惑星の様子 side:ドライアド
ドライアド視点
わたしはドライアド。仲間と共に生まれて今は日向ぼっこでボーッとしながら過ごしている。光合成をして風にあおがれながら気ままに過ごす。
「かぜがきもちー」
何も考えずにただボーッとしているこれがわたしのライフスタイルだ。
「『ぐっ〜』なんか嫌な感じがする・・・」
わたしはただただ空虚な感覚を感じていた。本能的に何かが欠落しているような感覚がずっと付き纏っていた。生活における何かが足りなかったのだ。わたしは植物と会話をしてその足りない何かを探すが、満足するすべを見つけることはできなかった。
「やっぱり、お腹すいた・・・んっ? お腹空いたって何だろう?」
お腹すいたなんて言葉どこで覚えたのだろうか。いや、そもそもどういう意味だったか。
「ねえねえ、お腹空いたって何?」
わたしは周りにいる木々に聞く。木々を頼れば大体答えが返ってくる。だから聞く。
「わからない? 他の木に聞いてくれるの?」
こうして木々に噂は伝播し、巡り巡ってわたしに返ってくる。
「『ぐっ〜』・・・また・・・なんか嫌な気分・・・」
わたしが頭を支配する嫌な感覚に苛まれている最中、無数の木を通して、わたしの質問は返ってきた。
「それで・・・うんうん。食べたい? んー・・・わかんない!」
木々は『食べる』ついて教えてくれる。ただ自分には関係なさそうなことだった。こうやって聞かれても良くわからない答えが返ってくるも多々ある。
「ボー」
ちなみにドライアドはわたしの他にも存在している。わたしたちは他の植物とは違い、依代と呼ばれる樹木に埋まっている身体を呼び起こし、操作できる。体力を消耗するので好きに使うドライアドはいないけどわたしが前に使ったとき、近場のドライアドに会ったことがある。そもそも木々がいうにはこのあたりにしかドライアドはいないらしいけど。
「随分とガリガリだったなぁ」
なんか、みんな元気がなかった。
(みんなお腹すいたっていう状態なのかな)
ドライアドたちは木々に教えられたように風に揺られての気ままな生活を良しとしていた。
「でも・・・本当にそれでいいのかなぁ」
『グゥ〜』
「・・・」
このままでは駄目な気がする。身体を支配するモヤモヤな感情、その不快感がわたしを駆り立てる。ただしドライアドは普段それを使わない。わたしは依代を動かすことにした。依代を使い続けるとやがて光合成だけではエネルギーが足りなくなって枯れてしまう。ただわたしはその依代に何かあるのではないかと見ていた。
(依代にならもしかしたらわたしが感じる満ち足りていない部分があるかも?)
わたしは今の状況を抜け出すため新たな一歩を踏み出したのだ。わたしは依代を展開していく。樹木に埋まっていた依代はムクッと起き上がり、そして本体から分離する。歩くなんてこと何年振りか。歩き方も忘れてしまった。
(これが手・・・これが足・・・これが顔)
わたしは両手を見ると閉じたり開いたりして握る。そしてそれを自身の頭へと移動させ、視界を塞ぐ。何もかもが新しい感覚だった。わたしはまだおぼつかない足で一歩を踏み出す。
「おっと・・・」
歩きが初めてだからだろうか。わたしは最初の一歩はよろけてしまった。しかし、所詮は樹木の擬態だ。転ぶ直前にわたしは依代の足の部分は樹木となり、根のように地面にくぐり込ませることで体勢をキープした。
「ふぅ・・・危なかった」
わたしは痛い思いをせずに済んだと取り敢えず安堵の表情を浮かべる。
(根っこがないとこんなに立ちづらいんだね)
わたしはそうして次こそはと根を頼りにせず立ち上がっていくと足をプルプルとさせながらも歩き出した。周辺の木々はわたしの行動に驚いていた。さわさわと風で音を立て周囲の木々に噂を流していく。木々はどれも噂好きだ。木々は娯楽に飢えている。おそらく今のわたしの状況は飢えた木々たちの渇望を刺激するものだったみたいだ。
「もう。恥ずかしいって・・・」
木々の声を聞けるわたしにとってわたしの噂が広がることは少し恥ずかしいが歩きを止めることは決してなかった。
・・・
「この先はわたしの未踏の地」
そうしてわたしはわたしの本体の視界が届かない範囲まで拙い歩きで進めていった。ただそこには何か特別なものがあるわけでもなかった。
「同じ光景・・・木が嘘ついた」
わたしは噂好きの木々に文句を言う。確か木々の話ではわたしの本体から見えない外側には思いもよらない景色があると言われたのだ。でも・・・
「ものすごくでかい水溜まりとか木がないところとか寒い? かったり、暑い? ってやつもあるって言ってたのに!」
あるのは木だけ。わたしはそう指摘したら木々に笑われる。木々がいうには、もっと遠くにあるらしい。たかだか数歩離れた場所で見えるわけないと馬鹿にされた。
「うるさい! どうせ噂でしか聞いたことないくせに」
わたしは調子に乗っている木々たちに手痛い一言を喰らわせる。その効果は絶大だったようでわたしが言葉を放った後、森は静まり返った。




