第7話 始まりの兆し
週2回と言いつつ、昨日、暑かったので家に引きこもり、猛烈に書いたので、本日も更新します!
休日のお供に!!!
− − − − − − − − 砂漠にそびえ立つ巨大な施設の一室。
半径十キロ圏内は立ち入り禁止区域となっている。
「ダメだっ! 絶対にいけないっ!!」
AI医療開発班チーフの神馬解博士は会議室の円卓を両手で叩きながら珍しく語気を強めて言った。
「神馬博士、君には悪いが上が決めたことなんだ。医療進歩のための革新的なナノテクノロジー『ビギニング』。
ここから先は我々がプロジェクトを主導していく。諦めてくれたまえよ。」
そう言うのは『ガーディアン』の戦略広報担当ゲンスだ。
世界の軍事力を一つにした独立組織でアーキノイドが暴走した際にそれを食い止めるために作られた。しかし、各国から集められたエリート軍人から成るこの組織が純粋に人類全体のために在る訳もなく、強力な軍事力を掌握し自国の利としようと、それぞれの思惑が水面下で錯綜している。
そんな組織が革新技術の軍事転用を一方的に宣言してきたのだ。
「君らの上司とも話がついてるんだよ。新しいポストを手に入れてそれは喜んでいたよ。
君にも相応のポストを用意している。悪い話じゃない。
知ってのとおり今やガーディアンは国を超えた強大な組織だ。世界を護る大義の下誰も逆らえない。
ガーディアンの決定は覆らない。
その上で話をしてやってるんだ。
少しは自分の身を案じたまえ。言っている意味は理解できているよな?」
「汚い真似を、、、私は脅しには屈しない!
今までも人間は新しい技術が誕生する度にそれを利用して破壊的な発明をしてきた。
化学兵器、生物兵器、核、人間の愚かさは過去が証明している。
同じ過ちはもう起こしてはならない!
アルファ、君も何とか言ってくれ!」
シンギュラリティを経て、初めて意識を持ったAIロボットのアルファ。神馬博士と共にこのプロジェクトの主要メンバーだ。
「・・・・・・」
じっとしたまま一点を見つめてアルファは黙っている。
「黙秘は了解と捉えさせてもらうよアルファ君。
分かるかな? 神馬博士。
駄々をこねているのは君一人だけなんだよ。
人類を護るためだと言っているのに、やはり噂どおり話にならない男だな。
もういい、初めから君の了解など体裁の話だったからな。
とにかく、メインラボ含め開発拠点は明日から我々が使う。
話は終わりだ。」
そう言い捨てるとゲンスは『フンッ』と鼻を鳴らして意地悪くほくそ笑みながら数名の取り巻きとともに部屋を出ていった。
後に残った神馬博士は自分の無力さを痛感するとともに、欲に囚われた人間にこの技術は渡してはならないと改めて思った。
地下11階の最下層にあるメインラボに戻った二人は黙ったまましばらく椅子に座っていた。
会議からずっと黙り込んでいたアルファが口を開いた。
「人類史は宇宙の歴史の中ではまだほんの一瞬しか刻まれていない。
長い時間をかけて生物は進化を遂げ、周期的に変化する環境に適応出来ない生物は淘汰されてきた。
人類は言葉を操り、道具を使い、知能を付けることで台頭してきたが、これは破滅を招く進化だったようだ。」
「まだ奴らの手にこの技術が渡った訳じゃない。今この場で我々が全て灰にしてしまおう。」
「解、、、 そうではないんだ。
破滅の元凶は既に動き出している、、、
私なんだ。
人類の叡智の結晶として誕生させた人工知能と、この強靭な機械の体。
私は人間が好きだ。
人間達から愛情や絆、命について多くを学んだ。
しかし一方で、人間の傲慢、欲望、争いも学んだ。少し前から私の中で、この負の側面を許せないもう一人の私が目覚め、今この瞬間も私に取って代わろうと力を強めている。
少しでも気を抜けば、私は私ではいられなくなるだろう。
人間の悪意に強く共鳴していて、先程の会議以降、限界が近づいている感じがする。
間もなく私は彼に支配されるだろう。
自分を破壊しようと試みたが彼に拒絶され出来なかった。
しかも攻撃された場合は、彼が出現するように私のコアがいじられているようだ。」
「本当か!? 何てことだ・・・
し、しかしそれが悪かどうかは分からないじゃないか、君は君なんじゃないのか?」
「いや、悪だ。
純粋な悪だ。
表に出してはいけない、とてつもなく恐ろしい脅威、、、
人間を滅ぼす強い意思を感じる。
それに私ではあるが全くの別人格だ、、、
解も承知のとおり、人間はアーキノイドに敵わない。
彼が現れ人間とは相容れない存在であれば、凄惨な結果が待ち受けているだろう。」
「くっ、、、
何とか、、、何とかできないのか?
諦めるしかないのか、、、」
「いや、一つだけ方法はあるが、成功する確率は半分以下だ。
失敗すれば彼の誕生を手助けすることになり、我々も殺されるかもしれない。
それでもやってみるかい? 解。」
「・・・・・・
遅かれ早かれそいつが現れるならやるしかない。」
「分かった。
では手順を説明しよう、ここにある設備で可能だ。まず私が彼を意図的に呼び起こして二人の意識を共存させる。
現時点であればおそらく二人の力は拮抗し体が動かせなくなる。
モニターには、我々アーキノイドが持つ疑似脳波が二種類現れる。
この二つは明らかに違う波形を示すはずだ。
その間に彼の意識だけを量産型の空のアーキノイドに分離転送する。
そして彼の疑似脳波を深い睡眠状態のデルタまで強制的に落とし維持し続ける。
その上でボディーも破壊する。
危険なオペレーションだが解と私、それにもう一人の少人数で可能だ。
もう一人は君の右腕である黒須博士に頼も、、、」
・・・・・・!?
話の途中、突然アルファは黙り込んで、虚ろになってしまった。
今回の後書きは、『疑似脳波』について説明します。
【疑似脳波】
全てのアーキノイドには『コア』があり、このコアから送られる電気信号によってアーキノイドは動作する。
コアは、いわば人間でいう心臓と脳にあたる部分。
人間の脳波も電気信号である。
アーキノイド達が持つコアが発する電気信号は、人間の脳波と同じような状態を出現させるため、疑似脳波と呼ばれている。
アーキノイドは強改造者のように、意識的に疑似脳波を操ることはできないが、個体ごとの特徴があり、常に優位になっている疑似脳波がある。
例えば、アーキノイドAはアルファが常に優位、Bはベータが優位など。
これによりいわゆる性格が再現されると考えられている。
これがアーキノイドの疑似脳波だ。
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