1.悪役令嬢は思い出すのが遅すぎた
(ここは!?)
・・・
(私、まだベッドの上なのね。そうか~死ねなかったか~。取り敢えず目を覚ました事を看護婦さんに伝えるかな。)
私は看護婦に目を覚ました事を伝えようと枕の所にあると思われるナースコールのボタンを押そうとしたがいつもある場所にそのようなボタンは見当たらなかった。
(あれ?ボタン何処かしら・・・
て言うか、何この豪華なベッドは何?しかも個室って!?其にこの大きさってVIPルーム!?病院にもあるって噂でしか聞いた事なかったけど本当にあるのね。それにしてもお父さんかなり無理したんじゃないかな。でもどうしよう?喉も乾いて来たから看護婦さんどうにか呼べないかしら)
私はランプの光で照らされた室内を見渡すと水差しを見つけることが出来た。
私は看護婦を呼ぶことを諦め自分で飲もうとベッドから出る。病室にしては豪華過ぎる室内については取りあえず後回し。先ずはこの乾いた喉を潤したく水差しに向かって歩く。
そして途中にある鏡に映った自分の顔を見て全てを思い出した。
(私はアリシア・・・ローデンブルク!?)
(嘘でしょ・・・ちょっと待って・・・)
自分の記憶から『アリシア』『ローデンブルク公爵』『婚約者ハミルトン第一王子』『カントール王国』と甦るワードに私は心当たりがあった。
ここは・・・
小説『断罪は花のように』の世界と同じであった。
私はこの世界が小説の中の世界であることを理解した。恐らく私はあの時亡くなったのだと思う。そして、この世界に生まれ変わったようだ。
(だとしても・・・なぜ・・・アリシア・ローデンブルクなのよ!)
私は前世でこの小説を読んだことがある。
前世の私、水上加奈子は生まれた頃から心臓に病を抱えていた。医師には10歳まで生きる事は難しいとされていたが両親の愛によって20歳まで生きる事が出来た。
いや、それ以上生きる事も可能だったが私は両親にもう迷惑を掛けたくなく生きることを諦めてしまった。
死ぬ前にこの小説を何時もお世話になっている看護婦に貸した。看護婦も小説が好きだと教えて貰っていたからだ。
私の趣味も小説を読む事であった。
と言うか生まれてからずっと体を動かす事が出来ない私は小説の主人公を自分に置き換えて想像しながら読むのが楽しかった。
そして『断罪は花のように』はその中で大好きな小説の1つであった。そのため内容はよく覚えている。
アリシア・ローデンブルクの婚約者であるカントール国第一王子ハミルトン・カントールとは其なりに仲良く過ごしていた。
が、その仲は学園に通うようになってから徐々に悪くなっていった。その要因がこの物語の主人公であるオーウッド男爵家令嬢リーファ・オーウッドであった。
リーファ・オーウッドは優秀で偶然にハミルトンと出会う。生徒会長であるハミルトンは生徒会の人員を探していたところリーファの優秀さを見抜き生徒会の会計・書記としてスカウトする。そしてリーファ令嬢はそんなハミルトンの期待に応えていった。
暫くすると生徒会として働く二人は仲間として以上に仲が良い事にありしあは気付く。それを面白く思わなかったアリシアはリーファに再三注意するもその都度ハミルトンに叱責されていた。
徐々にアリシアの行動が悪化していった事でハミルトンが我慢の限界を向かえ、とうとう卒業パーティーでアリシアは断罪され婚約破棄されてしまう。
そして最後は後日に行われるハミルトンとリーファの婚約パーティーで二人がダンスするシーンで話が終わるのだが、最後の最後に付け足したかのように書かれていたのが『アリシアは平民として離島で強制労働を課せられていたため二人の前に現れる事はなかった』である。
離島での強制労働、この世界の者なら知っている。もって三年といわれている過酷な労働である事を。それを公爵令嬢がやらされるのだ未来はないと言っていい。
(よりによってアリシアに生まれ変わるなんて・・・しかも断罪が行われる卒業パーティーって明日じゃない。何でこのタイミングで思い出すのよ。
いや、ちょっと待って!もしかしたら私、無実の罪かもしれないわ。確か罪状は・・・)
(リーファへの暴力・・・確かに叩いた記憶があるわ。)
(リーファの私物破壊・・・机の上の物を凪払った時に壊れたかも。)
(リーファのドレスを汚す・・・苦言を申してた時に手が滑り掛けてしまったわね)
(リーファを階段から落とす・・・彼女の声が聞こえたので振り向いたら彼女とぶつかり彼女が階段から落ちたわね。)
・・・
(駄目ね。全て身に覚えがあるわ。何してるのよアリシア・ローデンブルク!此は平民として離島での強制労働決定ね。でも・・・)
アリシアは問われる罪状の全てが身に覚えがある事が解り膝から崩れ床に手を付き愕然とした。
だが、自分が行った行為により罪に問われる事の覚悟はした。が、そもそもが浮気をした婚約者が一番悪いと思う。しかも小説の話が正しければ婚約者の第一王子のハミルトンは男爵令嬢リーファと既に体の関係で結ばれていた。裏切られたのはアリシアなのにアリシアだけが悪役令嬢として裁かれるのが納得が行かなかった。
(断罪は免れる事はもう無理よね。でも・・・私だけが悪い訳じゃない。私がしっている秘密を全ての場所に暴露してやるわ)
アリシアは手紙を書くことにした。アリシアが最後に出来る事はそれしかなかったからだ。アリシアが持っている便箋は数枚しかなかったが取りあえずここにある便箋を全て使い終わる頃には夜が明けだしていた。だが、まだ書き足りない。どうしようかと考えていた所に
〔コン!コン!コン!〕
ドアをノックする音がする。するとドアを開けて入ってきたのは私の専属侍女であった。
「お嬢様、おはようございます」
「ええ、おはよう。手紙を書いていたのですが便箋が終ってしまいました。すみませんが便箋と封筒を持ってきて貰えるかしら?」
「畏まりました。お幾つ必要でしょうか?」
「そうね。多めに欲しいから出来るだけ持ってきて頂戴」
「解りました。お嬢様が朝食されている間にお部屋の方へご用意しておきます」
「宜しくお願いね」
アリシアは朝食に向かうと既に父と弟は席に着いていた。母親はアリシアが幼い頃に悪い病に罹りこの世を去っていた。アリシアにとって家族はこの二人しかいないが、それは戸籍上であって実際は家族ではなかった。
家族として扱って貰えなかったからだ。
そしてこの2人は既に知っている。アリシアが今日の卒業パーティーで断罪されると言う事を。
知っているにも関わらずこの2人はアリシアを助けようとは思わない。
それどころかアリシアの父であるローデンブルク公爵は公爵家まで罪が及ばないようにとアリシアの除籍書類を息子のロイドに持たせ断罪と共に除籍書類を役所に提出すると小説に書いてあった。
(この男らしいわね。この男にとってアリシアの事はどうでもいいのでしょうね)
公爵様が一番大事なのは爵位であり娘はそのための道具でしかなかった。だから壊れた道具は捨てるしかないのだ。
父からは愛情を向けられたことなど一度もない。それどころか日々私を叱責し罰と称して叩く。私で鬱憤を晴らす事が公爵の仕事だと思っている男であった。道具として婚約者させられ、道具として磨かれ、道具として使えなくなったから捨てられる。ただそれだけなのだ。
そんな事を考えていると日々傷つけられてきた背中の傷が疼く。
「姉さん、今日は随分と静かじゃないか。今日のパーティーが楽しみでしょうがないように思っていたのだけど」
話掛けて来たのは1つ下の弟ロイドであった。
本当に嫌味な弟である。
私が今日断罪されると知っておいて嫌味を言ってくる。
弟ロイドはリーファと同級生で仲が良い。
昔は姉さん、姉さん、懐いていたのがリーファと出会ってからは嫌味ばかり言われる。
「全然楽しみにしてないわよ。誰からも愛されていない私が何故楽しみにしないといけないのよ」
私の言葉に家族全員驚いている。
いや、家族だけではない。後ろに控えている侍女や執事も驚きアリシアを見つめている。
今更、何を驚くのか。公爵と言う会社の方針に応える事が出来ない私のクビを切るだけの関係でそこに家族も何もない。
「へ、へぇー皆から嫌われているの気付いていたんだ」
「ええ。私には何もないわ。婚約者も家族もね。だから無理して私に話し掛けなくていいのよ。まーそのうち顔も会わせることもなくなるのでしょうけど」
(ロイドも私の事が憎くて仕方がないのでしょうね。好きな女性が実の姉が苛めてた何て最悪よね。顔を会わせれば嫌みを言われるのも仕方がないのかもね)
そんな家族とも言えない者達と長くいても時間の無駄と思ったアリシアは食事も早く済ませ席をたった。アリシアの最後の言葉に反応した二人がアリシアを呼ぶ声が聞こえたが関係ないと無視してその場を跡にした。。アリシアには最後にやらなければいけない事があるためこれ以上二人に構っている暇がなかった。
部屋に戻ると手紙一式が用意されていた。