じゃないから語れないが常識的に考えたら生活にいろいろ影響があるし、どうなるかわかってないみたいだな。
「しかしハミンは何が悪かったのか気づいていたのにガブリエルは気が付かないとはな。ガブリエルは他とは生まれ方が特殊だしその影響か何かで人類の価値観と大きな差ができてしまったか?」
これは結構な問題だな。じゃあこの問題を解決するにはどうしたらいいか。わたしは考えながら、今度はハミンに話を聞いてみる。
「ハミン、君はガブリエルのストッパーをしていると聞き及んだのだが事前にこのことをやると知っていたのか?」
ハミンは当時の状況や現地でのガブリエルの行動を間近で見ていたはずだ。何か事前に違和感を感じてもおかしくない。わたしがハミンに尋ねるとハミンは返答する。
「すみません。わたしはガブリエル様との情報共有が不足しておりました。主神様全てはわたしの責任です。どうかわたしに罰を・・・」
ということは、ガブリエルは素の倫理観でこれをやったのか。ハミンが自分が罰を全てかぶるというと重ねてガブリエルが口を挟んでくる
「いや、ハミンは何も悪いことなんてしてないよ。罰するならボクの方だよ」
どちらも自分のせいだと言うか。仲が良いものだ。
(倫理観を養う方法・・・)
わたしはその問題を考えていると突然方法が頭に浮かんできた。わたしは二人を見てその考えを実行に移すことに決める。二人が言ったように罰でも受けてもらおう。わたしは二人に向かって声をかける。
「二人の言い分はわかった。望み通り罰を与える。二人には地上に旅に出てもらう。ガブリエルは地上で人を知り、人の気持ちを学んでこい。ハミンはそれの付き添いをしてもらう。それをもってガブリエル、ハミンへの罰とする」
わたしはそう言うとガブリエルとハミンが返事をする
「了解です」
「かしこまりました」
・・・
わたしは二人が地上に行くために帰ると一旦一息つく。もしかしたら天界は地上と関わりがないから天使もガブリエルとハミンは比較的ましだったけど、ガブリエルのような倫理観の天使がいないとも限らない。
(もしこれが成功したら天使たちに交代で実施させるのもありだな)
そう思いを馳せるのだった。




