第38話 苦戦
爆壊が自分の体を見ると、砂鉄がデバイス部分を探すように纏わりついて、生き物のように蠢いていた。
新佐の言う通りオーバーズ達は、鍛え抜いたその強さ故に、体に占めるデバイス率が高くても耐え得る肉体と精神力を持つ。
爆壊も体の多くをデバイス化している。
「ふんっ、こんなもので俺の動きを封じたつもりか?」
爆壊はそう言って新佐に右手を向けた。
しかしその動きは明らかにぎこちなく、ギシギシと
音を立てているかのように滑らかさを欠いていた。
破裂音がバンッと響いて爆発が起こる。
「へへっ、遅いよっ! あんた爆発させる時何か飛ばしてるな? 小さい爆弾とか………」
新佐は得体の知れない爆発に探りを入れつつ、余裕で爆発をかいくぐると、爆壊の懐に飛び込んだ。
そして、がら空きになった右脇腹に渾身の拳を突き刺した。
ガキンッ!!
爆壊がぶっ飛ぶ。
「ガキンッって、どっからどこまでデバイス化してんのよ? もしかして全身?
痛ってー。こっちの手が痛いわ」
ぶっ飛んだ爆壊は何事もなかったかのようにムクリと起き上がった。
しかし、その動きは砂鉄の影響を受け、ままならない様子だ。
そしてまた両手をギギギっと新佐に向けようとした。
「ダメージなしってことね。じゃあ、もっとギアを上げてやるよ」
新佐は走りながら右手で地面の砂を引っ掻くと、そのまま爆壊に向けて投げ放った。
その砂の塊は爆壊に当たると、縄のような形になって両手を締め上げた。
その勢いのまま距離を詰め、打撃を繰り出そうとした瞬間、地面から吸い上げられるように砂鉄が舞い上がり、新佐の両腕と両足を覆いだした。
「メタルインパクトっ!」
しかもその砂鉄は、手足に密着しているのではなく、もの凄い速さで手足の周囲を回転しているのだ。
相手にしてみれば、高速で回転する鉄の塊で打たれるようなものだろう。
両手を封じられた爆壊は、後ろに飛び退き、新佐のメタルインパクトはすれすれで空を斬った。
距離を取ろうとする爆壊に向けて、新佐が左手を開いて突き出し、力強くグッと握った。
すると、爆壊が飛び退いた先の足下に小さな渦が現れて足を捉え固定した。
文字通り手も足も出なくなった爆壊に、新佐は容赦なく、砂鉄で強化されたメタルインパクトを浴びせた。
まさにサンドバッグ状態だ。
普通の物体であれば確実に形が残らないほどの物凄い連打が続く。
しかし、勝利が決まったと思われた新佐の様子がおかしい。
連打の速度が遅くなり肩で息をしている。
「クソッタレがっ! どんだけ硬いんだよっ」
激しい猛攻を受けているはずの爆壊は、やられながらも新佐をギロリと睨み、鼻血が少し出ている程度で、ダメージはないように見えた。
新佐の額に汗が滲む。
粒になって流れた汗が目に入り、まばたきをしてしまったその一瞬だった。
ドバンッ!! という物凄い音と共に爆壊の足を捉えている地面が大爆発を起こすと、その反動で、まるでロケットのように爆壊は上空に飛び上がった。
両手を締め上げていた砂鉄の縄も無理矢理千切られたようだ。
「おいおい嘘だろ? これじゃ大昔にあったレトロ玩具の「黒ひ〇危機一髪」じゃんかよ、笑えねえ」
そして小さくパパンッと破裂音をたてて、なんと上空で進路を変更した。
そして大きな爆発音がした瞬間、爆壊はミサイルのように頭から新佐に突っ込んできた。
「うおっ! 飛んできたっ!!」
意表を突いたまさかの特攻だったが、新佐は紙一重でなんとかかわした。
そのまま地面に激突するかと思いきや、小爆発を駆使して地面スレスレを後ろに飛んでいき、新佐めがけて急旋回した。
この間、爆壊は一度も着地していない。
信じ難いことに自動追尾のミサイルが如く飛び回っているのだ。
態勢の整わない新佐はこの追撃を避けられず、脇腹に直撃を食らってしまった。
「ぐふっ!!」
爆壊は新佐を頭に突き刺しながら、小爆発で再度上空に飛び上がると、今度は激しい爆発音を轟かせながら地面に向かって猛スピードで落下しはじめた。
「ぐぅおーーー! まずいぞーーっ!!」
「まさか飛び回るとは思わなかっただろ」
新佐は自分が落ちていく先をなんとか振り返り、その地面に手をかざすと、縦に細長い砂鉄の山がモリモリと盛り上がってきた。
少しでも衝撃を和らげようとしているのだろう。
砂鉄の山に当たると、ズドドドドドッと砂鉄を蹴散らし、地面に落ちた衝撃でクレーターを作ってようやく止まった。
砂埃の中から現れた新佐の胴体は見るも無残に千切れかけ、息も絶え絶えだった。
「お前、やはり危険過ぎるな。あの危機的な状況で普通反撃は思いつかないだろ」
そう言いながら、なんとか立ち上がった爆壊の動きは、壊れた人形のようにギクシャクして、もはや歩くのもままならなくなっていた。
ボロボロに破れてしまったフード付きローブから覗く体はやはり大部分がデバイス化されており、そこにはびっしりと黒い砂鉄が纏わりついていた。
新佐が墜落の寸前に作った砂鉄の山は、衝撃を和らげるためではなく、爆壊の動きを更に封じ込めるために砂鉄を浴びせかける反撃だったのだ。
新佐はヒューヒューと、か細い呼吸を繰り返しつつも、まだ諦めていなかった。
千切れてしまった胴体の傷口は砂鉄に覆われ止血されている。
自己再生も進み、あと少しで体を起こせそうだった。
爆壊は新佐にトドメを刺そうとしたが、思うように体を動かせず、腕すら上がらない。
そして、不機嫌そうに言った。
「あー、砂鉄を操るデバイス……… 初めて相対したが、もっと警戒すべきだった。
反省。
このままじゃトイレも行けないから仕方ないな。
しょうがない、見せてやるよ、オーバーシュートの先にある力をな………」




