4.悪役令嬢はいなくなる①
第一王子の婚約者であるアリシア・ローデンブルクが姿を眩ませた事でカントール国は大騒ぎとなっていた。
─ ローデンブルク公爵家 ─
「アリシアが消えた?」
「はい。私が会場に着いた頃には姉はまだ着いておりませんでした。姉が着いた際に側にいたユーザックが会場の前で突然に姿が消えたなどとよく解らない事を言われておりまして」
「ユーザックと共謀して姿を眩ましたと言う事か?」
「その可能性があるとユーザックは現在取り調べ中なのですが、ユーザックの他にもお姉さんがパーティー会場に向かう姿を見掛けておりますので彼が嘘を言っているようにも思えません」
「では、何処に行ったと言うのだ!」
アリシアの父であるリガルドは机を叩き大きな声を上げたが、朝から娘の様子が可笑しかった事を思い出す。
ロイドの右手にはアリシアの除籍の紙が握られたままであった。
今日のパーティーでアリシアが断罪される事をロイドから知らされていた。アリシアに限って何かの間違いであると思っていたがロイドから罪状を聞かされ庇う事が難しい事が解った。ローデンブルク公爵家としては公爵家の被害を最小限にするためにもアリシアを除籍するしかなかった。私は何故そこまで放置していたのかとロイドを叱責し除籍の書類を書きロイドに持たせた。
だが、朝の様子から娘は断罪される事を解っていたかのようであった。最後に交わした娘との会話も思い出すと最後の別れのような会話であった。
今回の娘の姿が消えた事は娘の計画だったと言う事か?
其にしては部屋の荷物はそのままだ。
取りあえず、リガルドは現実としてあるのが、
・娘アリシアが消えたと言うこと
・娘アリシアが断罪されなかったと言うこと
・娘アリシアを除籍していないと言うこと
であった。
─ ロイド・ローデンブルク ─
姉は優しく美しかった。
だが、ハミルトン第一王子の婚約者になると王妃の教育として日々勉強となり私と一緒にいる時間がなくなり、私は今の姉が大嫌いになった。
姉がハミルトン第一王子と親しくしている令嬢を苛めているとしり、このまま行けば婚約が破棄となり昔の姉に戻るのではないかと思ってしまった。
だが、ハミルトン第一王子から聞かされたのは断罪し離島で強制労働を課すと言うものであった。
姉がいなくなる?
もし、早く姉を諌めていたらこうなることはなかったのではないのか?
私は父リガルド公爵に相談すると激しく殴られた。この状況は父を持ってしても手遅れであった。
更に姉アリシアを除籍しなければならないと言う事を知らされ自分の愚かな考えが起こした結末に愕然とした。
断罪当日の朝、姉の様子が可笑しかった。私がつまらないことでも突っ掛かっていっても何時もは優しく返してくれていたのがこの日は違った。
パーティーのパートナーとしてハミルトン王子は来ない事はロイドは知っていた。なので、自分が代わりのパートナーとしてエスコートする事になるだろうと準備をしていたところ姉は既に出たと言う。
私は理解した。この日より私は姉に拒絶されたのだ。
多分であるが、今日のパーティーで断罪される事をどこかで知ったのだろう。其に自分も加わっていることにも。もう姉でなくなる姉。
落ち着いた頃に離島に行けば会ってくれるだろうか・・・
だが、その思いは叶わず、パーティー会場に行っても姉に会うことが出来なかった。姉と最後にあったのが、話したのが朝食の時が最後となってしまった。
姉の失踪によりパーティーは中止となり父から渡された姉の除籍の書類をそのまま持ち帰る事にした。
私に残った現実は姉がいなくなったと言う事であった。
─ ユーザック・ストロング ─
皆の気持ちは解るユーザックであった。
突然に目の前から姿が消えたなど誰が信じるであろうと。
ユーザックはパーティーが中止となったがそのまま衛兵に尋問される事となった。どんなに尋問されてもユーザックの主張は変わらない。そのためこのまま尋問が続くのかと思ったが、朝明ける前に解放された。彼女とすれ違った者達が皆が彼女の事を覚えており私の供述に嘘がないことが解ったからだ。
ユーザックは解放されストロング家への向かう馬車の中で思っていた。
(俺はアリシア・ローデンブルクの護衛騎士であるが騎士道としてアリシア令嬢がリーファを害そうとする事が我慢ならない。だから私はアリシア令嬢がリーファを害さないようリーファを護衛する事にしたのだ。
リーファはただ真面目に学園の業務をこなしているだけだ。それを嫉妬して害そうとするのは間違っている。これは俺の正義だ。だが・・・)
ユーザックは思った。
パーティー会場で読み上げた『貫通罪』と言う言葉を。
もしアリシア令嬢の手紙が正しければハミルトン王子とリーファ令嬢はアリシア令嬢を裏切っていたことにある。ならば被害者はアリシア令嬢でありアリシア令嬢が苦言を言うのは間違っていないのではと思う。
ユーザックの正義は歪んでしまっていた。
ユーザックに残されたのは護衛対象であった令嬢を護衛せず、護衛対象者の令嬢の婚約者を寝取った令嬢を護衛していたと言う事実であった。
そしてこの事実が世間に知られる事となる。
─ カントール国王室 ─
「ハミルトンよ理由を述べよ」
我が父が目を薄く開けハミルトン王子を睨み付ける。ハミルトン王子はその眼光の鋭さに体に震えを覚えた。
「私はリーファ令嬢を害そうとするアリシアに度々叱責したのですがアリシアは態度を改める事がなくリーファ令嬢が階段から落ちると言う事件が起き我慢の限界となりあのパーティーで断罪するつもりでした」
「それがアリシア令嬢を疎かしした理由か?」
「疎かなど・・」
「しているじゃないですか兄上。学園では何時も例の男爵令嬢と一緒でアリシア様と一緒にいたところを私は見たことがありません。学園の皆からも本当の婚約者は男爵令嬢なのでは言われていた知っていたはずです。その声をよしとしたのが兄上で、よしとしなかったのが姉上では?私としては王家の者としてその声をよしとする兄上の方がどうかしていると思うけど?」
「そ、それは・・・」
一歳年下のアズベルト第二王子が私に歯向かってきた。アズベルトは学園での私の行動に注意を促さしてきた一人であった。昔は私に懐いていたが、学園に入ってから弟は私を軽蔑するような目で見ていた。
「皆は解っていない。アリシアは人を害そうとした。私は彼女が王家の妻となる器ではないと考え婚約破棄をするつもりであった」
「皆の前でか?」
「・・・」
「ねぇハミルトン?貴女がアリシアさんの事をそのように思い婚約破棄をする思いに至った事は解ったわ。でも、あの場でする必要はあったの?彼女は貴女のために一生懸命王妃教育を受け一生懸命外交も行って来たわ。その思いを無視してまでそうする必要があったの?」
確かにあの場で何故断罪しようと思ったのだろうか?あの時の私はあれが必要な事と思っていた。
「確かに母上の申します通り断罪の仕方にもう少し考慮すべきだったかと思います」
「ハミルトンよ。この次の会議で今回の件を扱うこととなった。お主は暫く自室から出ることを禁ずる」
この日よりハミルトン第一王子は謹慎処分を父上の国王陛下から申し付けられた。
(何故俺が・・・)