6.悪役令嬢は闇属性をご所望する
召喚されたアリシアのもとに翌日、約束通りロードス王子が訪れに来た。本当に律儀な王子である(来なくていいのに)。何処かの王子のように軽薄さは感じられなかった。
「おはようございますロードス殿下。本日はどのようなご用でしょうか?」
「昨日、約束したからね。君の専属侍女が決まったから紹介しよう」
ロードス王子がそのように伝えると一人の侍女を紹介した。侍女はメイと言う名で平民出身であった。
それにしても昨日の今日とこんなに早く手配して下さるとは思いもしなかったためロードス殿下の誠意が伝わってくる。
「態々、こんなにも早く手配して頂きありがとうございます。本日は侍女のメイに色々と案内して頂きますのでロードス王子は公務に戻られては如何でしょうか?」
「今、丁度公務が片付いていてね。私も城内の案内にお供しよう」
(・・・・)
これ以上断るのは不自然になる。
アリシアは仕方がなくロードス王子と共に城内を移動する事にした。先ずは最初に私を召喚した魔法部隊の所に向かった。
「これはこれは聖女様、此度は私共の所に来て頂きありがとうございます。お覚えておりますでしょうか?召喚の儀の部屋でお会いしているのですが」
忘れるわけない。一人だけ違うローブを着ていた本人なのだから。
「召喚された時にお会い致しましたが挨拶出来ずすみませんでしたアリシアと申します」
「すみません。私はこの部隊の副隊長をしておりますフルーレと申します。あの時は突然の召喚です。驚天動地の中で挨拶どころではなかったでしょう。寧ろこちらが挨拶せずに申し訳ございませんでした」
「いいえ。それと私の事を聖女様と呼ばれるのは止めて頂けないでしょうか?私は召喚されただけで聖女など荷が重すぎます。あまりに重荷を背負わされますと流石に逃げ出したくなってしまいます」
「其れは申し訳御座いませんせい・・・アリシア様。以後気をつけます。ちょっとお待ち下さいね。レイドス隊長!アリシア様が来られましたよ」
「俺はいい、お前に任せる」
レイドス・ハルバード。
ハルバード伯爵家三男であるけど、魔力がスバ抜けて優れていたため魔法の道に進むとその優秀さにより王族魔法部隊の隊長を任される事となった。この国の二大英雄の一人とされている。小説ではアリシアの能力をいち早く見破りシンシアを害する行為を悉く潰した人物である。アリシアはレイドスの事を要注意人物と認識した。
「しょうがないなー。あの人人付き合いが苦手でして。それで本日はどう致しましたか?」
「ええ。今日は城内の案内と共に能力について教えて頂きたく思いましてお伺い致しました。先触れもなく突然のお伺いに申し訳ございません。ですが、ビスマルク陛下より能力を携わった事を教えて頂いた事で気になってしまい来てしまいました」
実は能力についてアリシアは知っている。アリシアの能力は『等価交換』であった。アリシアが得たものに等しく与える事が出来る能力である。得るものと与えるものが同じである必要はない。変換すれば良いだけなのだ。あくまでもアリシアが等しいと思う事が大事であった。何故、アリシアが既に知っているのか、小説の中でも書かれていたからであった。。だけど、既に能力を知っていることを知られれば皆が疑う。特にあのレイドスがいるからには慎重にならなくてはいけなかった
「それはそれは、能力ですね。先ずはこの『神樹の葉』に魔力を注ぎますと系統別に葉が変化致します。例えますとこのように葉が焦げると『炎』の属性となります。お試しになって見ますか?」
まさに小説の通りであった。そして小説では神樹の葉が神々しく光出したことで『光』の属性と判断された。誰もがその時に一人の魔道師が体調を悪くした事に気付く事なく。
だけど、私は聖女を回避するため違う結果をもたらせる。神樹の葉はボロボロに枯れてしまったのだ。これは『闇』の属性の効果であり闇の属性は魔物が多く所有している属性であった。
「闇属性・・・」
(ふふん♪闇属性と知ってショックを受けているわね。其もそうね聖女とは真逆の属性だものね)
「どういう事かしら?」
知っているくせに惚ける私。
動揺していたロードス王子や魔道師達はアリシアを心配させまいと優しく説明してきた。
「こ、これは珍しい属性です。大変に希少な属性のため研究データが少なく能力の判明に時間がかかってしまうかもしれません。ですが私共魔導師一同早くアリシア様の能力が解るよう協力していきますのでご安心下さい。」
既に能力を知っているため何だか申し訳なく感じてしまう。
小説の世界では室内にいた魔道師の生命力を神樹の葉に与えていた。生命力を『等価交換』したのである。小説の世界では私達が部屋から出た後に魔道師が倒れたと書かれていたけどその後どうなったか解らない。
だが、小説の中のアリシアは悪意をもって行ったのではない。知らずして行ってしまったのだ。だけど私は既に能力を知っている。そのため効果を逆にした。
神樹の葉の生命力を吸収したことにより葉は枯れさせ、数人の魔道師の身体能力を強化させた。変換による等価交換である。たった一人を強化すると体の異変に気付かれてしまう。其れに強化し過ぎると体が壊れてしまう恐れがあるため複数に付与した。
魔道師の身体能力が上がっても誰も気付くことはなくアリシアの能力は闇の属性と認識されたのであった。
闇属性と認定されれば聖女と言われなくなるだろうとアリシアの策略は成功したかのように思えたが一人の魔道師が気付いていた。
レイドス・ハルバードである。
─ レイドス・ハルバード ─
私は召喚の義に反対であった。異世界から召喚するのは勝手だが、その者がいた世界でその者が消えた事で生じる不利益について誰が責任を負えるのだろうか?
だが、反対する私に王家は遠方の任務を命じ、その間に部下のフルーレが儀式を行ってしまった。
アイツは俺と違い嫡男だ。俺と違って好き勝手な事は出来ない。だから責めるつもりはない。今日一日こき使う事で許してやろう。
件の令嬢が魔法部隊に顔を出す。件の令嬢は突然に呼び出されたにもかかわらずやけに落ち着いている。何かが可笑しいと件の令嬢を遠目から見ていたら面白いことが起きた。令嬢が属性調査をしたところ神樹の葉が枯れてしまった。これだけ見れば闇属性のように思えるが神樹の葉が枯れるだけではなく同時に周辺にいる魔道師に可笑しな魔力の流れを感じた。
「フルーレ!そこの荷物を持ってみろ?」
「えっ!これですか?」
それは、騎士のような鍛えた者ならば簡単に持ち上げられるであろうが魔道師のような細腕では難しく思えた。だが、隊長の指示であったため渋々荷物を持って見るとフルーレは驚く。。
何と簡単に持ち上げる事が出来たのである。
「どういう事ですか?」
魔道師に生じた魔力の流れは身体能力が付与された事が解った。神樹の葉の力を魔道師に付与した。此は明らかに特殊能力である。しかも件の令嬢は既に自身の能力がどう言ったものか知っているらしい。
レイドスの顔が歪む。
「面白い・・・」
そのようなやり取りがあった事を知らないアリシアが次に訪れたのは書斎室であった。アリシアは小説で書かれている事しか知らない。そのため、ここに来れば小説外の知識が得られると思ったからである。
そして小説の話が事実ならばこの先にあの令嬢がいるはずである。
書庫の扉を開けると中には既に一人の令嬢がいた。アリシアは彼女の顔を見るのは初めてであったがアリシアは彼女の事を知っている。
彼女はロードス王子の幼馴染みであり、この小説の主人公でもあるシンシア・フローレンスであった。