第4話 トラップ
薄暗がりの階段をくだった先にある特段おかしな様子もない防火扉。レイはその扉に近づき、開けようとドアノブに手をかけた。
「待つんだレイっ!」
ダムドが咄嗟にレイを制した。
「僅かだが金属が焼けた臭気が検知された。アーキノイドが開けようとした時に何か起きたと推測される。
ただの防火扉に見えるがスキャンを試みても遮断されてしまう。
アーキノイドが入れなかった理由がありそうだ。私が開けよう。
少し離れて。」
そう言ってレイを遠ざけると、自分も体一つ分だけ扉から離れた。そのまま右手を前に出すと、前腕に格納されていた長いアームが出てきてドアノブを掴んで回した。
ガオンッ!!
大きな音と共にアームが消し飛んだ。
ドアノブを握っていたアームの先だけが残って転がり落ち、切断面から焦げくさい臭いがする。
レイが「キャッ!」と声をあげたが予測の範疇だったダムドは冷静に解説を始めた。
「『ワームホール』を利用したトラップだ。
知っての通り『ワームホール』は、点と点を結んで瞬間移動を可能にする画期的な技術だ。
しかし、成功確率が低く開発中に技術者が施設ごと消し飛ぶ事故が多発したため開発が頓挫した。
おそらくこの技術を武器に転用したものだ。
更に、アーキノイドが建物の他の場所に穴を開けたりして強引に侵入を試みないところをみると、扉だけでなく、この廃墟全体にこういったトラップが仕掛けられていると考えて間違いないだろう。
何らかのアクションでワームホールが発動する仕組みだ。」
「危なかった、、、ダムドがいなかったら私も今頃消し飛んで手だけになってたわね。
はぁ、、、折角のチャンスなのに。何か方法はないかしら、、、」
「トラップがワームホールだとすると外からの侵入はどうやっても不可能だ、、、、、、
機械が作動するには動力源やそれを制御しているスイッチなどの装置が必ずある。
無論このトラップもそれらによって作動しているのは確かだ。
それを停止、または破壊することができれば侵入出来るのだが。」
「そうね、でもきっとこの中にあるのよね。
遠隔で外から操作ってのもあるだろうけど、ここの周りは砂地かアーキノイドが荒らした廃墟だけだし。」
「だとするとやはりお手上げだ。
残念だがアーキノイドが何とかした後に侵入するしかなさそうだ。」
「・・・待って! 私の能力で何とかなるかも。
『アンノウン』で装置を破壊するの、出来るか分からないけど・・・
あっ! でも肝心の装置がどこにあるか分からないか・・・」
レイも強改造者だ。
得意とする脳波はθ(シータ)。
デバイスは再生系。
骨格の中に特殊な液体金属『ネオメタル』が格納されておりこれを使って対象者のダメージを再生させることができる。
強改造者の中でもθ波を操れる者は一握りしかいない稀な存在である。
また、このネオメタルは強力な振動を発生させることができ、対象物に伝播させて破壊する。
この振動はとても強力ではあるものの人間にもアーキノイドにも感知さえすることができない。
これを『アンノウン』と呼んでいる。
レイの考えにダムドが返す。
「それなら私に任せてくれ。装置が中にあるならば何とかなるだろう。
もう一度ワームホールを発動させ電磁波が著しく変化する場所、すなわち装置の場所をサーチして特定する。
ワームホールが作動するにはそれなりの電力が必要になる。電力が発生すれば電磁波に変化がおこる。
それを利用する方法だ。
後はレイ、君にバトンタッチしよう。」
「上手くいきそう、私達二人の能力でバッチリね。」
「あー、では早速始めよう。」
ダムドはさっきとは逆の腕からアームを出してノブを握るとピタリと動かなくなった。
サーチを始めているのだ。
一気にノブを回す。
その瞬間、ワームホールが発動した。
ガオンッ!
アームが消し飛ぶ。
ダムドが何かに反応した。
「特定。」
そう言うとすぐに立体映像を映し出しレイに場所を示した。
「動力源はシンプルな電源コントロールユニットだ。そ
の中枢である制御チップを破壊すれば止めることができる。
地下11階の最下層、ここから更に8階下にあるがアンノウンは届くだろうか。」
「結構遠いわね、、、とにかくやってみる!」
そう言うとレイは深く深呼吸をついた。脳波を操るため精神を集中させる。
α(アルファ)からγ(ガンマ)まである脳波は、一種類が全体を占めるのではなく複数の波形が時々刻々と変化しながら出現している。
安静、覚醒、閉眼などその時の状態により占める割合が多く優勢となる波形があり、強改造者は自分の得意とする波形を優位に移行させることができる。
そして、その状態を維持・増幅し更に中枢神経に作用して意識を鮮明化させていくのがこめかみ辺りに埋め込んだアウェイカーの機能だ。
強改造者は、一般人に埋め込まれているガンマチップと違い、アーキノイドの支配下にないこのアウェイカーを改造時に装備している。
平時、アウェイカーの機能はリミッター(制限)がかけられているが、脳波の移行と同時にリミッターを解除する。
これで潜在能力が開放されるのだ。
「解除、、、」
レイがそう呟くと瞳から淡く青い光が漏れた。
脳波をθ優勢にしてリミッターを解除したのだ。
手の平にある小さな穴からネオメタルが生き物のように流れ出て両手を覆った。
レイは銀色になったその手をそっと床に付けた。
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