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2.悪役令嬢は召喚され姿を消す

アリシアは全ての手紙を書き終えた。

後は所定の場所に持っていくだけであった。

断罪されるパーティーにはまだ時間があるため手紙を渡す時間はある。アリシアは急げと早めに公爵家を出ることにした。

尚、ハミルトンは迎えに来ることはない。


「アリシアよ、お前はパーティーの時間も理解できていないのか?だから貴様は・・・」


出掛けようとするアリシアを玄関先で呼び止めたのは父のローデンブルク公爵であった。本当に最後の最後まで不愉快にさせる男であった。


「寄りたい所があるので早めに出掛けたいと思います」


「ハミルトン殿下は来られないようだからパートナーとしてロイドと一緒に行け。今、ロイドを呼んで・・・」


「いらないわ」


「なに?」


「ロイドも大嫌いな姉と一緒にいても嫌でしょ。私も最後くらいは一人でゆっくりしたいから邪魔なのよ」


今まで歯向かう事をしなかった娘が初めて公爵に歯向かった。公爵はそんな娘に怒りを覚え拳に力が入る。


「アリシア、貴様は私に歯向かうのか!」


「お父様らしき方にお願いがあります。どうせ捨てるつもりの道具なのですからほっといて下さいませ」


「なっ!」


「最後に1つ聞きたいのですが貴方が毎晩のように傷付けた背中の傷を誰かに見られては不味いとは思わなかったのですか?こんな傷をお作りになって本当に私を未来の王妃にするつもりがあったのですか?」


「・・・」


「こんな事に即答も出来ないなんて情けない。未来の王妃を傷付ける事が貴方が誇りに思う公爵としての行動だったのかと聞いているのに、その問いに答えられないとは残念です」


「・・・」


「お話がないようなのでそれでは」


アリシア、渾身のカテーシーを父に向け行い馬車に乗る。普通は家族にカテーシーなど行わない。だが、アリシアにとってローデンブルク公爵家は家族ではなかったのでカテーシーで別れの挨拶を行った。


幾つか寄り道をした事でパーティーが始まる時間となった。アリシアはパーティー会場に着く。アリシアが断罪され公爵令嬢でなくなる場所だ。いざ、目の前にすると頭では解っていてもなかなか一歩踏み出す勇気が出て来ない。


(駄目ね。これから起こることを知っているだけに余計に怖じ気づいてしまっているわ)


アリシアは自信の手で顔を叩き勇気を震い立たせ一歩前に足を踏み出し始めた。

少し足を進めると一人の男がアリシアが来るの待っていた。


「ロイドから貴様が早く出たと聞かされた時は逃げ出したかと思ったが良く逃げずに来たな」


この者は信じられないだろうが私の護衛役で騎士団に所属しているストロング伯爵家三男ユーザックである。だが、今ではこの者もリーファ信者で私の護衛を行わずリーファの護衛をしている。護衛を任されている令嬢とは別の令嬢を護衛する事は騎士道としてどうなんだろうかとアリシアは思う。それにこの言葉使いだ。


「公爵令嬢が一人で来るとは憐れだな」


(貴方が其を言う?公爵令嬢を一人で行動させてもし何かあったら貴女に責任が及ぶ事を解っているのかしら?ましてや護衛対象への言葉使いや任務を無視して別の令嬢の護衛をするなど騎士失格よね)


「パーティー会場まで貴様が逃げないか見張っててやる」


「今更?護衛騎士なんだから当たり前でしょ?」


やっと気付いたのかアリシアの言葉にしどろもどろに言い訳をしている。


(馬鹿なのかしら。今頃になって気付くなんて。

まー、目の前の姿を見れば馬鹿丸出しなのは誰でも解るわね)


アリシアは、話しかけてくるユーザックを無視してパーティー会場に向かう。1つの手紙を握りしめながら。


(この手紙をハミルトンに投げつけてやるわ。此が私の最後の悪あがきよ!)


アリシアはそう思いながらパーティー会場への最後の曲がり角を曲がる。パーティー会場の扉が見えた・・・

途端に辺りの景色が歪み出し暗闇の世界に覆われていた。


(あれ?私、倒れたのかしら?小説にこんな話あったかしら?あ、少し明るくなってきた。)


徐々に明るくなり周辺の景色が見えて来るとアリシアは知らない部屋の中で魔方陣の上に座り込んでいた。そんなアリシアを数名のローブを被った者達が囲んでいた。ローブを被った者達は歓喜で騒いでいた。


「おお!聖女様の召喚の儀式が成功した!」


ローブを着た者達がそう叫んでいる。


(聖女?召喚?)


(あれ?)


(断罪は?)


「聖女様、突然にすみません。国王陛下がお待ちしておりますのでご一緒に宜しいでしょうか?」


一人色違いのローブを着た男が話し掛けてきた。一先ずは指示に従った方が良いかとアリシアは思い男と共に国王陛下が待つ場所へと向かった。


その頃、アリシアが消えたカントール国では・・・


─ ユーザック・ストロング ─


(俺は夢でも見ているのだろうか?)


パーティー会場への道、最後の角を曲がると会場の扉は目の前にある。

だが、そこに彼女の姿はなかった。

ユーザックが彼女の言葉で動揺していたが、角を曲がる前は確かに彼女の姿を捉えていた。曲がった一瞬の間に彼女は消えた事でユーザックの脳は何があったか処理が出来ず呆然としていた。

少し時が経ちユーザックは動き出す。

ユーザックは会場前の扉の前に立っている者に聞いても見ていないと言う。

彼女は公爵家令嬢だ。第一王子の婚約者でもあった。そんな彼女を貴族であれば知らない者などいない。だが、誰も見ていないと言う。

ユーザックは右往左往しながらアリシアを探すが姿はない。ふと気付くと床に一通の手紙が落ちていた。

宛名はハミルトン第一王子で差出人はアリシア公爵令嬢であった。

ユーザックはアリシア公爵令嬢を見つけることが出来ず一人でパーティー会場の扉を開ける。


「ユーザックどうした?アリシアを迎えに行ったのではないのか?」


「それが・・・」


ハミルトン王子の問い掛けにユーザックは何て答えれば良いのか試行錯誤する。パーティー会場に既に来ている卒業生達は『迎えに行くのは貴方の役目では』とハミルトンの隣にいるリーファ男爵令嬢を見ながら呟く。

その呟きはハミルトン王子に届かないよう呟かれたためハミルトン王子はユーザックに問い掛け続けた。


「どうしたのだユーザック?」


「それが・・・会場の門の前まで一緒だったのですが最後の角を曲がると姿は消えており一通の手紙だけが落ちておりました」


「何を行っているのだ?」


ハミルトン王子が理解できないのも仕方がない。説明したユーザックも理解出来ないのだから。だけどこれが真実であった。曲がり角からパーティー会場の門までは完全に密閉されており、人が逃げる場所などないのだ。だが、アリシア令嬢の姿は消えた。

ユーザックの言っている事が理解できず腹が立ったハミルトン王子であったが、一通の手紙が気になって仕方がない。


「手紙には何て書いてある。読んでみろ!」


「いや、しかし・・・」


「いいから早く読め!」


「はい。『私が悪女なら貴方は好色王子だわ。私が断罪されると共に貴方も貫通罪で問われるべきよ』」


遠慮していた割には大きな声で読み上げたユーザックにより手紙の内容が会場内にいる全員が知るものとなった。

『貫通罪』・・・此はハミルトン王子が婚約者であるアリシア以外の女性と夜の関係をもった事を表していた。パーティー参加者はハミルトン王子とリーファ令嬢を好奇な目で見る。


「な、貴様ら私をそのような目で見ることは『不敬罪』に問うぞ!警備兵、今すぐアリシアを見付け出し私の元に連れてくるのだ!」


パーティー会場の警備兵やハミルトンの護衛の騎士が総出で探すが見つからない。パーティー会場に入って行くのは見たと言う証言は得られたが会場を建物を出ていくのを見たものはいなかった。

最早、卒業パーティーどころではなかった。卒業パーティーは『第一王子婚約者の公爵令嬢失踪』と言う大きな事件により中止を余儀なくされた。小説にはない展開である。


尚、この件以降、ハミルトン王子の事を好色王子と貴族の間で言われるようなった。そしてとある出来事から好色王子との渾名は世間にも知らしめる事となった。

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